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商標登録は本当に必要なのか
まずはじめに、「商標」という言葉ですがデジタル大辞泉には「事業者が自己の取り扱う商品・役務(サービス)を他人の商品・役務と識別するために、商品について使用する文字・図形・記号などの標識」とあります(商標法には別な定義がありますが分かりにくいのでこの記事では触れません)。
具体的には、「NVIDIA」のような会社名であったり、「GeForce」のような商品名であったりします。「商標」とはこのようなものですから、事業を行うのであれば誰でも商標を使っていることになります。
商標登録をしますと、商標権が発生し一定の場合に相手方の商標の使用差し止めや損害賠償を求めることができます。商標権は、権利者が望む限り(10年ごとの更新が必要ですが)永久に存続させるこができ、効力が日本全国に及ぶ強力な権利です。
中小企業様や個人事業主の商標登録
しかし、「商標登録をしていますか ? 」ときかれて「はい」と答える方はどれだけいらっしゃるでしょうか。
大企業様はともかく中小企業様や個人事業主の方はほとんど商標登録をされていないのが現状ではないでしょうか。
多くの方が商標登録をしない理由ですが、第1に、法律上必須ではないということがあります。商標登録をしなくても会社を設立することができますし、商品を販売したりサービスを提供したりすることができます。商標登録をする「義務」はありません。
第2に、登録することなく商標を使用して事業を行ってもトラブルがないことが多いという事実があります。たとえば、私の叔父は秋田の田舎で酒屋をやっておりました。おそらく、全国には同じ店名の酒屋が多数あるのですが、何ら不都合無く長年商売を続けておりました。また、弁理士として商標登録をおすすめしても「俺は30年この屋号で商売をしているけど、何も問題ないからいらないよ」といった答えが返ってくることも多くあります。
第3に、商標登録する利点を理解されていない、あるいは、理屈としては分かっても費用をかけて登録するに値するのか疑問を感じるということがあります。たしかに、商標登録をしたからといって、それが売上増加に直接結びつくということは少ないかもしれません。
このように見てきますと、「商標登録などしなくても良い」ということになってしまいそうです。
それでも商標登録をおすすめするのは
それでも、私は、中小企業様、個人事業主様の視点に立った場合に、特に次のような理由から商標登録をされることをおすすめいたします。
商標登録するメリットは様々ありますが、次の2点はどなたにでも当てはまる大きなメリットであると考えます。
(1)他社の商標権を侵害してしまうことを未然に防ぐ
社名や屋号、商品名を考える場合に、「良いネーミング」の以前に他人の商標権を侵害してしまうことは最低限避けなければなりません。「起業して必死に頑張った甲斐があり、業績は順調に伸びた。そうした矢先に商標権の侵害であるとの警告状が来て社名を変更せざるを得なくなった」といった事態は避けたいものです。
商標権の侵害になる代表的な行為は、
(a)登録商標と同一又は類似の商標を
(b)登録商標の指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務に使用することです。
(b)登録商標の指定商品・役務と同一又は類似の商品・役務に使用することです。
ここで注意していただきたいのは、「同一」だけでなく「類似」の場合も侵害になるという点です。最近ではインターネット検索等で「名前がかぶっていないか」調べる方が多いのではないかと思います。
また、独立行政法人工業所有権情報館・研修館が提供している J-PlatPatを利用して一般の方でも商標の検索をすることができます。
しかし、同一については簡単に判断がつきますが、商標の類似の判断は非常に微妙で専門家でなければ正確な判断は困難です。
商品・役務の類似については、特許庁が作成した一覧表(類似商品・役務審査基準)が公開されておりまして、これを見れば判断ができるのですが、慣れない方には使い方が分かりづらいのではないかと思います。
ところが、「既に登録されている商標と同一又は類似の商標で既登録の商標と同一又は類似の商品役務に使用する商標は登録しない」という趣旨の規定(商標法4条1項11号)がありますので、社名や商品名について商標登録出願をすれば、弁理士による出願前の調査や特許庁の審査官による審査の際に、既登録の同一・類似の商標がないか判断をしてくれます。
したがいまして、出願して無事登録査定が得られた場合には、出願した商標を使用しても他社の商標権を侵害することが無いという安心感が得られます。また、この理由で拒絶されたときには、傷口が大きくなる前に商品名を考え直すなどの対策を取ることができます。
(2)長年使っている愛着のある社名や商品名を使い続ける
「長年使っているけど何のトラブルもない」というケースでも、実態としては様々なケースが想定されます。
どの場合でも、平穏な状態が崩れることがあり得ます。
(a)は、権利者が気づけば行動を起こすかもしれません。
(b)は権利者側の担当者が変わったり権利が移転したりすれば行動を起こすかもしれません。これらのケースでは、侵害しているのは事実ですから社名や商品名を変えざるを得なくなる事態もあり得ます。しかし、商標登録出願を契機に侵害が分かり少しでも早く措置をとることで、良い結果が得られる可能性があります。
(c)は、将来成立する商標件の侵害となる可能性があります。
これはどういうことかと申しますと、現在使用している商標が未登録だと、詳しい説明は省きますが「周知」という状態にまでなっていなければ、後から出願された同一又は類似の商標が登録されてしまう可能性があるということです。こうなりますと、「自分の方が先に使っている」というだけでは侵害を免れることができません。
商標法には「先使用権」という規定があり、後の商標の出願より先に使用していれば例外的に使用を認める制度がありますが、適用の条件が厳しく適用を受けられない場合が多いと考えられます。後に登録された商標のために社名や商品名を変えざるを得なくなるという腹立たしい事態が起こりえるのです。商標登録のこのような仕組みを知っていて、意図的に既に使用されている商標と同一のものを登録して高値で売りつけようとする者さえいます。
実は、この(c)のケースが最も商標登録するメリットがあるケースです。商標登録をしておけば、先に紹介しました4条1項11号があるため、使用中の商標と同一・類似の商標を他人に登録されてしまうという事態をほぼ確実に(審査官の間違いはあり得ますが)防ぐことができます。今お使いの商標を安心して使い続けることができるというこの点だけでも商標登録する大きなメリットではないでしょうか。
弁理士に依頼するには
次の情報があれば出願することができます。必要な情報はこちらからお伺いしますので、出願したいと思われましたらまずはご一報ください。メール1通、電話1本で済む場合も多いです。
・出願する商標(社名や商品名を表す文字、絵、文字と絵の組み合わせ)
・商標を使用する商品・サービス
実際に願書に記載する名称はこちらで調整しますので、商品やサービスの種類を普通の言葉でお知らせください。
・お客様のお名前、ご住所
・商標を使用する商品・サービス
実際に願書に記載する名称はこちらで調整しますので、商品やサービスの種類を普通の言葉でお知らせください。
・お客様のお名前、ご住所
費用について、平均や相場の正確な情報は持ち合わせておりませんが、私の見聞きする範囲では出願から登録までスムーズにいった場合1件10万円以下ですむ事務所も多くあります。
先ほど「それでも商標登録をおすすめするのは」で説明させていただきました2つのメリットだけを考えても十分元が取れるのではないでしょうか。今まで、商標登録を考えたことのなかった方もこれを機にご検討いただけましたら幸いです。
まとめ
商標登録をしなくても事業を行うことはできます。
しかし、商標登録は、他社の商標権の侵害を回避し、社名や商品名を安心して使い続けるための有効な手段です。
弁理士に依頼するのは面倒でなく、費用もそれほど高額ではありません。
ご不明な点がございましたらお気軽にご相談ください。
参照 : SHARES 弁理士 佐藤 陽のページ
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