この記事では、商標専門の弁理士が、一般の方に向けて、商標の類似を3ステップで簡単に判断する方法を解説していきます。
商標の類似についてインターネットなどで調べると、「外観」「称呼」「観念」の3つの観点で比較して「総合的に判断する」といった説明がされていることが多いと思います。これは、特許庁の審査における運用の指針を定めた、「商標審査基準」というものに基づいた正式な説明です。しかし、「"総合的に判断"すると言われても、結論を出せないよ」と不満に思う方も多いのではないでしょうか?
ここでは、簡単な方法で、なおかつ商標の類似の判断で失敗しない安全な方法を、簡単な3ステップで説明していきます。
- ステップ1. まずは、称呼(読み、発音)で考える
- ステップ2. 結合商標の場合は、部分一致にも注意する(例:ABC と ABC〇〇 )
- ステップ3. 「出所混同を起こすか?」=「紛らわしいかどうか?」を考える
- まとめ
ステップ1. まずは、称呼(読み、発音)で考える
商標の業界では、商標の発音や読みのことを「称呼」といいます。例えば、「ABC」という商標であれば、「エービーシー」というのが称呼です。
現状、審査官が商標の類似の判断において、最も優先的に考慮しているのは、この「称呼」だと思います。実際、審査基準を見ても、圧倒的に「称呼の類似」についての説明が多いです。
称呼の類似は厳しめに解釈する
まず、一般の方が、「Aという商標とBという商標が類似しているかどうか」を考える時に、最も心に留めておかなくてはならないのは、「称呼の類似を甘く見ない」ことです。下記の2つは、弁理士も痛い目を見ることが多いシチュエーションだと思います。
<称呼の類似で痛い目に見やすい例>
(a)1文字(1音)違い
例:「ラブモア」と「ラグモア」
(b)観念(意味)が違う造語
例:「最走」と「再装」
(a)1音(1文字)違い
商標審査基準によりますと、称呼は、完全に同じでない、1音違い(1文字違い)でも、類似と判断される場合は多々あります。 特に、例えば、「ラブモア」と「ラグモア」のように”全体の音数が同じ”場合は、類似と判断される傾向が高くなりますので注意が必要です。(b)観念(意味)が違う造語
造語は、既存の言葉以上に称呼の類似を厳しく見る必要があります。例えば、既存の言葉、「回答」と「解凍」などは、称呼は完全に一致していますが、類似と判断されない可能性が高いです。 なぜかといいますと、「回答」も「解凍」も、辞書に明確に意味が載っていますので、明確に意味が違う(観念が違う)、と判断されやすいためです。
一方で、「最走」と「再装」のような造語な場合、特許庁の審査官は、「特定の意味は感じ取れない言葉である」と判断します。 ですので、「”観念(意味)”が全然違うから大丈夫だろう」と簡単に思って商標登録出願したら、類似していると言われて痛い目を見ることがあります。
なお、この理屈は、「最走」と「再装」のように両方とも造語の場合のみならず、片方だけが造語の場合も、適用されることがあります。 例えば、「再送」と「最走」のような場合です。この場合、「再送」には「再度送信する」といった明確な意味があるため、「両者は全く意味(観念)が異なる」と考えがちですが、「最走」の方が造語であるため、「意味(観念)は比較しない」という審査の方針が取られることがあります。
なお、上に記載したような事例は、ギリギリのラインですので、一度審査でNGと言われても、意見書で反論することにより、登録になる場合もあります。反論まで見越して商標登録にチャレンジする場合は、弁理士に相談して見ると良いと思います。
ステップ2. 結合商標の場合は、部分一致にも注意する(例:ABC と ABC〇〇 )
例えば、ABC〇〇といった、ABCと〇〇が組み合わさった商標を、結合商標といいます。結合商標の場合も、まずは「エービーシーマルマル」という称呼で考えて、完全同一や、一音違いの称呼を持つ商標がないかを検討しますが、それだけでは十分でない場合があります。
なぜならば、ABC〇〇とABCといった部分一致が、類似関係になる場合もあるためです。
この、ABC〇〇とABCとが、類似関係にあるかどうかは、ケースバイケースの判断が必要であり、一概には言えませんが、大原則としては、〇〇の部分が特徴的な言葉であるほど、「類似しない」と判断されやすいです。逆に、〇〇部分がありきたりな言葉であるほど、「類似する」と判断されやすい傾向にあります。
■ABC〇〇とABCが「類似する」と判断されやすい場合
(a) 〇〇が地名(例:ABC東京)
(b) 〇〇が業種名(例:ABC食堂)
■逆に、ABC〇〇とABCが「類似しない」と判断されやすい場合
(a) 〇〇が造語
(b) 「ABC〇〇」が全体で7音程度のまとまりの良い言葉である場合
「地名」や「業種」がついただけだと類似と言われやすい
例えば、ABCという商標が飲食店の分野で商標登録されているとします。この時、ABCジャパン、ABC東京、あるいは、ABCステーキ、ビストロABCなどは、類似の範囲として審査でNGとされる可能性があります。
この現象は、業種を問わずに起きることですが、よく起きる業種(区分)として、第41類の「知識の教授」「セミナー」が考えられます。
「知識の教授」や「セミナー」の場合、「ABC+教える内容」という商標が、ABCと類似する可能性が出てきます。そうすると、思いの外、幅の広い類似範囲となることがあるためです。
逆に、〇〇の部分が造語の場合は、ABCとABC〇〇は、類似しづらい傾向にあります。
全体として短くまとまりの良い商標は類似しづらい
〇〇の部分があまり特徴的でない言葉であっても、ABC〇〇とABCが「類似しない」と言われやすいのが、全体として短く一体感のある言葉になっている場合です。そういう場合は、「ABC〇〇」と全体で観察するのが通常であり、「ABC」だけを切り取って比較するのは無理がある、と判断されるためです。ステップ3. 「出所混同を起こすか?」=「紛らわしいかどうか?」を考える
ここまでは、ステップ1では「称呼の類似」、ステップ2では「結合商標の類似判断」ということで、かなり具体的な判断基準をお話ししてきました。最後のステップ3は、ステップ1、ステップ2を経てもいまいち結論が出せないような場合に検討する、もっともシンプルで強力な判断基準です。実は、商標法において「類似するかどうか」というのは、究極、「出所混同を起こすか?」という観点で決まります。 そして、この「出所の混同」というのはつまり、お客さんや取引先から見て、あなたの商品と競合他社の商品が「紛らわしい状態にあるか?」ということを意味します。
この「紛らわしいかどうか?」というのは、別段、法律に詳しくなくとも、なんとなくわかるのではないでしょうか?
(1) 紛らわしい例 その1:見間違える
例えば、同じ化粧水の名前で、LovemixとLovemaxなどの1文字違いの商品名だった場合、ドラッグストアで並べて置いた時に、見間違う可能性があるかもしれません。この、「見間違うかもしれない」というのも、商標が類似するかどうかを判断する上で、1つの大事な考え方です。なお、実際に見間違うかどうかは、単純にLovemixとLovemaxの文字列の比較だけでなく、使用している文字のフォントや、ロゴデザインによっても変わったりします。 しかし、少し厳しめに見て、見間違う「可能性があるか?」を検討するのは重要です。
(2) 紛らわしい例 その2:なんらかの関係があると誤解する
例えば、”ソニー”という有名登録商標がある中で、”ソニープラス”という商標を使ったとします。この時”ソニー”と”ソニープラス”が類似しているかどうかを考える時には、「音が似ている」ということもさることながら、「”ソニー”と”ソニープラス”が何らかの関係があるように誤解される可能性があるか」ということが重要となります。おそらくですが、”ソニー”という会社が日本における有数の会社であることから考えても、”ソニープラス”という商標は、ソニーと何らかの関係があるサービスと誤解される可能性があるように思います。
そうすると、
誤解が起きる可能性がある → 紛らわしい → 出所の混同が起こり得る → 類似する →商標権を侵害している
という結論が見えてきます。
(3) 相手の立場になって考える(相手が「紛らわしくて嫌だ」と感じるかどうか)
もし、今あなたが、例えば、”ソニープラス”という商標を使ってインターネットプロバイダサービスをしたいなと思ったとします。その時に、「ソニーの商標権を侵害しないだろうか?」と心配になったとします。そういう時は、一度「相手の立場になって考えてみる」のも有効な方法です。
つまり、逆にあなたがソニーの商標担当の責任者になったつもりで考えてみるということです。
もし、あなたがソニーの商標担当責任者だったならば、他人が”ソニープラス”という商標を使ってインターネットプロバイダサービスをしていたとしたら、「”ソニー”と”ソニープラス”だと全然違うし、気にすることはないよね」と思うか。
それとも、「これは紛らわしいのでちょっとやめてほしい」と思うか、ということです。
あるいは、第3のパターンとして、「個人的には、まあ放っておいていいと思うけれど、立場上放っておくわけにはいかない」ということもあるかもしれません。実は、この「相手がどう思うか」というのは、法律の基準と同じかそれ以上に重要です。
なぜかというと、例え裁判をしたら商標権侵害と判決される案件であったとしても、もし相手が気にもとめていなければ、そもそも訴えられたりトラブルになったりすることはありません。
その一方で、裁判をしたら商標権侵害でないと判決される可能性が高い案件だったとしても、相手が「こいつは紛らわしい。邪魔だ」と思ったならば、訴訟を起こされる可能性は高まるためです。
そして、勝ち目の高い訴訟だとしても、決着がつくまでに多くの時間とお金と信用を失うことになります。商標の類似は、このように、「トラブルが起こるか起こらないか」を最重視して考えるのが大事です。
まとめ
商標は、商標登録することが終わりではなく、安心して使い続け、ブランドを育てることが目的です。 商標の類似について考えるときも、単に特許庁の審査が通るかだけでなく、その先使い続けてトラブルが起きないかなども視野に入れて考えましょう。また、商標が類似するかどうか怪しいなと感じたときは、弁理士に気軽にご相談ください。
参考:SHARES LAB
■『商標検索の結果、商標登録になるかどうかが怪しい時はどうする?』
■『商標登録は自分でできる ? 弁理士に依頼するべき5つの理由』