特許を申請しても、すべてがパスするというものではありません。
申請が無駄にならないために絶対に知っておかなければならない5つのチェックポイントがあります。
特許申請の5つのチェックポイント+1は以下になり、今回は1、2、3を解説いたします。申請する上での必須の条件になりますので、ご参考にして頂ければと思います。
1. 産業上利用できる発明であること
2. 新規性があること
3. 進歩性があること
4. 実現性があること
5. ノウハウではないこと
6. おまけ(中小企業が特許を取るメリットとは)
以下、順番に説明していきたいと思います。
1.産業上利用できる発明であること
まず、発明が産業上利用できることが必要になります。 産業上利用できると言われても、何がなんだか分からないかと思います。
産業上利用できるものとは、ズバリ、「再現性があるか」否かが重要になります。
再現性がない → 量産できな → 産業上利用できない
ということになります。
産業上利用できる発明にならないものの例
例えば、産業上利用できる発明にならないものの例として、フォークボールの投げ方やプロレスの技などがあります。 また、宇宙の真理や、新しいゲームのルールなども産業上利用できる発明には該当しません。
フォークボールの投げ方やプロレスの技が特許の対象にならない理由は、それらについては、再現性が乏しいからです。
例えば、「プロ野球選手のフォークボールの投げ方」という特許があったとして、私を含む一般の方が、その特許出願書類を見ても、同じようにフォークボールを投げることができるというわけではありません。
再現性がない発明については、特許を与えても、誰も同じような効果が得られません。そのため、誰も実施・販売できないものであるため、産業を発達させるという特許法の趣旨からしても特許取得の対象にはできません。
また、再現性がない特許出願されることで公開される情報そのものの価値が乏しくなります。特許は、再現性がある新しい情報を開示するご褒美に国から与えられるものであるため、再現性がないと、そのご褒美に値しないという前提があるのですね・・
ビジネスモデル特許
ビジネスモデル特許についても、その処理に人間が介在したとたんに、再現性がなくなるため、特許取得の対象外となってしまいます。 なぜ、処理に人間が介在してはいけないかというと、その理由は、人間が介在すると再現性がなくなる可能性があるからです。 すわわち、ビジネスモデル特許にするためには、その処理をすべてPCなどのコンピュータが行わなければなりません。
再現性と言われると、難しいと考えられる方がいるかもしれませんが、そこは、人間ではなく、コンピュータが処理するという表現にすることで、クリアされるので大丈夫です。 コンピュータが、決められた手順通りに処理するという内容であれば再現性があるからです。
また、機器が処理をするということにさえすれば、ネイルサロンでの施術方法や、筋力トレーニング方法なども特許の対象になります。 筋力トレーニングについては、「加圧式トレーニング」も特許になっています。 これによって、加圧式トレーニングの運用会社は、長い間、そのメソッドを独占することに成功してきました。
人を治療する方法は発明に該当しない
なお、再現性があっても、人を治療する方法も発明には該当しません。 人を治療する方法に特許を与えてしまうと、医師の人命救助行為が特許権の侵害になってしまう可能性があるという理由で、産業上利用できない発明として特許化できないというルールになっています。
具体的には、特許権を侵害したくないという理由で、人命の救助ができないという状況になるのを防止するというためです。 なお、人ではなく動物を治療する方法については発明に該当します。ヨーロッパでは、動物を治療する方法についても、特許取得の対象外となっています。
次は、発明の新しさ(新規性および進歩性)について、ご説明いたします。
出願して拒絶される理由のほとんどが、次回に説明する発明の新しさに関するものです。 より確実に有効な権利を取得するためにとても大切なものになります。
2.新規性があること
新規性とは、ざっくり説明すると、発明が従来にないものであるかどうかということです。出願する発明には新しさが必要です。
そのため、これまでに知られた技術と全く同じものについては特許申請しても特許にできません。
例えば、エジソンが発明した電球について出願しても拒絶されてしまいます。 今や陳腐化した技術の電球に特許を付与してしまいますと、誰もが電球を使えなくなってしまい、社会が混乱してしまいます。このような理由から、すでに知られてしまった技術と同一のものには、特許を取得できません。
一方、LEDの技術についてはほんの数10年前なら特許化できる可能性がありました。
守秘義務のない人に知られると新規性がなくなる
新しく開発した技術であっても、守秘義務のない人に1人でも知られてしまうと、新規性がなくなって、原則として特許申請ができなくなります。
そのため、特許出願前に、製品を販売したり、製品のパンフレットを配布したり、製品をインターネット上に公開してしまうと、その発明については特許取得できなくなってしまいます。 ですので、特許出願前には、絶対に、上記の行為を控えなければなりません。 これから自社の新技術を守りたいという会社は特に注意が必要です。
一方で、出願前にHPに掲載したり、パンフレットを配布したりなどの公開行為をすることは、珍しくありません。その場合であっても、最初に公開行為をした日から6か月以内であれば、新規性喪失の例外という手続きをすることで、新規性を失わなかったことにできます。
構造がシンプルだったり、操作画面などのインターフェースに関する発明の場合、公開しただけで模倣されるリスクが高まるため、特に注意が必要です。
また、例えば、食品の成分や、作り方などに発明の特長があることがあります。 その場合は、製品の成分表を公開しない限りは、製品の完成品を公開してもその発明については新規性を喪失しない場合があります。 公開された成分の完成品を見ても、どのような成分で作られているかまでは分からないからです。
秘密保持契約を結んでおくことが必須
因みに、守秘義務のある人には何人知られても新規性を失うことはありません。例えば、同じ社内の人間であれば守秘義務があります。そのため、同じ社内の人間に新しく開発した技術が知られても新規性を失い、特許取得ができなくなるということにはなりません。
一方、上述したように、守秘義務のない方には、1人でも知られてしまった場合には新規性を喪失してしまいます。 そのため販売前に売り込み打診をする場合や、試作品の製作を依頼する場合には、秘密保持契約を結んでおくことが必須になります。 秘密保持契約を結んでいなかったことから、出願前の技術が拡散してしまっては、取返しのつかないことにもなりかねません。 発明が、新規性があるかどうかを調べるには、特許出願前の調査が有効です。
これまでご説明したように、出願する発明は、従来の技術と同じだと、新規性がなく、 出願しても特許として認められないからです。 そうなると、出願にかかった、数十万円もの費用は、すべて無駄になってしまいます。 一方で、出願前、過去にどのような発明が出願されているかを調査することで、 自分の発明が特許になるかどうかがある程度分かるようになります。
また、発明をどう改良すれば、特許になるかも分かります。 特許出願前に調査をすることで、出願費用が無駄になることを防止できるだけでなく、 発明が特許になる可能性を高めることができます。 出願前の調査は、以下のURLの特許情報プラットフォームで無料でできます !
参照 : 特許・実用新案テキスト検索
3.進歩性があること
まず、新規性の復習ですが、新規性とは、ざっくり説明すると、発明が従来にないものであるかどうかということです。出願する発明には新しさが要求されますが、これまでに出願された技術を少し変えれば、原則は新規性の要件は満たすことになります。
しかし、新規性の要件を満たした発明や技術のすべてに特許を付与してしまうと、従来の技術にほんの少し変更を加えただけのものも全て特許になってしまいます。 そうなってしまうと、世の中は特許だらけになってしまい、何をやるにしても特許権を侵害してしまい、ほとんどの会社が製品を販売できなくなるということにもなりかねません。 特許法は、産業の発達に寄与することを目的とした法律ですので、上記のような事態になってしまうのを防止するために、進歩性の要件が課されています。
進歩性は、簡単に説明すると従来技術を組み合わせ、組み合わせに意外性がない場合に該当します。 また、進歩性の判断には、組み合わせる者同士の作用、機能の共通性や、技術分野の共通性や、解決したい課題の共通性などが考慮されます。
進歩性がないと判断される例
例えば、 「船外機を設けた船」と「空中プロペラを設けた船」が従来技術として知られている場合、「船外機と空中プロペラの両方を設けた船」を特許出願して、従来の「船外機を設けた船」や「空中プロペラを設けた船」よりも推進力があることを主張しても、「進歩性」がないと判断される可能性が高いです。
また、以下のような場合に進歩性がないと判断されます。
・設計変更をしたもの
・発明の一部を置き換えたもの
「椅子の移動をスムーズにする」キャスターの技術を「机の移動をスムーズにする」キャスターの技術に応用して特許出願して、従来の机よりもスムーズに移動できるようにしたことを主張しても、単に、発明の一部の置き換えたものであるとして、進歩性がないと判断される可能性が高いです。
一方で、従来技術を組み合わせたものであっても、従来のものに比べて異質な効果や、際立って優れた効果があり、開発者がこれらの効果を予測できない場合は、進歩性があると判断されます。
先ほどの 「船外機を設けた船」と「空中プロペラを設けた船」、「椅子の移動をスムーズにする」キャスターの技術を例にすると下記のようになります。
机については、椅子と事情がことなり、作業中にスムーズに移動されると困る場合もあります。そのため、作業中には移動しないで固定されるような工夫の方が製品としての市場性はあると思われます。
進歩性を作りこむのも、動かなくするための工夫の方が作り込みやすいと思います。
このように、製品の特性に応じて発明の良さを作りこむ作業をすることで、進歩性を主張しやすくなり、特許取得率を高めることができるようになります。
まとめ
今回は、特許申請の条件のうち、とても大切な産業上利用可能・新規性・進歩性についてご説明させていただきました。 拒絶される発明の90%以上が産業上利用可能・新規性・進歩性がないことが理由となっています。
一方で、特許は単に取れればよいというものでありません。
より有効に活用できるものでなければならず、また、状況によっては出願せずにあえて秘密にしなければならない場合もあります。
次回は、出願書類の中身について特許申請の残りの条件について解説させていただきます。
ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
参照 : SHARES 弁理士 原田 貴史のページ