商標登録という手続きは、法律上自分ですることもできます。
それでは、商標登録を弁理士に依頼するメリットは何なのでしょうか ?
また、もし自分で商標登録をするならば、どういう点を注意しなければならないのでしょうか ?
今号では弁理士に商標登録の手続きを依頼するメリットについてご紹介いたします。
自分で商標登録をするのは危険なのか
「商標登録は自分でできそうだけど…」と思う方もいると思います。
そこで自分で商標登録をすることは危険なのか ? 下記4つの項目で確認してまいりましょう。
(1) 自分で商標登録をする人は、初心者が多い
私の周りでも「自分で商標登録した」という方はたまにいらっしゃいますが、そういう方を見ていますと、そのほとんどが「初めて商標登録する方」だと気がつきました。私からすると、これはちょっと不思議なことだと思いました。
なぜなら、初めて商標登録するときが、最も商標登録についての理解が浅い時ですので、初めての商標登録こそ専門家を頼りたいと考えるのが自然な気がしたからです。しかし、どうもそうではないということがわかりました。
一方で、毎年何件も商標登録していて、商標登録についてよく理解しているスタッフがいる商標登録に慣れている会社の場合、「自分で商標登録する」という会社はあまり見たことがありません。
(2) 商標登録の難しさを知っている人が、弁理士に依頼する
それでは、なぜ、毎年何件も商標登録をしていて商標登録のことをよくわかっている会社が必ず弁理士を使うのでしょうか ?
それは、「商標登録の難しさ」を理解しているからだと思います。
逆に、初めて商標登録をする方が自分で商標登録をするのは、端的に、「商標登録になりさえすれば良いから、なるべく安くすませたい」という考えだと思います。
このように、商標登録というものを「誰がやっても同じ」と見る方がいるというのは、悪い意味では、私たち弁理士の怠慢であるのかもしれませんし、良い意味では、特許庁の努力によりお役所への手続きがユーザーフレンドリーになった結果かもしれません。
(3) 自分で商標登録するのは、自分で保険に入るのと似ている
私は、よく例え話として、商標登録は「保険に似ている」とご説明します。
そして、自分で商標登録の手続きをするのは、例えば、難しい法人保険の手続きを自分でするのと似ています。
自分で手続きをしても(審査に落ちなければ)保険に入ることはできると思いますが、その保険の内容は本当に適切でしょうか ?
残念ながら、最適でないばかりか、いざというときに全く役に立たない保険に入っている可能性もあります。商標登録に慣れていない方が自分で商標登録をするというのは、そういうリスクをはらんでいるのです。
(4) 一番怖いのは、「商標登録しているから大丈夫」と思い込むこと
私が弁理士をやっていてとても危険だと思うのは、自分で商標登録をして、「商標登録しているから大丈夫」と思い込むことです。これも、保険に例えると、保証内容を知らずに、「保険に入っているから大丈夫」と思い込むことに似ています。
私は、まだ新米だった頃に、自分で商標登録をした方の案件を中途受任し、商標権が完璧だと見誤って、それはそれは恐ろしい目にあったことがあります。完璧だと思った商標権に小さな穴があり、それを知った同業者にそこを突かれ、商標登録出願をされたのです。
私もそれに気がついて翌日に穴を埋める商標登録出願をしましたが、あちらの対応が非常に早く、「同日出願」という非常に面倒な状況になりました。
商標登録で難しいところとは
ここでは「商標登録で難しいところ」についてご説明いたします。
(1) 商標登録って難しいですか ? とよく聞かれます
この質問への回答として、商標登録の手続きに慣れている弁理士からしてみると、商標登録の事務作業自体はそれほど膨大な作業量が発生するものではありません。
それでは、商標登録の難しい部分は何でしょうか ?
なぜ、商標登録に慣れている、年に何件も商標登録する会社は、弁理士に商標登録を依頼するのでしょうか ?
(2) 類似範囲まで調査しなくてはならない
商標登録の難しいところの代表的なものとして、「商標調査」があります。
これは、誰でも使える特許庁のデータベースを使いますので、みなさんが自分で調査することもできます。
ただし、一つ難しいことがありまして、商標調査は、同一の商標だけでなく、類似の商標まで調査しなければならないということです。
例えば、次のようなものは、審査で類似の商標とされる可能性があります。
● スターバックスとスターバックスコーヒー
● スターバックスとスターバクス
● スターバックスとスターブックス
● スターバックスとスター・バックス
● 東装とTOSO
上のものは、比較的「類似と判断される可能性が高い」ものですが、審査官が使用している商標審査基準では、もっと厳しい類似の基準が書かれています。
私は、自分のセミナーで「商標調査の仕方」も教えていますが、教えて簡単にできるものでもないなあ、と常々思います。ワードにもよりますが、一般の方が自分で十分な商標調査をするのは、けっこう難しいようです。
(3) 区分の選択は弁理士でも難しい
次に、難しいものとしてあげられるのが、「区分の選択」(指定商品役務の書き方)です。
区分の選択は、その方の業種、業態によって、難しさがかなり異なります。
ざっくり言いますと、典型的で伝統的な業種ほど、区分の選択が簡単で、新しい業種ほど区分の選択が難しい傾向にあります。
典型的で伝統的な業種の代表例は、飲食店、ホテルなどがあります。
一方で、今まで世の中になかった商品を扱っている会社は区分の選択が難しいことが多いです。
あとは、IT企業などの商標登録の場合、区分の選択や記載の仕方が難しい傾向にあります。
(4) 一つのビジネスが複数の区分にまたがることがある
区分の選択の難しいところは、一つのビジネスが、複数の区分にまたがることがある点です。
例えば、アパレルの会社であれば、衣類、タオル、バッグは、それぞれ別の区分にあります。
コンサルタント会社であれば、経営に関するコンサルティングと、経営に関するセミナーの開催などは、それぞれ別の区分にあります。
さらに、同じ区分にあっても、お互いに違う類似群に属する場合もあります。
例えば、第41類の「知識の教授」と「セミナーの開催」は、それぞれ類似しませんので、両方権利を取らなくてはなりません。
他には、第41類の音楽の演奏と作曲など、この例は挙げればきりがありません。
とても危ないのは、「うちの事業内容ドンピシャ」のものが見つかって、「これだけ書けばOK ! 」と思ってしまうことだと思います。
(5) ITを用いたビジネスの区分は難しい
最近では、いわゆる「IT企業」以外も、ITやインターネットを用いたビジネスをすることが多くなって来ました。こういう場合は、注意が必要です。
例えば、英会話アプリを作っている会社は、英会話教育の分野とアプリケーションの分野、2区分を抑えることを検討します。
他にも第42類のウェブサイトの保守管理とか、第38類の通信関係とか、検討しなければならない関連区分が多数存在します。自分の事業が「英会話教育」だからといって、そこだけでを抑えたのでは足りない場合があるので注意しましょう。
商標登録はどの弁理士に頼んでも同じなのか
さて、ここまでは「自分で商標登録できる ? 」というテーマで、商標登録のどんなところが難しいのかを解説して来ました。
ここからは少し角度を変えて、弁理士を使う場合に、「誰に依頼しても同じなのか ? 」というお話をしたいと思います。といっても、同業者の批判をするようなことはできませんので、あくまでも中立の立場で、なるべく現状に即して書いていきたいと思います。
(1) 弁理士の分け方とは
「商標」に強い弁理士と「特許」に強い弁理士、「大企業」に強い弁理士と「中小企業」に強い弁理士、弁理士は大雑把にこの4つに分類されると思います。
現在の弁理士試験合格者の統計では、8割以上が理工系の大学出身です。
それはなぜかと言いますと、弁理士の花形業務は商標登録ではなく、科学技術を扱う特許申請だからです。
そういう理由で、多くの弁理士はどちらかというと商標よりも特許をやりたくて弁理士になっています。ですから、商標専門の弁理士よりは特許専門の弁理士の方が多いです。ここに、一つ注意しなければなりません。
さて、特許専門の弁理士に依頼してもきちんと商標登録してくれる場合は多いですが、ここでさらに注意しなくてはならないことがあります。
それは、特許専門の弁理士は、どちらかというと大企業をメインクライアントにしていることが多く、初めて商標登録をするような小さな会社をクライアントにする経験は少ない場合が多いことです。
これは、そういう弁理士が悪いという意味ではありません。ただ、注意しなくてはならないのは、大企業のクライアントとばかり接している弁理士は、初めて商標登録するような小さい企業の方が、どれだけ商標登録という制度について疎いかを知らない場合が多いということです。ですから、初心者向けの説明は、あまり上手くない場合がありますし、どうしても、クライアントにある程度知識があるという前提で接してしまう傾向にあると思います。
(2) 提案する弁理士とそうでない弁理士について
弁理士には大きく2タイプがいるように思います。企業の担当者が「こういう商標をこういう区分で出したいんです」といったら、素直に「はい、わかりました」と言ってそのまま手続きする弁理士と、「こうした方が良いんじゃないですか ? 」と提案してくる弁理士です。
しつこいようですが、これは弁理士の腕の良し悪しの問題ではありません。
仕事のスタンスだと思って頂ければと思います。どちらが良いかは、クライアント次第となります。
ただ、商標登録に慣れていなくて、きちんと説明してほしい企業さんの場合は、やはり、しっかり提案してくれる弁理士を選ぶべきと思います。これを見極めるのは難しいですが、試しに、その弁理士と一度話してみましょう。
クライアント一人当たりにどれくらい時間をかけてくれるのかな、という観点で選別してみると良いかもしれません。
まとめ
弁理士に商標登録の手続きを依頼するメリットについてご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか ?
これから初めて商標登録をしようと考えている方は、自分でやるか、弁理士に依頼するか、弁理士に依頼するとしてもどの弁理士を選んだら良いのか、迷われている方のご参考になれば幸いです。
私どもアイリンク国際特許商標事務所は、商標登録に関するご相談は無料です。
ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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