前回の記事で、商標出願をした場合の対応策の大枠をお伝えする中で、「たとえ拒絶査定が出てしまったとしても、せめて拒絶査定不服審判を請求して争うべき」だということを書きました。ここで気になるのが、「拒絶査定不服審判」というのが、普通の審査と何が違うのか?ということや、その成功確率はどうなのか?というところではないでしょうか。
本記事では、審査結果が思わしくない結果に終わってしまった後に残された手段である「拒絶査定不服審判」に焦点を絞って解説していきます。
拒絶査定不服審判とその請求期限
特許庁に商標登録のために出願をしたものの、審査の結果、審査官が登録を認めないという最終判断をした場合、「拒絶査定」という書面を発行します。拒絶査定が出たことにより、特許庁における審査手続は終了となります。しかし、特許庁の審査を行なっているのは審査官、つまりは人であることから、その判断には誤りがないとは限りません。このため、拒絶査定に対して納得がいかない場合、その審査官の判断が誤りであるかどうかを改めて見てもらうことができる制度が設けられており、この制度のことを「拒絶査定不服審判」と呼んでいます(法律上は「拒絶査定に対する審判」となっていますが、業界では「拒絶査定不服審判」と言われます。)。
さて、この拒絶査定不服審判ですが、いつでも提起できるのではなく、拒絶査定の謄本を受け取った日から3ヶ月以内に審判請求書を特許庁に提出する必要があります。3ヶ月の末日が土日祝の場合には、翌営業日まで延長されますが、基本的には3ヶ月です。
一人で行う審査とは異なり複数人の合議体で審理する
拒絶査定不服審判では、一人で行う審査とは異なり、三人または五人の合議体で審理が進められます。拒絶査定というのは、言うなれば、たまたま担当した審査官個人の見解ということになりますが、これを複数の目で再度検討を行うということになります。そうすることで、審査官の判断に本当に誤りがなかったかの確認を行い、もし審査官の判断が誤りであったとすれば、その是正が行われます。このため、拒絶査定不服審判を請求する時には、審査官の判断のどこが誤っているのかをしっかりと指摘しつつ、必要な反論とともに十分な証拠書類を揃え、提出をする必要があります。
こうした書類の手配・準備については、自社あるいはご自身で対応するということもできますが、商標専門の弁理士に依頼した方が、成功可能性が高まり、結果的に安上がりとも言えます。拒絶査定を受け取ったら、拒絶査定不服審判を請求するのか、するとしたら(どの)弁理士に依頼するのかを早急に検討すべきであると言えるでしょう。
どのくらいの期間がかかるの?
拒絶査定不服審判の審理には、2019年実績で約8.8ヶ月かかっていたものが、2020年実績では約5.4ヶ月に短縮されており、比較的短期間で結果が得られるようになっています。とはいえ、基本的には順番通りに処理されていきますので、その時点でどのくらいの審判事件が請求されているかによって、実際にかかる期間は変わってきます。
しかし、どうしても早く結果が知りたいという特別の事情がある場合、もう少し早く結果が得られる道も用意されています。出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ緊急性を要する場合など、予め定められた条件を満たす必要がありますが、条件にマッチすれば、「早期審理」というものを請求することができます。早期審理の請求が認められると、平均2.5ヶ月で審判結果が出てくることになっています。
拒絶査定不服審判の成功率は約◯%!
このような拒絶査定不服審判ですが、実際の成功率はどのくらいなのでしょうか。いくら一人の審査官が行っているからと言っても、専門の行政官の判断にどれほどの誤りがあるのかというと、想像がつきづらいかと思います。このことについて、特許庁の発表資料によれば、2019年度の商標についての拒絶査定不服審判の成功率は、65.4%であるとされます。年によっても変動がありますが、平均で7割程度の割合で、拒絶査定不服審判を通じて審査官の判断が覆っているとのことです。
この数値は、拒絶の根拠の種類を問うことない全体のものなので、少し高めに出てしまっていますが、前回の記事で取り上げた、「商標としての識別力がない」という理由に対する審判での判断に絞ってみたらどうでしょうか。
特許庁の審決を調べてみたところ、識別力の欠如(商標法第3条1項各号)に対する反論の成功率は、2018年が59.5%、2019年が56%、2020年が58.8%と、いずれも6割近くまでに登っていることが確認されました(J-Plat-Patにて筆者調べ)。なお、これら数値は、ノイズを除去していない生の件数で算出したものなので、実質的な成功率はもう少し高くなるのではないかと考えられます。
まとめ
以上、商標の拒絶査定不服審判についてお伝えをしてまいりましたが、専門の行政官の判断だから審判請求をしてもなかなか覆らないのではないかと思われた方にとっては、およそ6割もの案件で判断が覆っているというこの状況は、朗報ではないでしょうか。もちろん、残りの4割の事件があるように、全ての事件で審査官の判断が覆るとは限りません。しかし、たとえそうであったとしても、なお特許庁の判断は誤りであると考える場合には、さらに知的財産高等裁判所(知財高裁)に出訴して争う道も残されています。
前回の記事でご紹介した「音楽マンション事件」のように、「拒絶査定」の段階で諦めてしまっては、後にリスクを残すことにもなりかねません。決して少なくない事件が希望通りの結論に至っているのだという実情を知った上で、見込みがある又は判断がおかしいと思われるのであれば、せめて拒絶査定不服審判までは進んで、しっかりと判断を求めるというスタンスが良いのではないでしょうか。
なお、弊所では、拒絶査定を受け取った後の、拒絶査定不服審判からの受任も承っています。商標についてお困りのことがありましたらお気軽にご相談頂ければ幸いです。