商標権侵害の「無茶な警告書」~実際にあった事例を紹介~
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もし自分が商標権侵害をしてしまった場合、商標権者から警告書が送られてくることがあります。 そんな時、イニシアティブは当然、商標権者側にあります。 こちらとしては、悪意はないとはいえ商標権侵害をしている負い目があるわけですから、丁寧に対応する必要があるでしょう。

しかし、それにつけこんで、無茶な要求をしてくる人もいますから、注意が必要です。 ここでは、商標専門弁理士が実際に経験した、商標権侵害事件の警告書における無茶な要求についてご紹介するとともに、そんな場合の対処法もお伝えします。

この記事の目次

1.法的根拠のない要求をする警告書

以下は、一見、理にかなった要求のように見えるかもしれませんが、実は、全く法的な根拠がないものです。 優良な会社でも交渉ベースで「提案」してくることはありますので、そういう場合は普通に検討すれば良いですが、当然に「要求」してくる場合は、注意が必要です。
相手方に法律の知識がないか、悪質な事業者か、どちらかの可能性があります。もちろん、従う必要はありません。

(1)商標権侵害なので「会社名」を変えろ

例えば、他人(商標権者)がABCという商標を商標登録していたときに、自社の法人名が「株式会社ABC」だった場合、商標権者は、「会社名を変えろ」ということはできるでしょうか? このような要求を平気でしてくる人がいます。

これは、無茶な要求となりますので、従う必要はありません。 自社の正式名称である法人名を、「普通の形で使用する分にはOK」という法律があります。 商標法26条という法律です。

ただし、正式な法人名であっても、普通でない使い方、例えばロゴにしたり、株式会社を省略して単に「ABC」として使ったりすることは、商標権侵害となる可能性が高いです。
ちなみに、私が実際に経験したケースとして、株式会社ABCの取引先に対して、「株式会社ABCという名前自体が商標権侵害だから、そのような会社と契約すること自体が違法だ」と通知した弁護士がいました。
これは全く法的な根拠はなく従う必要はありませんが、ここまで酷い主張をするようですと悪質な商標権者の可能性もありますので、こちらも覚悟を決めて専門家に相談する方が良いかもしれません。

(2)商標権侵害の対応に費やした「専門家費用」を支払え

これはつまり、「この警告書を送るのに弁理士や弁護士の費用がかかった。あなたが商標権侵害をしなければこのような費用はかからなかったわけなので、当然、あなたがこのお金は支払うべきだ」という主張です。

これも、法的根拠はなく、応じる必要はない主張です。訴訟での費用ならまだしも、訴訟外での費用の支払いを認めた判例などはありません。
もちろん、「話を丸く収めるために少額であればお金を支払うのも良いかも」と考えるならば、それはそれで構いません。ただし、その時も、「支払う義務はないが、和解の条件として」ということを明確に提示した上で支払うのが良いでしょう。

不当に高い専門家費用を要求する商標権者も



なお、私が実際に経験した事例では、商標権侵害した側が、話を丸く収めるために「わかりました支払います」と言ったところ、「ちょっとこれ高過ぎない?」という金額の請求をされたそうです。このような要求は、もちろん従う必要はありません。
残念なことに、弁護士や弁理士が自分の報酬を高額にするために、このような一文を入れることを提案することがあるようです。

(3)登録商標を含むドメインを変更しろ

これも基本的には従う必要はないのですが、若干グレーな部分もあります。 仮にある会社がABCという商標登録をしていたとしても、ABCがよほど有名な商標でない限り、ABC.co.jpのように、ドメインの中にABCという文字列が入っているだけで商標権侵害をしているとの判断はできません。

ただし、少々分かりづらいかもしれませんが、ドメイン自体を商標的な使い方、例えば広告的に大きく表示して使用するような場合は、商標権侵害と言える可能性があります。 それにしても、そのような商標的な使用方法をやめろということはできても、「ドメインを変えろ」という権利はありません。

もちろん、相手がたがこれを強く望んでいる場合は、和解の条件として要求を飲むというのは1つの手ではありますが、法律的に従う義務はないということは覚えておきましょう。

2.脅し要素の強い警告書

(1)商標の使用を「即刻」やめろ

商標権者は、商標権侵害をしている者に対して「商標の使用をやめて」と要求する権利がありますが、「即刻」ということを強調してくる場合は注意が必要です。

常識的に考えて、使用を停止するまでには物理的に時間がかかります。ホームページでの使用くらいならばある程度すぐに対応できますが、物理的な看板を変えるなどは、少々時間がかかるのはやむを得ぬことです。

また、そもそも、「本当に商標権侵害しているのか?」を検討したり議論したりする時間も必要です。商標権侵害で警告を受けたら、専門家に相談するためにある程度返事を待ってもらうのが普通です。商標権者側も、素人に変な反論をされるよりは、専門家に相談した上できっちり法律に基づいて話をつける方がやりやすいのです。

そういった事情も全く考慮せず、「即刻」ということを強調する商標権者は、法律的な話し合いではなく「脅し」によって一切相手に反論の余地を与えずに解決しようとしている可能性がありますので、注意しましょう。早期に専門家に相談することのが良いと思います。

(2)いきなり高額な損害賠償請求

商標権者は、商標権侵害により損害を受けた場合、損害賠償請求をすることができます。
しかし、最初の警告書の段階でいきなり損害賠償請求をしてくる商標権者は稀です。なぜならば、損害賠償請求というのは、「損害があったことの証明」と「どれくらいの損害額か金額の証明」が必要になるからです。

こういった証明は簡単なことではなく、基本的には訴訟で決着をつけるものとなります。訴訟外で決着をつけるにしても、相当話し合った上で損害の金額が決まることになるはずです。一方的に金額を伝えてくるような警告書を受けた場合は、安易に応じないようにしましょう。

(3)取引先にも商標権侵害の通知をする

例えば、御社がABCという他社の登録商標と同じ名前の商品を製造販売しているとした時に、御社だけでなく、その卸売や小売をしているような取引先にも通知をする商標権者がいます。 あるいは、いきなり取引先に通知することはしなくても、「要求に応じなければ取引先にも警告書を出しますよ」という警告をする場合もあります。

こういった行為は、法律的な是非は非常に難しいのですが、確かに、小売業者も「その商標を付した商品を販売する行為」をしているといえる場合もありますので、こういった取引先に対して警告をすることは、必ずしもおかしなことではありません。
しかし、問題なのは、「取引先にも通知するぞ」と言うことを、「脅し」のように使う商標権者もいるということなのです。

例えば、メーカーなどにとって、取引先、例えば大手百貨店や楽天ショプなどにこのような通知をされることは、非常に大きなダメージです。最悪、今後一切の出店できなくなり、販路がなくなることも考えられます。
それをわかっていて、脅しのようにそこを突いてくる商標権者もいるのです。
このような時の対処法は、取引先との関係にもよるため、法律論で済まない部分があります。残念ながら、「こうすれば大丈夫」と言う正解はありません。

ただ、1つ覚えておくと良い判例がありますので、ご紹介します。 このように取引先などにまで強硬に商標権侵害の通知をした場合であって、後にその主張が間違っていた場合(例えば、よく検討すると商標権侵害ではなかったとか、商標権そのものが取消無効になった場合など)は、商標権者が逆に損害賠償の責任を追う可能性があると言う判例です。

いずれにせよ、「取引先にも通知する」という警告は、商標権侵害のトラブルの中でもかなり深刻なものですから、なるべく早く専門家に相談することをお勧めします。

3.実は商標権侵害ではないかもしれない場合

商標登録は、立派な登録証が発行されたり、特許庁のデータベースに掲載されたり、「登録されている」ことが誰の目から見ても明らかにわかりますので、「うちが商標登録している」と言われたら、簡単に納得してしまいがちな傾向にあります。
しかし、一見商標登録されていても、自分の行為がその商標権者の権利を侵害しているのかどうかは、結構判断が難しい場合もあります。

例えるならば、損害保険の適用に少し似ています。損害保険には入っているけれど、今回のケースでその保険が適用されるのかは、きっちり検討しなければなりませんよね。商標権侵害についても、同様です。

(1)普通名称をロゴで登録している

例えば、「おいしい牛乳」という明治乳業の商品があります。「おいしい牛乳」という文字列自体は、商品の品質を表した一般的な特徴のない言葉にすぎませんから、これは、「普通の文字列」では商標登録になりません。 しかし、明治乳業は、パッケージデザイン込みのような形で、「おいしい牛乳」を商標登録しています。
このように、文字だけでは商標登録にならない言葉をロゴなどのデザインにして商標登録していることはよくあります。

そして、それにも関わらず、普通の文字のみで使用している人に対して、「商標権侵害なのでやめてくれ」という商標権者もよくいます。そういう時は反論しましょう。 ただし、その文字列が本当に一般的で特徴的のない言葉なのかは、グレーな場合も多いですので、専門家に相談するのが無難と思われます。 文字では商標登録していないからといって、必ずしもその文字列が一般的な言葉だとは限りません。

(2)こちらが有名な場合

相手が商標登録していても、こちらが同じ商標をずっと使用していて有名な場合、「先使用権」というものが発生する場合があります。そういう場合は、こちらの行為は商標権侵害にあたりません。
また、こちらの有名度がとても高い場合や、相手に不正目的があるような場合は、そもそも、相手の商標登録を取り消して、最初からなかったものにすることができる場合もあります。

これは、かなり例外的なケースではあります。簡単に認められるものではありませんので、本当にそんなことが可能なのか、勝手に判断せず、専門家に相談することが重要です。

まとめ

商標権侵害事件の場合、「商標登録している」という事実があまりに強いインパクトを与えることと、多くの経営者や弁護士も商標法の実務にはそれほど詳しくないことから、「ダメ元でとりあえず強く主張してみたもの勝ち」と考える傾向にあるようです。
無茶な要求には安易に従わず、まずは弁理士に相談しましょう。

例えば、私の事務所では、「本当に商標権侵害しているのかどうか」の判断くらいであれば、無料でご相談に乗っています。「これは諦めるしかないですね」ということで、無料相談だけで納得してお帰りいただくことも多いです。

また、どのような作戦で反論するかは「予算との兼ね合い」もありますので、お客様の予算によって複数の選択肢をご提案したりもします。予算の少ない中小企業は、大企業とは異なる戦い方があるためです。

参照 : SHARES 弁理士 井上 暁彦のページ

参考:SHARES LAB
『商標の類似の判断で一番大切なこと』
『商標権侵害のとき百貨店や小売店へ通知するのは営業妨害?』
『他社から商標権侵害の通知書(警告書)が送られてきたらどうする?』
『商標権侵害の警告書の書き方(せっかく商標登録したのに勝手に使っている人がいたらどうする ? )』

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