新しくデザインを創作した際に、知的財産権で保護することは権利確保のために重要なことです。いざ知的財産権を取得しようとすると、どのような手続きを取ればよいのか、権利確保するための最善の方法が分からないという方も多いのではないでしょうか?
今回は、意匠の基礎知識から、特許や商標との組み合わせ方や、意匠の特殊な例まで解説いたします!
1.意匠の基礎
意匠とは、物品のデザインを保護することを通じて新しいデザインの創作を奨励し、これによって優れたデザインを持つ製品を増やし、国民生活を豊かにすることを目的とする仕組みが意匠制度です。また、意匠の定義として視覚を通じて美感を起こさせるものということがあります。意匠の例として、新幹線の「のぞみ」のデザインに関してもJR東海とJR西日本によって権利が取得されています。新幹線は、デザインが意匠で保護されている以外にも特許や商標などの様々な角度から権利が取得されています。特許や商標などの、他の知的財産権と意匠には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
車を例にとってみると、例えば今回のテーマである「意匠」は車体のデザインはもちろんホイールのデザイン等についても権利が取得されます。「商標」はその車の名前や、ブランド・マークについても多くのものが商標として権利が確保されます。「特許」と「実用新案」に関しては、例えば車両盗難防止装置のような複雑な技術が用いられているものには「特許」が取得され、チャイルドシートの装着のようないわゆる小発明には「実用新案」が取得されます。
2.特許や商標の補完としての意匠
意匠法は物品の形状や模様、色彩を保護対象としており、物品に施されたデザインを保護するものです。しかし、少し視点を変えてみると、特許や商標を補完する役割が見えてきます。例えば、ペンの持ち手部分について最も書きやすい形状を開発したとします。この形状について権利を取得する場合、特許出願を行うことが考えられます。
しかし、特許出願は登録まで長期間を要し、出願から登録までの費用も高額であるといったデメリットがあります。
一方で、意匠出願の場合は、特許出願に比べて費用もかからず、登録までの期間を短く済ませることができます。また、早期に権利を取得することで、他社への牽制やライセンス交渉を有利に進めることが可能になります。
技術的に飽和し、特許権での差別化が難しくなっている分野の場合、技術的アイデアの新規性などに関わらず、形状に新規性などが認められれば、形状での差別化も可能です。
また、意匠は少しデザインを変えれば、侵害にならないのではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
意匠権には登録意匠に類似する範囲にまで権利が及ぶため、強力な権利になる場合があります。
商標については、ブランドを保護するものであり、デザインを保護する意匠法とは関係がないように思えます。
しかし、特定のデザインを使用し続けることで、デザインそのものが識別力を獲得するということもあり得ます。
例として、立体商標登録されているコカ・コーラの瓶が挙げられます。当時の特許庁は、瓶に印字されているコカ・コーラの標章に識別力があり、瓶の形状自体には識別力がないと判断していました。しかし、裁判所は、長年にわたり一貫してこの形状の瓶を使用した事実から、形状にも識別力があると認定しました。つまり、デザインであっても長年継続して使い続けることによって、デザインと人の認識が結び付き識別力を持つとされる事が認められた事例となっています。
特殊な意匠
意匠の中でも特殊な意匠として、「関連意匠」と「部分意匠」があります。「関連意匠」とは複数の意匠を1つのチームとして意匠登録することで、本意匠の類似の範囲を明確なものにすることができるものです。意匠権の権利範囲は、登録意匠とそれに類似する意匠ですが、類似という概念は曖昧なため、権利者からすれば類似の範囲を広く捉えたくなりますし、同業者からすれば権利範囲を狭く考えたくなるものです。そのような場合に使えるのが関連意匠です。本意匠と関連意匠との類似部分を通して類似範囲をイメージすることができるようになります。
一方、「部分意匠」とは製品のデザインの中で特に権利化したい特徴のみを権利化するものです。
デザイン開発では、物品全体のデザインはそのままにしておいて、ある部分のみのデザインを変更することがよく行われます。その場合、全体として見るとあまり変化は無いけれど、特徴的な部分のみは権利化しておきたい、というニーズが出てきます。
部分意匠制度では、物品の一部分のみを保護できるようにしたもので、権利化したい特徴のポイントのみを保護することができます。