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『大阪・道頓堀にある巨大な動くカニ看板で知られるカニ料理専門店「かに道楽」が、東海地方で練り物商品「かに道楽」を販売している愛知県内の会社に対し、名称使用の差し止めを求めて大阪地裁に訴訟を起こした。愛知の会社は江戸期創業の老舗練り物店。「うちが先に使っていた」と譲らない。商標権をめぐる争いの行方は-。』というニュースがありましたので、これに関して解説をしていきます。
商標権=登録商標×商品・役務
事件の概要は登録商標「かに道楽」を有する商標権者が、商品「かまぼこ」に商標「かに道楽」を使用して販売している会社を商標権侵害で訴えたものになります。
ここで商標権についておさらいです。商標の権利は登録した商標(マーク)と指定した商品・サービスのセットで権利となりますので、単に商標が同一類似だから侵害であるということにはなりません。指定された商品・サービスと同一類似のものに登録商標と同一類似の商標を第三者が勝手に使用している場合が侵害となります。
特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で確認したところ、下記が登録されていました。
登録番号第5689226号
商標権者「株式会社かに道楽」が商標「かに道楽」で指定商品「加工水産物」他(加工水産物はかまぼこの上位概念)を保有
※ 出願日は平成25年(2013)4月25日となっており、現存する登録商標
商標権者「株式会社かに道楽」が商標「かに道楽」で指定商品「加工水産物」他(加工水産物はかまぼこの上位概念)を保有
※ 出願日は平成25年(2013)4月25日となっており、現存する登録商標
であるならば、練り物商品「かに道楽」を販売している会社は、商標権侵害となります。しかしニュースにあったように『「うちが先に使っていた」と譲らない。』とあります。
そんな主張は認められるのでしょうか。
未登録商標でも守られる場合がある
実は、商標法には、『先使用による商標の使用をする権利(以下「先使用権」といいます)』があり、すべての要件を満たす場合は、後から登録商標が他人によって取られても正当に使用することができる権利があります。
その先使用権が認められる要件は下記となります。
すべて満たす場合には先使用権が認められることになります。
① 他人の商標登録出願前から使用していること
② 不正競争の目的でなく日本国内において使用していること
③ 他人の出願に係る商標及び指定商品・役務と同一類似の範囲内であること
④ 他人の出願の際現に、その使用している商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること
⑤ 継続してその商品・役務について、その使用を使用する場合であること
② 不正競争の目的でなく日本国内において使用していること
③ 他人の出願に係る商標及び指定商品・役務と同一類似の範囲内であること
④ 他人の出願の際現に、その使用している商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること
⑤ 継続してその商品・役務について、その使用を使用する場合であること
登録主義の下、保護すべき者は原則、登録された商標権者です。とはいえ、商標登録はしていないが一定の流通量があるような商品は一応産業の発展に寄与しています。そこで、企業努力によって蓄積された信用は既得権があるとして未登録者も保護しようとする例外規定が用意されています。
あくまでも例外規定ですので、先使用権が認められる要件は厳しいものとなっております。
先使用権の立証は困難
先使用権が認められるかのポイントはズバリ、④ 「他人の出願の際現に、その使用している商標が自己の業務に係る商品・役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されていること」になります。
「需要者の間に広く認識されていること」とは使用期間・使用方法等の取引の実情を考慮して総合的に判断されますが、必ずしも全国的である必要はなく、一地方で周知であれば足りるとされます。その地方では周知であるということで、その信用を保護する必要があるからです。
今回の愛知の会社は「江戸期創業の老舗練り物店」とありますが、商品「かまぼこ」に使用していた商標「かに道楽」がどこまで周知であったかが、先使用権を有するか否かの別れ道となります。
東海地方等でかまぼこ「かに道楽」が有名で愛知の会社の商品だと需要者が認識しているのであれば、その会社は先使用権を有することになり、そのまま商品「かまぼこ」に商標「かに道楽」を使用し続ける権利があります。
それには周知性の立証が必要となります。
まとめ
先使用権はあくまでも例外規定です。周知性の立証は非常に難しいです。
「うちの商品名・サービス名はどこよりも先に使用しているから、商標登録なんて必要ない」ではリスクが大きすぎます。
登録主義が採択されている以上、後出しが勝っても文句は言えません。大切な商品・役務の名称だからこそ、商標登録を検討しなければなりません。
ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
参照 : SHARES 弁理士 前田健一のページ
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