すきなデザインを創作したときに、そのデザインを独占的に使用するため、何らかの知的財産権を取得したいと思われる人は多いと思います。しかし、実際にインターネットなどで、デザインの保護の方法を調べてみると、「商標登録」「意匠登録」「著作権」「不正競争防止法」と、色々な方法があることがわかり、自分のデザインに最適な保護方法が何なのか、混乱する人も多いのではないでしょうか?
ここでは、「商標」と「意匠」の違いを中心に、「著作権」や「不正競争防止法」にも触れながら、あなたのデザインを保護するための最適な方法について解説します。
「商標」と「意匠」の違い
「商標」とは、商品を販売したり、サービスを提供したりするときに使用するネーミングやマークのことをいいます。例えば、トヨタ自動車は、自動車を販売するにあたって、「プリウス」「アクア」あるいは「TOYOTA」というネーミングを使用していますし、きれいなロゴマークも使用しています。これらはすべて「商標登録」で保護することができます。一方、「意匠」とは、量産される工業製品のデザインのことをいいます。自動車、家電製品、日用雑貨品などで特徴のあるデザインが施されている製品の多くは、「意匠登録」で保護されています。
なお、「商標登録」も「意匠登録」も、特許庁に出願して、審査を受ける必要があります。
それでは、あなたが創作したデザインが、平面のデザイン、いわゆるグラフィックデザインの場合を考えてみます。
そのデザインが、ブランドや店舗のロゴマークでしたら、「商標登録」で保護することができます。ただし、ここで注意が必要なのは、商標登録で保護されるのは、あくまで、そのブランドや店舗のロゴマークとしての「商標」であって、アートワークとしてのロゴマークのデザインではありません。つまり、商標登録を受けていたとしても、そのロゴマークをブランドや店舗の商標として使用しているのでなければ、他人がそのロゴマークを無断で使用することを止めることはできません。
また、「意匠登録」は工業製品のデザインを保護するものなので、立体のデザインだけが対象であって、平面のデザインとは関係がないように思われますが、実はそうでもありません。例えば、Tシャツ、包装紙、トートバッグなどは、いずれも工業製品です。こうした製品にプリントされたグラフィックデザインは、工業製品のデザインとして「意匠登録」で保護することができるのです。
ただし、こちらも注意が必要で、意匠登録で保護されるのは、あくまで、その工業製品のデザインですので、意匠登録を受けた人であっても、他人がそのグラフィックデザインのみを使用したり、また、別の種類の製品にそのグラフィックデザインをプリントして使用したりすることを止めることはできません。
次に、あなたが創作したデザインが、立体のデザイン、いわゆるプロダクトデザインなどの場合を考えてみます。
プロダクトデザインは、まさに工業製品のデザインですので、「意匠登録」で保護することが最も適しているといえます。
また、「商標登録」は、ブランドや店舗のロゴマークを保護するものなので、立体のデザインとはまったく関係がないように思われます。しかし、立体のデザインであっても、ブランドや店舗の商標として使用するのであれば、「立体商標」として保護を受けることができるのです。例えば、サントリーの角瓶のデザイン、ペコちゃん人形のデザイン、カーネル・サンダースの人形のデザインなどが、立体商標として有名です。
「著作権」による保護
ここまでの話を読んで、「自分はアートワークとしてのデザインを保護したいだけなのに、なんだか『商標登録』も『意匠登録』もしっくりこないな。」と思っている人も多いかと思います。それもそのはずです。そもそも「商標登録」も「意匠登録」も、正当な権利者がビジネスで不利益を受けないための産業政策上の制度であって、単にアートワークの創作者を保護するための文化政策上の制度ではないからです。
そこで、アートワークとしてのデザインを保護する制度として「著作権」があります。
「著作権」は、「商標登録」や「意匠登録」とは異なり、特許庁などの審査を受ける必要がなく、デザインを創作した時点で自動的に発生する権利です。 「それなら著作権が一番いい!」と思う人も多いでしょうが、著作権は自動的に発生するため、権利の発生時点で、特許庁などのお役所のお墨付きがありません。そのため、他人に著作権侵害を主張するためには、まずは自分が創作したデザインが著作物であること、その著作権者は自分であること、そして、他人が自分の著作物を意識的に真似したということまでも自分自身で証明しなければなりません。これは思っている以上に、煩雑で大変です。したがって、もしあなたのデザインが「商標」や「意匠」に該当するならば、「商標登録」や「意匠登録」を受けることをおすすめします。
ちなみに、平面のデザインであっても、立体のデザインであっても、著作権での保護は受けられます。ただし、著作権は文化政策上の制度のため、量産される工業製品のデザインは原則として保護されません。あなたのデザインが、量産される工業製品のデザインでしたら、「意匠登録」で保護することが最適です。
「不正競争防止法」による保護
「商標登録」はしていないけれども、すでに有名になっている商標を他人に勝手に使用された場合や、「意匠登録」はしていないけれども、商品の発売から3年以内に他人にデッドコピーされてしまった場合などは、「不正競争防止法」という法律で救済を求めることもできます。ただし、商標登録や意匠登録に比べて、権利行使できる条件がかなり限定的であって、また、著作権と同様に、権利としてお役所のお墨付きを受けているわけではないことから、侵害の事実を証明するのが非常に困難です。あくまでも、「不正競争防止法」は、「商標登録」や「意匠登録」をし忘れた場合の補完的な救済方法だとお考えください。
まとめ
「商標」と「意匠」の違いや、デザインの保護方法について、ご理解いただけたでしょうか?あなたの大切なデザインを保護するためには、ぜひ頼れる弁理士までご相談いただき、最適な「商標登録」や「意匠登録」を行ってみましょう。(執筆:ボングゥー特許商標事務所 弁理士 堀越真弓)