前回、特許申請はここを押さえるべき ! 5つのチェックポイント~前編では、特許申請の「産業上利用可能」「新規性があること」「進歩性があること」について解説いしました。
これまでの復習となりますが、特許申請の5つのチェックポイント+1は以下になります。
1. 産業上利用できる発明であること
2. 新規性があること
3. 進歩性があること
4. 実現性があること
5. ノウハウではないこと
6. おまけ(中小企業が特許を取るメリットとは)
今回は特許申請の「実現性があること」「ノウハウではないこと」「中小企業が特許を取るメリット」について解説いたします。
4.実現性について
「アイデアだけでも特許を取れるか」という質問を頂くことがあります。
結論から言いますと、アイデアの内容が実現可能なまで具体的になっていれば、実現性があり、特許を取れる可能性があります。
一方で、「こんなことできたらないいな」などのように、アイデアが単なる着想のみの場合には特許にはできません。
実現性とは、実際に特許製品が目的とする効果を達成できる程度に具体化されているかということです。
簡単にご説明すると、どらえもんに出てくる道具のようなものでは、特許にするのは不可能ということです。
どこでもドアの場合
例えば、どこでもドアを出願するには、ドアに行きたい場所(ドアを開けた先が繋がる空間)をどうやって認識させるかを具体的に説明しなければなりません。
また、ドアを開けた先を行きたい場所に繋げるための理論や理屈を具体的に説明する必要があり、これらを明確にして初めて、「行きたい場所に瞬時に行けるようになる」という発明の目的を達成できるからです。
タケコプターの場合
タケコプターは、「どうやって、空を飛ぶほどの浮力を発生させるのか」具体的にしなければなりません。飛んだ後に、飛行する方向をどうやって認識させ、プロペラを制御するかも明確にしなければなりません。
タケコプターを頭に固定する方法も具体的にしなければならないので、これらをすべて明確にすることで初めて「頭に取り付けるだけで、好きなように飛行できるようになる」という発明の目的を達成できるからです。
特許の対象になるには
具体的にといっても、商品の現物を用意するまで具体的にする必要はないのでそれほど難しくはありません。
何かやりたいことがあって、そのやりたいことを実現できるように内容を具体的にすれば十分です。
例えば、「机に置いても転げ落ちない鉛筆」というだけでは、やりたいことを表明しているだけなので、特許を取れません。 一方、転げ落ちないようにするするために、「鉛筆の横断面の形を六角形状」にしたなどを明確にすれば特許としての対象になります。
もちろん、特許としての対象になるだけでなく、従来の技術に対する違いを明確にしなければなりませんが、そのあたり、知財担当者や、弁理士を交えて、発明を育成することでクリアすることができるようになります。
5.ノウハウではないこと
開発の現場では、情報を開示することを恐れられる場合もあります。 これについては、特許にすべき技術(コア技術)と、出願すべきでないノウハウ(例えば、製品の検査方法や、金型の作り方など)との使い分けが大切です。
特許にすべき技術の特徴と、ノウハウの特徴は、ざっくり説明すると、以下になります。
・製品として出荷されると、機能が知られてしまい、競合から模倣される(つまり、出願しなくても、情報が開示される)。
・競合が製品を模倣(模倣製品を発売)すると、特許権侵害していることが分かる(権利行使しやすい)。
・製品として出荷しても、技術内容が、他者に知られない。
・競合が製品を模倣しても、特許権侵害しているか、分かりにくい(権利行使は、非現実的)。
ノウハウは、出願すると情報を開示してしまうわりに、侵害されても発見が容易でなく、権利化するメリットに乏しいため、出願すべきではありません。
つまり、自社技術は、なんでもかんでも、出願すれば良いという訳ではなく、ノウハウと、特許との使い分けは、極めて重要なテーマです。
ノウハウの例
ノウハウの例としては、金型についてのものなどがあります。
金型は、模倣されても、本当にその金型が使用されたのかが分かりません。
これを確かめるには実際に工場に入らなければならなくなり、それが現実的ではないということは分かると思います。
つまり、金型について特許出願をして権利化したといしても、真似をされても特許権の行使は難しいということになります。
他の例としましては、コカ・コーラの製造方法などがあります。
最終製品のコカ・コーラを飲んでも、本当に、その製造方法を用いているかは確認することが難しいです。
一方で、最終製品のコカ・コーラが販売されたとしても、同じ味を作ることは難しく、仮に権利化しなくても、模倣されにくいという性質があります。このように、そもそも模倣されにくく、模倣されたとしても、特許権の侵害を立証することが困難であるため、特許権を取得するメリットに乏しいということになります。
6. おまけ(中小企業が特許を取るメリットとは)
中小企業が特許を取得するメリットは以下になります。
(1)収益面のメリット
特許を取得すると、市場を独占できるようになります。
すなわち、他人が自分の特許製品を販売した場合に「やめろ ! 」といえるようになります。
仮に特許を持っていない場合、他社の市場参入を許してしまいます。 そうなると、どうなるでしょうか ?
他社は、開発費を投入していないため(模倣しているため)、安い値段で販売できるようになります。 同じ製品だったら、値段が安いものが選ばれますよね ?
その結果、売上が下がります。また、売るために自社製品の販売価格を下げなければならず、その結果として利益率が下がります。
最悪の場合、せっかくあらたな製品を開発したのに、開発費すら回収できなくなる自体になります。 実際に、2009年中小企業白書には、特許を保有していない中小製造業よりも、特許を保有している中小製造業の方が、売り上げが131%高いというデータがあります。
売上とは直接関係ありませんが、特許を取得することで、市場を独占できるため、自社技術の将来性や事業の安定性を主張しやすくなり、資金調達しやすくなったり、ものづくり補助金の採択を受けやすくなるというメリットがあります。
(2)取引先との関係でのメリット
特許を取得するだけでなく、特許を出願の準備をするだけでも、メリットがあります。
例えば、私のクライアントの中には、特許の出願の検討をしていることを説明しただけで、大手企業とのアライアンスを実現したという実例があります。
また、1部上場企業とのアライアンスに特許取得が条件となっているケースもありました。このケースでは出願から2か月で特許取得を果たし、最終的には1部上場企業とのアライアンスにこぎつけることができました。
さらに、特許権を取得することで、特許庁という行政庁から、その技術がお墨付きを貰うため、さらに取引先から信用度を増すことができます。
弊所のクライアントでも特許を出願しているということが決め手となり、5000万円の案件を2件受注したという例もあります。
(3)社内との関係
特許を取得することで、ある中小企業では、若手社員が「自社の技術は世界で唯一無二なんだ」と実感し、モチベーションが向上したという実例があります。
また、社員が、自社技術や自社製品にプライドを持つようになったという事例も過去にはあるようです。 2009年の中小企業白書によると、特許を持っている中小企業の売り上げは持っていない企業よりも131%高いというデータがあるほど、特許は、中小企業にとって有効なビジネスツールです。
中小企業の方には、ぜひ、努力の結晶である新製品・新技術の特許化をご検討いただければと思います。
まとめ
前回と今回にわたって特許申請のチェックポイントについて解説しましたが、いかがでしたか ? 特許申請をお考えの方は悩む前に、専門家に相談することをおすすめいたします。
ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
参照 : SHARES 弁理士 原田貴史のページ