この記事の目次
1. 欧州連合商標(EUTM)の紹介
(1) 28の加盟国
欧州連合は現在28カ国の加盟国で構成されています。もし加盟国ごとに商標登録をするとかなり高額な費用になってしまいます。28カ国をまとめて1回の出願で済ますことができれば・・・と思いますが、実はこのような制度があり、「欧州連合商標」(EUTM)という欧州連合の加盟国28カ国分をまとめて1つの出願でカバーできる方法を紹介致します。
この「欧州連合商標」は1996年にでき、すでに20年にもわたり利用されてきた制度です。欧州共同体商標(CTM)と呼ばれていましたが、2016年3月から「欧州連合商標」(EUTM)に名称が変更されました。
この制度では欧州連合の全28カ国に商標権が及びますので、「英国登録」「ドイツ登録」、「フランス登録」、「・・・登録」のような国ごとの登録は不要となります。しかも28カ国をカバーして印紙代(1分類)は850ユーロで済みます。
(2) カバーできる国
カバーできる国(28カ国)は「ベルギー、ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、クロアチア、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、英国」です。
「スイス、ノルウェー、アイスランド」は含まれず、現加盟国の英国もいずれ欧州連合から離脱します。
* 欧州連合商標は1出願で28カ国それぞれの国に商標登録するわけでなく、28カ国を「一地域」として扱い、1出願でこの地域全体に商標権の効力を及ぼす制度です。
2.日本の商標制度との相違点
(1) 審査対象の違い
日本では①「品質表示語などであるか」、②「他人の同一/類似商標が出願・登録されているか」などが審査され、いずれもクリアしないと登録されません。「品質表示語」とは、商品「パン」に商標「ぶどうパン」のように品質・材料など商品の内容を示す語です。品質表示語は誰もが使用する必要性から商標登録は認められないわけです。
一方「欧州連合商標」では、上の図の通り、日本と同様に①の「品質表示語などであるか」の審査をしますが、②の「他人の同一/類似商標が出願・登録されているか」まで通常では審査しません。
したがって、このままでは同一/類似の商標も重ねて登録されますので、もし他人の同一/類似の商標の登録を防ぐのであれば、「登録前」に「私の商標と類似するので登録しないでください」との申立をすることになります。これを「異議申立」といい、異議申立をすれば「同一/類似」であるかの審査が開始され、「同一/類似」と判断されれば異議申立された商標は登録されません。
異議申立の時期は①の品質表示語などに関する審査の終了後に登録される商標が公報類に掲載された後3か月以内で、「欧州連合商標」や「欧州連合のいずれかの加盟国の商標」が必要です(登録から5年経過後は自分の商標を使用していることも重要です。)。「欧州連合商標」では通常は「商標が同一/類似か」の審査をせず、異議申立があって初めて審査される(異議申立をしなければ同一/類似の商標でも重ねて登録される)という点をご理解頂ければと思います。
(2) 「ALL OR NOTHING」の制度
この制度では欧州連合の28カ国がカバーされますが、どこか1か国でも類似する商標があり、それに基づく異議申立が認められたらどうなるでしょうか?例えばスペイン商標に基づく異議申立が認められるとしますと申立された商標は「出願自体」が駄目になります。スペインを除いた残りの27か国で権利が認められることにはなりません。1か国だけでも問題があれば全体として登録されないので「ALL OR NOTHING(28カ国 or 0か国)」の制度とも言われます。3. これから出願をする人・すでに権利を持つ人へ
「欧州連合商標」で重要な点は「(A)同一/類似する商標がすでにあっても異議申立がなければ登録をする、(B)よって、他人の同一/類似の商標の登録を防ぐのであれば異議申立が必要となる」ことです。これから出願をする人/すでに権利を持つ人は以下の点にご注意ください。
(1) データベースですでに同一/類似の商標が登録されているか確認する
商標が「類似する・類似しない」の判断は容易ではないので、「同一商標」だけでもデータベースで確認されることをお勧めします。こちらのサイトからデータの検索ができます。これから出願をする人は他人の商標がすでにあるかご確認ください。
また、すでに登録商標を持っている人も使用に問題はないか調べることをお勧めします。欧州では同一/類似の商標があっても異議申立がされないと登録されるためです。もしかしたら御社の商標は幸いにも異議申立がされなかったことで登録されたのかもしれません。登録されたとしても複数の同一/類似の登録商標があるときは先に出願された商標に優先的権利があります。ですから最低でも同一の商標がすでに登録されているかの確認は必要なのです。
(2) データベースでこれから同一/類似の商標が登録されるか確認する
(1)は今までに登録された商標を確認する作業ですが、(2)はこれから登録される商標を確認する作業です。上記サイトで定期的に1〰2か月に一回を目標に自分の商標と同一/類似の商標が登録されるか監視し、同一/類似の商標を発見した場合は異議申立をご検討ください。
日本では特許庁の審査で同一/類似の商標は登録されませんが(これは日本特許庁が同一/類似の商標の登録をせずに自分の商標を守ってくれるという面もあります。)、欧州ではこの作業を自分でしなければなりません。自分の商標は自分で守ることになります。異議申立は欧州弁理士・弁護士に費用などを確認して進めてください。
4.まとめ
日本との商標制度の相違をご理解頂けたでしょうか?データベースの使用方法がわからない方は是非お知らせください。簡単な質問で「欧州連合商標」(EUTM)の紹介を終わりと致します。
質問1. ポーランド、ノルウェー、トルコで欧州連合商標でカバーされる国はどこでしょうか?
質問2. 欧州連合商標でイタリアでの登録商標を基礎とする異議申立が認められました。残り27か国だけの登録が認められるでしょうか?
質問3. 欧州連合商標が無事登録されました。使用する前にやるべきことはあるでしょうか?
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