商標の「簡易検索」の落とし穴!早いもの勝ちと言われる商標登録の「誤解」を弁理士が解説
知財


商標専門の弁理士として活動していて、よく聞かれるのも「こういう名称を商品の名前につけようと思いついたんですが、商標登録できますか?」というものです。
なるべく簡潔に、明快なお答えを素早くしたいと思いつつ、「調査、検討にお時間をいただきますね」とお答えせざるを得ないのがもどかしいのですが、それはどうしてなのでしょうか。

また最近は、特許庁の検索サイト「特許情報プラットフォーム」
の簡易検索等を利用して、「自分が考えている名称が、既に商標登録されているか」を、ある程度ご自身でお調べになってからご相談されるお客様も増えています。
「何も見つからなかったから、商標登録できますよね!?」と聞かれると、ここもすぐ「はい!」とお答えしたいところ、ここでもやはり「調査、検討にお時間をいただけますか?」とお答えするしかないのです。
どうしてなのでしょうか。

短い記事の中で、あらゆる商標の登録についてケースバイケースでお答えをするのは難しいですが、今回は弁理士に相談される前に、押さえておくとよい基本的なポイントを解説します。

この記事の目次


先に出願や登録がなくても、登録できないかもしれない「理由」


自分で商標調査をしてみたとか、あるいは「無料商標調査」を掲げるインターネットのサービスを利用したりしてみたときに、自分が商標登録を検討している名称が、他の人に先に出願や登録されている(いわゆる「先願先登録」)が見つからなかったとします。

「やったー!商標は早い者勝ちだから、自分が出願すれば、商標登録されるはずだぞ!!」と思われるかもしれません。
しかし、もしかすると、その検討中の名称は、そもそも「商標登録ができない名称」である場合があるのです(つまり、誰も登録ができていないから、先願先登録がなかったというケース)。

商標法では、商標法3条1項1号〜5号というというところに「こんな商標は、登録が認められません!」という類型を挙げています。
ざっくり説明すると、
1号→(指定する商品等の)普通名称
2号→(指定する商品等の)慣用商標
3号→(指定する商品等の)記述的商標
4号→ありふれた氏又は名称のみ
5号→極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみ

これだけ書くと「よくわからん!」と思われると思いますが、いずれも
「他人の商品・役務と区別することができないもの(識別力のないもの)」
なのです。
商標は、商品やサービスの“目印”として使うものなので、識別力がないものは“目印”として機能しない、つまり商標としては登録を認めることができないんですね。

例えば1号の例として、りんごという商品に、「りんご」とか「APPLE」という商標をつけても、商品の一般名称が「りんご」や「APPLE」ですから、 “一体誰の(誰が作って販売している)りんごなのか”という、目印にはなりませんよね。

ただ、もっと難しいのが3号の判断です。この「記述的商標」というのは、 その商品/サービスの品質・質、産地・提供される場所...etcの名称をただ商標にしただけのものを指すのですが、 商標登録をご相談される商標案では、これに該当してしまうものが結構多いのです。やはり、商品等についての“売り”になる品質などを、商標の名称としてアピールしたいと思われることは多いでしょうからね。

この3条に該当するかどうかについては、オンライン上でできる商標の簡易調査では判断されていない場合もあるようです。手の込んだ図形ロゴの商標なら、まずこの3条に該当する可能性は低いと思いますが、文字だけの商標の場合は、詳しく説明してくれる弁理士のコンサルティングを受けたほうがいい部分です。

既に登録されていても、すぐに諦めるべきではない「理由」


なるべく、具体的な例を挙げたほうがわかりやすいですよね。
私は、いまだに趣味でバンド活動を続けているぐらいの音楽ファンなのですが、好きなロックバンドが多く所属していた「東芝EMI」というレコード会社がありました(※)。そこで、商標の勉強をし始めた頃に、こちらの”EMI”というロゴの商標登録を調べてみて、驚いたのです。

確かに、そのロゴは商標登録されているのですが、

登録1157970 EMI(ロゴ)権利者:イーエムアイ(アイピー)リミテッド width= (※「EMI」というブランドは、ユニバーサル ミュージック内のレーベルとして現在も存続中です)。
なんと他にも、「EMI」という商標登録が、別の権利者によりされていたのです。

登録4777563 「EMI」 権利者:株式会社イーエムアイ 「E、M、I」の三文字が、同じ順番に並んでいるロゴタイプ同士ですから、これらの商標が「類似」であることは間違いありません。なのに、どうして両方とも商標登録されているのでしょうか?(「商標登録は早い者勝ち」が原則なのに、後から出願された登録4777563のほうもなぜ商標登録できたのでしょうか?)

実は、商標を使用する商品、又はサービス(”役務“と呼びます)がそれぞれ非類似だと、たとえ商標自体が同一又は類似でも、両方とも登録され得るのです。「一般需要者が、それぞれの商標を見ても、商品又は役務がかけ離れているから、混同してしまうことがないだろう」という理由からですね。

出願するときに決める商品や役務(いわゆる「指定商品等」)は、第1類〜第45類まで、45種類の「区分」によって分けられていることを、商標登録をご検討された方ならご存知かもしれません。(←この区分数によって、特許庁に納める法定料金も変わりますからね)。
それぞれの区分を見ると、

●登録1157970(音楽レーベルのほう) ・・・第9類を指定

●登録4777563 ・・・第5、42、44類を指定

「そうか!指定している商品等の区分がズレているじゃないか」ということに気がつきます。だから、指定商品等が非類似と判断されたのかな?...と。

しかし、この気づきは、もう少し調べると、あっさり崩されます(苦笑)。
音楽レーベルのほうの商標登録の権利者は、他にも

登録4204033
を「第42類」で登録しています。
「あれ⁈ これより後に出願された、登録4777563も、同じ『第42類』を指定して、登録されてるじゃないか!!」と。
実は、指定商品等の類似・非類似は、「区分」で判断されるのではないのです! では何がポイントなのか?両方の登録の「第42類」の指定の内容を見てみると…

●登録4204033 のほう
42:作詞者・作曲者・指揮者のための楽曲・詞に関する著作権の管理,著作権の利用に関する契約の代理又は媒介…42R02

●登録4777563のほう ※第42類のみ
42:医薬品・化粧品又は食品の試験・検査又は研究,農業・畜産又は水産に関する試験・検査又は研究,理化学機械器具の賞与…42Q01/42Q03/42X14

確かに見てみると、どうやら同じ第42類の中でも、全く違うジャンルの役務を指定しているようですね。そしてここでのポイントは、「42R02」「42Q01」という記号です。何かの暗号でしょうか?

この暗号のような、数字とアルファベットを組み合わせた記号こそ「類似群コード」というもので、「商品と役務が類似するかどうか」は、この類似群コードによって決められているのです。

確かに、それぞれの商標登録の、第42類の部分に書いてある類似群コードは、お互いにかぶっていないですよね。だから、両方の商標登録は「指定商品等が非類似→お互いの商標登録が認められる」という理屈なのです。

そして、厄介なことに、この類似群コードは、いろいろな区分にまたがってつけられている場合があるのです。
したがって、商標登録の調査の結果、同じ又は類似の商標が、先に出願/登録されているものがあったとしても、「指定商品等が(類似群コードが異なるために)非類似と判断される」ために、商標登録できるケースは十分にあるということなのです。

(なお、商標が類似かどうかは、”見た目”(「外観」と呼ばれます)以外にも、”読み”(「称呼」と呼ばれます)、そして”意味“(「観念」と呼ばれます)の、3つの観点から総合的に判断されます。どこか一つの観点が抜け落ちていて、類似の先願先登録商標が見つけられないというケースも、ご自身の調査では有りえますので、併せてご注意ください。

まとめ 〜自分の意図に合った弁理士の選択を!~


商標登録は、ご自身で特許庁に出願されるか、あるいは“知的財産のスペシャリスト”である弁理士の有資格者に代理を依頼するかの、どちらかしかありません。
さらに、後者を選択したとしても、弁理士もあくまで、皆さんの出願を“代理”する立場に過ぎない以上、「商標登録が認められるかどうかは、最終的には自己責任。出願手続はなるべく自分でしたい」とか、
「オンラインでできる限り自分で調べたら、あとは簡単な手続きで、リーズナブルに代理してくれる弁理士に依頼したい」と考えられるのも、理にかなっています。

しかし、一方で商標登録できるかどうかに正しく判断するには、専門的知識をもった上での調査が必要となる場面も多いこともご理解いただけたと思います。
皆さんの大事な商品やサービスに、さまざまな思いを持ってネーミングした「どうしても登録したい商標」については特に、調査のみならず、出願に関する全般について丁寧にコンサルティングしてくれる弁理士を見つけ、頼りにしていくことも、検討に値すると思います。

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