最近、外国商標のご相談で最も多いのが、中国での商標登録です。特に多いのは、化粧品、アパレル、衛生用品の分野かと思います。中国においてこれらの分野は、メイドインジャパンの良質な商品がブランド力を持ちやすく、しかも巨大な市場ですので、日本の会社にとっては魅力的なビジネスチャンスですね。
しかし一方で、中国といえば、模倣品問題が頭に浮かびます。自分の知的財産が守ることが難しく、また、トラブルが起こりやすいという印象があるかもしれません。
ここでは、中国でビジネスをするときにトラブルを防止するのに非常に重要な、「商標登録」に関して基本的なことをまとめています。
初心者の方からよくある質問や、注意点をまとめましたので、ぜひ最後まで読んでみてください。
1.中国の商標登録についてよくある質問
(1)インターネットを通じて中国で商品を販売していますが、商標登録は必要ですか?
まず、「意図的に中国に向けて商品を販売している」ときは、なるべく早く中国での商標登録を検討してください。中国では、売れている商品名を他人が先取り的に商標登録出願するケースがかなりみられます。このようなトラブルを防止するには、自分が先に商標登録することは非常に重要です。一方、「中国に向けに商品を販売しているわけではないけれど、インターネットを通じて中国の方が商品を買うことがある」という場合はどうでしょうか。 こういう場合は、実際に中国で売れている量で考えるのが現実的です。もし、意図せずにせよ、ある程度商品が売れていて、利益が出ているならば、商標登録を検討するのが賢明です。
逆に、それほどの量が売れているわけではない場合、言い換えるならば、もし商標がらみのトラブルがあれば潔く中国人への販売を止めることができる、という程度の利益なのであれば、この段階では商標登録しないという選択肢もあるかと思います。
(2)中国で商標登録すると、台湾、香港、マカオでも保護されますか?
残念ながら、中国本土と、台湾、香港、マカオは、すべて別々に商標登録しなければなりません。なお、台湾、香港、マカオの3カ国は、国際商標出願(マドプロ)を使うこともできないため、各国で商標登録するしか方法がありません(国際出願については後述)。
(3)中国での模倣品対策に商標登録は有効ですか?
有効です。むしろ、商標登録がなければ、模倣品対策をすることが非常に難しい場合も多いです。中国では、他人の商標を先取り的に取得することも結構行われますので、ブランドが認知されてきたときは要注意です。
一方、その商標が本当に有名なブランドになった後は、単に商標登録しているだけでは不十分な可能性があります。このような場合は、もっと現実的に、いかに税関などで模倣品を差し止めるかが重要となります。
(4)先使用権は認められない?
先使用権とは、「(商標登録はしていないとしても)先にその商標を使っていた人」を保護する法律です。インターネット上では、「中国では日本のように先使用権が認められないため、先に商標登録されてしまったら対抗するすべがない」と説明している記事を見かけます。しかし、これは誤り(または古い情報)で、現在の中国の商標法では、日本でいう先使用権に相当する法律が設けられています。
ただし、残念ながら、この法律にはあまり期待しない方が良いでしょう。もともと、「使用による権利」をあまり重要視しない中国においては、先使用権が認められるケースは多くありません。
また、そもそも、日本であっても、先使用権を認めさせることは簡単なことではありません。その商標が有名である事実を証明するためにたくさんの証拠を用意する必要がありますし、時間やお金も非常に多くかかります。
先使用権に期待するよりも、「しっかり商標登録する方がずっと安くて簡単、しかも確実」、というのは、日本も中国も同じなのです。
2.中国での商標登録は、直接出願と国際出願(マドプロ)どちらがオススメ?
外国で商標登録する方法は、大きく2通りあります。<直接出願>
一つ目の方法は、その外国の特許庁に直接手続きする方法です。これを、直接出願、または各国出願といいます。このとき重要なのは、日本の会社が中国の特許庁に直接手続きをするためには、中国の代理人(弁理士)を介する必要があり、その分の費用がかかるということです。
<国際出願(通称マドプロ)>
もう一つの方法は、日本国内に窓口がある「国際事務局」というところに手続きをする方法です。これを国際出願(通称マドプロ)といいます。国際出願の特徴は、複数の国に一度に手続きできることと、各国の代理人(弁理士)を雇わなくて良いことです。
さて、中国で商標登録する場合、各国出願と国際出願のどちらが良いでしょうか。メリットデメリットは色々ありますが、中国は、どちらかというと、「各国出願」の方がやりやすい国だと思います。
その理由をここでは説明します。
(1)指定商品の書き方が厳しい
商標登録の時に非常に重要になる「指定商品・役務」という部分の記載ですが、中国では、中国の特許庁が定めた「標準的な記載」をするように強く推奨されています。なので、指定商品の書き方を安易に他の国と一緒にしてしまうと、補正などの手続きが必要になる場合があります。(2)中国用の商標が必要な場合が多い
これは、中国の法律の問題ではなく商慣習上の問題となりますが、中国で商標登録する時、日本の商標と全く同じものを商標登録しても使えない場合があります。中国は漢字文化ですから、多くのブランドでは、中国専用の商標を用意しています。国際出願をするには、日本で商標登録したものと完全同一の商標でなくてはなりませんので、その点で、国際出願が使いづらいケースがあります。<中国語のブランド名の例>
CoCo壱番 → 客客壹番屋
アディダス(adidas)→阿迪達斯
ユニクロ → 优衣库
資生堂 → 资生堂
BMW → 宝马
(3)中国の代理人は比較的安め
なお、各国出願のデメリットとして、現地代理人(外国の弁理士)を雇う費用がありますが、中国の場合、商標登録の代理人の報酬は、そこまで高くない傾向にあります。経験上ですが、例えばアメリカなどに比べれば、安価である傾向にあると思います(2020年現在)。このことも、今まで、中国出願について、比較的、各国出願が好まれてきた背景にあるかと思います。3.中国の商標登録で注意するところは?
(1)制度の変化
中国の知的財産に関する法制度は、近年急激に整備されてきました。したがって、インターネットや書籍で情報を得る場合は、最新の情報にアクセスするように常に注意しなければなりません。これは、専門家に中国の商標登録を依頼するときも同様といえます。信頼できる弁理士に依頼しなければ、最新の制度について行っていない可能性があるということです。
(2)中国独特の指定商品の記載
指定商品の記載については、すでに説明した通り、中国の当局が定める「標準的な指定商品」を記載することが重要です。少し専門的な話になりますが、商品同士の類似関係を示す「類似群」も日本と違う場合があるので、注意が必要です。中国の弁理士に相談して、自分の指定したい商品、役務が確実に権利範囲に含まれるよう、注意を払いましょう。(3)代理人選び
中国では、特許の代理人資格と商標の代理人資格は異なる資格であり、商標の代理人資格は、資格試験がありません。したがって、非常に多くの商標代理人がおり、その質はまちまちです。代理人選びは中国での商標登録が成功するための最大の課題の一つといえます。 しかも、中国における知的財産は、法制度こそ近年整ってきましたが、その歴史は浅く、知的財産の考え方に精通している中国弁理士は多くないため、仕事を依頼するときはこちらの意図が確実に伝わっているかどうか注意が必要です。(4)漢字の商標
日本で漢字の商標を使用しているときに、中国で、そのまま同じ商標を登録する会社さんが結構います。日本の漢字は、中国では使われない(読めない)ケースが多々ありますので、注意が必要です。例えば、上にも例であげた、資生堂 → 资生堂 などは代表的な例といえます。
まとめ
中国での商標登録の最大のポイントは、何と言っても、信頼できる中国代理人を確保することかと思います。初めて中国で商標登録する方がご自身で質の良い中国の弁理士を探すことは難しいと思いますので、まずは、外国出願に強い「日本の弁理士」に相談することをお勧めします。長く外国出願をやっている日本の弁理士であれば、信頼できる中国代理人としっかり提携していることが多いですので、安心して相談してみましょう。※関連記事:
『アメリカで商標登録するときの注意点~初めての外国商標登録シリーズその1~』