商標登録を取り消したい場合は?(無効審判、登録異議申立など)
知財


「ずっと使っている商標を油断していたら他人に先に商標登録されてしまった」というのは、よくあるご相談です。
その中でも特に多いのは、「きちんと商標登録しているつもりだったのに、実は商標登録していなかった」というパターンです。

●税務署への開業届や行政庁の営業許可を得たことで、商標登録したものと思い込んでいた
●フランチャイズの本店が商標登録しているものだと思い込んでいた(特に外国に本店がある場合)
●先代が商標登録していたが、実は、10年毎の更新をしていなかった
●自分で商標登録したら、権利範囲が間違っていた

こんなご相談をよく受けます。
さて、今回は、このような場合に、なんとか相手方の商標を取り消す方法はあるのか? というお話をします。

一旦登録になった商標登録を取り消すわけですから少しハードルは高いですが、状況次第では、方法は存在します。この記事では、どう言った場合に勝てる可能性が高いのかをご説明しますので、これを読んで、チャレンジするか、それとも諦めた方が良いのか、一度検討してみてください。
その上で、是非一度、弁理士に相談してみるといいと思います。会社の一大事ですので、きっと、親切に相談に乗ってくれるでしょう。

この記事の目次

1.どんな場合に取り消せるのか?

まず、取り消すための具体的な手段の前に、どんな場合に取り消すことができるのか、ざっくりとご説明したいと思います。

(a)こちらの商標が有名な場合(かつ、相手方に不正目的があればなお良い)
(b)商標登録された言葉が一般的な言葉の場合


他にも色々ありますが、最も取り消す必要性が高いのは、上記の2つと考えられます。

その中でも特に、(a)のケースは、取り消さないと、こちらのビジネスの死活問題になる場合があります。 なぜならば、すでにある程度有名になっているこちらの商標が急に使えなくなり、しかも、場合によっては、相手方は、今までのこちらの有名度に乗じて急成長を遂げるためです。
この記事では、(a)のケースをメイン、商標登録を取り消すには、どのような条件が必要なのかを説明していきます。

2.自分が有名な場合に他人の商標登録を取り消す方法

これは、商標法の条文でいうと、商標法4条1項10号、15号、19号が主に関係します。
趣旨を簡単にご説明しますと、商標法では法制度の便宜上、「先に出願したものが勝ち」という制度を取っていますが、本来は、すでに信頼を得ているブランド価値の高い商標を守るのが筋です。なぜならば、その事業者だけでなく、そのブランドを信頼している需要者のためにもなるからです。

ですから、このような有名でブランド価値の高い商標は、もし何かの間違いで商標登録されていなかったとしても、法律で守らなくてはならないという考えのもと、「有名商標と紛らわしい商標は商標登録にはさせない」という法律を作りました。

最大のポイントは「有名であること」の証明

「有名であること」の証明は、簡単ではありません。
ご存知の通り、商標登録するには、特許庁の審査でOKをもらう必要があるわけですが、この審査では必ず、「有名な商標と類似していないか」も調べます。最近では、主にインターネットで検索して調べているものと思います。

つまり、商標登録になっているということは、一度は、審査官が調べて「類似の有名な商標は見つからない」と判断したということなのです。

商標登録を取り消すには、審査官が「自分の判断は間違っていました。」と認めるくらい、しっかりと「有名であること」について「証明」する必要があります。誤解して欲しくないこととして、この説明を聞いて悲観的になる必要はないということです。ただ、お伝えしたいのは、「有名であれば必然的にOK」なのではなく、「有名であることを本気で証明」する必要がある、ということです。

そのためには、たくさんの証拠を提出する必要があります。もちろん、依頼する弁理士の腕も大切ですが、それと同じかそれ以上に、「自分自身が、どれだけ証拠を提出できるか」にかかっていると思ってください。

「有名」ということは、「たくさん使っている」ということ

「有名さを証明する」というのは抽象的で分かりづらいですが、その基本的な証明方法は、「どれだけたくさんその商標を使ってきたか」です。
そして、たくさんというのは、「長い期間」とか、「多くの地域で」とか、「多くの人に対して」といったことが重要となりますので、証拠の提出も、そういう観点で行なっていきます。

「長い期間」というのは、初めて使用したのがいつかということと、ずっと使い続けてきたことを証明すれば良いので、比較的簡単な証明かと思います。
「多くの地域」というのは、最近はインターネット社会ですので比較的クリアしやすい可能性がありますが、その分、日本全国に販売していたとしても、簡単には有名だと認められない場合もあります。

やはり、一番重要になるのは、「多くの人に対して」という部分です。これは、純粋に「数」という考え方ができます。商品が売れた数、店舗の数、広告を出した数、メディアに取り上げられた数、そして、提出できた証拠の数。そういったことが重要となってきます。

「多くの人」とは「取引先」も含む

ここでの「多くの人」というのは、エンドユーザーのみならず、同業者や取引先を含むと言われています。 これは、証拠集めに際して、非常に大きなヒントとなると思います。

例えば、主に百貨店で販売しているのであれば、多くの百貨店との取引書類は、有名さの証拠となるでしょう。あるいは、旅行代理店と取引がたくさんあるのであれば、そういった取引書類も、有名さを表す証拠となります。

なお、有名さを証明する証拠については、特許庁が「商標審査基準」というもので公式に説明していますので、必ずこれを参照しましょう。
下記は、商標審査基準からの抜粋です。これを見ると、いわゆる「エンドユーザー」の目に触れる広告物だけでなく、卸売業者や小売業者、仕入先などの「取引先」との関係も含まれることが分かります。

・新聞、雑誌、カタログ、ちらし等の広告物
・仕切伝票、納入伝票、注文伝票、請求書、領収書、帳簿
・広告業者等の証明のある商標の使用状態を示す写真や動画
・同業者、取引先、需要者等の証明書
・公的機関の証明書
・一般紙、業界紙、インターネット上の記事
(特許庁:商標審査基準より引用)



商品が同一であれば少しハードルが低い

例えば、自分が販売しているのがABCコーヒーというコーヒー豆だとします。 このとき、相手方の商標登録も「ABCコーヒー」という商標で、なおかつ「コーヒー豆」について商標登録している場合は、少し、商標登録を取り消すハードルが低くなります。

具体的には、求められる「有名さ」が、少し低くなるということです。 何せ、同じ商品についてですから、「ものすごく有名」とまで言えなくても、「出所の混同」が起きやすいためです。

一方で、商品が違う場合。例えば、こちらがABCコーヒーというカフェをやっていて、相手方の商標登録は、ABCコーヒーという「コーヒー豆」について登録していたような場合。 この場合は、少し、商標登録を取り消すハードルが高くなります。高い「有名さ」の証明、「出所の混同」が起きやすいことの証明、あるいは、相手方に「不正の目的」があることの証明、などが必要になる場合があります。

「出所の混同」という切り口

すでに何度かでてきた言葉ですが、商標の取り消しを考えるときは、「有名さ」と関連して、「出所の混同が起きるか」という切り口で、検討することが大事です。

これは簡単にいうと、「紛らわしいかどうか」という切り口になります。 実際にビジネスをしていて紛らわしいかどうかは、業種により個別具体的な事情があると思います。ですから、現に間違って問い合わせが来ているなど、出所混同に関する情報は、1つの証拠となり得ます。

相手方に不正の目的がある場合

不正の目的というのは、例えば、フリーライド(有名ブランドへの便乗、ただのり)であったり、あるいは、嫌がらせ目的なども含まれます。
こういう証拠がある場合は、商標登録を取り消すのに有利に働く場合がありますので、早い段階で「証拠のコピー」を取って起きましょう。

3.商標登録を取り消す手段(登録異議申立、無効審判、情報提供)

最後に、商標登録を取り消す手段として、3つの法的手段についてご説明します。(ただし、厳密には、(3)の「情報提供は」登録を取り消すのではなく、登録になる前段階での方法です)

(1)商標登録異議申立

こちらは、商標登録から2ヶ月以内に限りすることのできる、期間限定の手続きです。特許庁審査官の上司にあたる審判官が、3人の合議にて、もう一度この商標登録が本当に正しかったのか、見直してくれます。

この制度の特徴として、審査に間違いがなかったかを見直す意味合いが大きいため、こちらが提出しなかった証拠についても審判官が職権で調べてくれることがあります。この点は、後に説明する無効審判よりも、登録異議申立の方が有利に働く可能性のある要素です。

また、この制度は、商標登録を取り消したい人が、特許庁に書面(証拠を含む)を提出するだけの手続きとなります。
つまり、特許庁に「登録異議申立書」と「証拠」を提出し、特許庁の審判官がこれを見て結論を出すという流れとなりますので、相手方がこれに反論したり、口頭弁論で議論したりという機会はありません。その点で、後に述べる「無効審判」とは異なります。

また、決着がつく期間も、無効審判に比べれば早期となりますので、その点は有利な点といえます。
なお、これは細かいようで重要なことなのですが、「商標登録から2ヶ月」という期間は、「有名である」ことの証拠を提出するには、極めて短い期間です。

そこで、実は、この2ヶ月の期間よりも長く、登録異議申立の期間を確保する方法があります。それは、「補正」という方法です。 2ヶ月の期間内に、登録異議申立書を提出すれば、その後1ヶ月、補正にて、「後出し」で証拠を提出できる期間を確保できるのです。

また、さらに細かい話ですが、この「補正期間」は、外国に住所のある会社であれば、3ヶ月まで延長される場合があります。しっかりと証拠を揃える時間を確保するために、こういったテクニックを使うのも有効です。

(2)商標登録無効審判

無効審判は、登録異議申立と同じく一度商標登録になった商標の取り消しを求めることができる制度です。
ただし、登録異議申立とは異なり期間限定ではありませんので、実際には、こちらの制度を使うことの方が多いと思います。
無効審判は、準備する証拠などは、登録異議申立とほとんど変わりません。また、審判官の合議で結論を出すことも、同じです。

それでは、最も異なる点は何かと言いますと、「当事者対立」という点です。つまり、こちらが一方的に特許庁に文書を提出するのではなく、こちらと相手方で議論をする場が設けられるということになります。 これは、商標を取り消したい人にとって有利になるか不利になるかは、場合によりけりです。より、実力勝負ということになるでしょう。

なお、弁理士に依頼するときの費用ですが、無効審判請求自体の費用は、登録異議申立とそれほど変わらない場合もあると思います(用意する文書や証拠は変わらないため)。

ただし、その後、書面での議論や口頭弁論での議論などが生じた場合は、追加の費用がかかる場合があります。このような費用は発生しない場合もありますので、弁理士に一度相談してみると良いかと思います。

(3)情報提供(刊行物提出)

最後に、「商標登録はなっていないけれど先に出願されてしまった」場合に有効な制度をご紹介します。
これは、「情報提供」あるいは「刊行物提出」と呼ばれる制度です(いずれも同じ制度を指します)。
この制度は、審査官により正確な審査をしてもらうため、調査材料を提供する制度です。

情報提供の最大のメリットは、商標登録になってからそれを覆すのに比べ、早期に決着がつくことです。 そういう意味で、出願段階で気がついた場合は、登録になってから検討するのではなく、その時点で情報提供することが最適な方法と考えられます。

情報提供は、誰でも無料でできる制度で、法律上は、ある意味気軽にできる手続きなのですが、もし本気で商標登録を阻止しようと思ったならば、提出する証拠量は、登録異議申立や無効審判と変わりません。弁理士に依頼する場合の費用も、登録異議申立と比べて、そこまで安価ではないかもしれません。

この制度を利用するときに注意すべき点は、情報提供は、審査が終わるまでにしなければならないということです。 そして、審査がいつ終わるかは正確な期間は定められていませんので、出願日から数ヶ月が経っている時は、一度審査官に連絡をしてみるのも良いでしょう。また、全ての証拠を揃えるまでに時間がかかる場合は、一度に全ての証拠を提出するのではなく、「後日補充」という手段を用いるのも有効です。

いかがでしたでしょうか?
商標登録の取り消しは、依頼する事務所や、選択する手段により、「成功確率」も、「費用」も、「期間」も、大きく変わってきます。
中小企業の場合、最優先すべきは、「早期解決」の場合も多いです。 その時は、商標登録の取り消しと並行して、「交渉」というものが必要となる場合もあります。

手遅れになる前に、あるいは、諦めてしまう前に、一度弁理士に相談してみることをお勧めします。
御社が中小企業の場合は、できれば、中小企業に強い弁理士に相談するのが良いでしょう。大企業とは違った中小企業向けの戦略を提供してくれる場合もあります。

参照 : SHARES 弁理士 井上 暁彦のページ

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