諦めるのはまだ早い!商標の出願に対して特許庁から拒絶理由通知を受け取った時の対処法
知財

商標登録を受けようとする場合には、特許庁へ商標登録出願を行います。特許庁では、順番に審査を行い、登録を認める場合には「登録査定」という書面を発行します。審査の結果、審査官が登録を認めないと判断した場合には「拒絶理由通知」という書面を発行しますが、「拒絶理由通知」を受け取ったらもう諦めるしかないのでしょうか。
この記事では、拒絶理由通知を受け取った場合の対処法を中心に、その後のアクションまでを噛み砕いて解説します。

この記事の目次

「拒絶理由通知」は審査官の最終判断ではない。期限内の適切な対応が重要

冒頭にもお伝えのように、特許庁に商標出願をすると順番に審査がなされます。問題なく審査を通過すると登録を認めようということで「登録査定」という書面が発行されます。しかし、審査で何か問題が見つかると、審査官から「拒絶理由通知」という書類が発行されます。「拒絶」と書いてあるのでなんだか物々しい印象を受けるかもしれませんが、要は「登録を認められない理由が見つかりました」ということを伝えるもので、この時点ではまだ最終的な処分は決まっていません。あくまでも審査官の暫定的な意見表明という位置付けであることを知っておくことで、「拒絶理由通知」を受け取っても驚かないで済みます。

そんな拒絶理由通知ですが、専門の審査官が表明する意見であれば、なかなか覆せないのでは?と思われるかもしれません。しかし、実際にはかなりの案件で、拒絶理由を覆して登録査定に持ち込めるというのも事実です。特許庁では多岐にわたる事項についての審査が行われますので、ひとくちに「拒絶理由」と言ってもその内容にも軽重があります。致命的なものでない限り、適切な対応を行うことで十分に克服をすることができるチャンスがあるということを覚えておきましょう。

「拒絶理由通知」への応答期間は、40日間の時間が与えられます。その期間内に拒絶理由の内容を確認して、応答するかしないか、また、応答をするのであればどのように応答するのかを検討し、準備を行います。この応答期間は、最長3ヶ月間延長することが可能です。

主な拒絶理由にはどのようなものがあるか。その対応策は?

その1「商標を使用する意思があるか」

商標登録を受けるには、その商標をどういった商品・サービスについて使用するつもりであるかを願書に記載します。ここで、実際に使用するもののみを書くのが原則ですが、現在使用しているものだけしか書けないかというとそうではありません。近い将来使うつもりがあるものであれば、商標を使用する意思があるとして、願書に記載することができます。
しかし、その記載した内容が多岐にわたる場合、特許庁としては「そんなに広い範囲で商標を使うつもりがあるのかわからない」という場合もあります。この場合、特許庁は本当に「商標を使用する意思があるか」の確認を求める意味で「拒絶理由通知」を発行することになります。 この拒絶理由に対しては、実際に使用していることを立証したり、商標を使用する予定・事業計画があることを示したり、あるいは指定する商品・サービスを限定したりすることで対応することになります。

その2「指定する商品・サービスが不明確」

願書に記載する商品・サービスが曖昧だったり不明確だったりすると、そのような商標が登録になってしまった場合に、権利範囲が特定できなくなってしまいます。このため、特許庁では願書に記載された商品・サービスが曖昧でないか、明確な記載になっているかの審査も行います。もし願書に記載された商品・サービスのうち一つでも曖昧なもの、不明確なものがあった場合、「指定する商品・サービスが不明確」という内容の「拒絶理由通知」が発行されることになります。
この拒絶理由に対しては、実際の商品・サービスの内容がわかる資料を添えて説明をしたり、商品・サービスの記載内容を見直したりすることで対応することになります。

その3「商標としての識別力がない」

商標が登録できるかの大きなポイントとして、指定する商品やサービスとの関係で、他人の商品やサービスと区別できるものであるかということがあります。例えば、商品「りんご」に「アップル」というネーミングを考えたとしても、他のりんごと区別ができるかというと、難しいですね。商品「りんご」に「美味しい」というネーミングを考えても、同様に他のりんごと区別することは難しいです。このような、他人の商品・サービスと区別することができる力のことを「自他商品・役務識別力」といい、略して「識別力」と呼んでいますが、特許庁の審査で「商標としての識別力がない」と判断された場合にも「拒絶理由通知」が発行されることになります。

この拒絶理由通知に対しては、実際には区別できるのだ(識別力がある)と反論をしたり、あるいは自分が大々的に使用した結果区別できるようになった(識別力を持つようになった)と反論をしたりして対応することになります。

その4「他人の先行商標と同一または類似である」

商標が登録できるかのもう一つの大きなポイントとして、指定する商品やサービスと紛らわしい範囲で、紛らわしい他人の商標が既に存在していないかということがあります。商標も商品・サービスも完全に一致する「同一商標」のみならず、商標か商品・サービスの両方または一方が類似する「類似商標」が見つかった場合でも、「他人の先行商標と同一または類似である」という内容の「拒絶理由通知」が発行されることになります。

この拒絶理由通知に対しては、類似するものではないという反論を行ったり、あるいは指定する商品・サービスを限定したりすることで対応することになります(事案によっては他にも採りうる手段があることもありますが、ここでは割愛します)。

その他の拒絶理由

以上、主な拒絶理由とその対応策をご紹介しましたが、この他にも、他人の有名な商標と混同を生じるおそれがあるものや、商品の品質やサービスの質に誤認を惹き起こすおそれがあるものも登録を受けることができませんし、実際にはここには書ききれない数多くの拒絶理由というものが存在しています。実際に直面した拒絶理由がどのようなものであるかによって、その対応策が変わってきますので、拒絶理由通知を受け取ったら内容の確認は非常に重要です。

「拒絶査定」が出ても諦めるのはまだ早い。「拒絶査定不服審判」とは

拒絶理由通知というのは、審査官の暫定的な意見表明であって適切な対応を行うことで解消することができることが少なくないとお伝えを致しましたが、そうは言っても、審査官が納得をしてくれないという場合もゼロではありません。こうした場合、審査官としては拒絶理由が解消していないということで、「拒絶査定」を発行することになります。「拒絶査定」というのは、「拒絶理由通知」とは異なり、審査官の最終判断ということになり、審査の終了を意味します。

しかし、審査官の最終判断と言っても、人間のする判断である以上は誤りがないとは限りません。このため、審査官の判断について再度チェックをしてもらうための制度が設けられています。この制度を「拒絶査定不服審判」と言います。拒絶査定不服審判は、拒絶査定が発せられてから3ヶ月以内に手続をすることが必要です。

せめて拒絶査定不服審判までは争おう〜音楽マンション事件〜

拒絶査定が出た時点でもう諦めよう・・・そう考えられる方も少なくないかもしれません。しかし、前述のように審査官の最終判断だからといって、それが本当に正しいかというのは実際にはわかりません。

一例をお伝えすると、過去にある審査官が、「音楽マンション」という商標について識別力がないということで拒絶をした商標について、後から別の人がした出願が商標登録されてしまったという事実関係のもと、その商標登録が無効ではないかが争われた事件がありました(知財高裁平成29年5月17日平成28年(行ケ)10191号判決「音楽マンション事件」)。

この事件で原告(過去に登録を拒絶された側)は、過去に特許庁の判断で識別力がない(誰でも使っていい)と判断されたのにも関わらず、後になって他人に商標登録を認めることは平等原則・禁反言の原則・信義則にそれぞれ違反するなどといった趣旨の反論を行い、商標登録が無効であると主張しました。

しかし、裁判所は、過去になされた審査官の判断は誤りであって、拒絶査定不服審判を通じてその誤りは是正されるべきものであったとして、「それにもかかわらず,原告は,不服審判請求をするなどして正しい判断を求めなかったのであるから,原告の主張は,失当であるというほかない。」と一蹴し、商標権侵害であると判断をしました。手厳しい判断にも思えるかもしれませんが、いち審査官の判断が必ずしも正しいとは限らず、たとえ拒絶査定が出てしまったとしても、せめて拒絶査定不服審判を請求して争うべきであることを示す事例と言えます。

対応に悩んだら迷わず商標専門の弁理士に相談を

このように、商標の登録の審査というのは、特許庁の審査官の判断すら正しいとは言い切れないもので、非常に専門的かつ複雑なものになります。このため、拒絶理由通知が発せられてしまった場合には、限られた期間内での適切な対応が求められると言えます。しかし、慣れないところでつい焦って対応をしてしまうと、せっかくのチャンスを掴み損なうことにもなりかねません。

前述のように、たとえ拒絶理由通知が発せられたとしても適切な対応で覆すことができる例は少なくなく、さらに拒絶査定にまで至ってしまったとしても、拒絶査定不服審判のチャンスも残されています。こうしたチャンスをしっかりとものにするためにも、どのような対応がいいかの判断や勝算・見通しに迷われたら、一度商標専門の弁理士に相談されることをお勧めします(弁理士にも商標系のほかに、機械系、化学系、電気系など、それぞれの専門分野で分かれていますので、病院選びと同じように、相談する弁理士の専門分野の確認も重要です)。

商標を専門とする弊所では、出願からご依頼頂ければ調査の上、審査の見通しをお伝えした上で手続きを進めるようにしておりますし、また、審査対応の段階からのお引き受け(中途受任)もしております。これから商標出願を検討される場合はもちろん、自社でした出願について拒絶理由通知が発せられてしまったという場合でも、お気軽にご相談頂ければと思います。

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