民法改正で何が変わる ? 瑕疵担保制度の変更をかみ砕いて解説
法務



今般民法が改正されることが決まり、大きなニュースになっています。

民法は明治29年に制定された法律ですが、平成16年に口語化(それまでは昔のカタカナと漢字表記だったのを、現代語に書き直し)されたのを除き、ほとんど改正されずにいました。
しかしさすがに明治時代の法律を使い続けるのには無理があるということで、今回の大改正が実現しました。
改正の内容は多岐にわたりますが、ここでは、その中の一つのトピックである売買契約の瑕疵担保について触れてみたいと思います。

なお、改正後の民法は、まだ国会で成立した段階であって施行されていません。
報道などによると施行は2020年頃と言われており、それまでは従来の民法が引き続き効力を有しますのでご注意ください。


この記事の目次

売買契約の瑕疵担保とは


売買契約の瑕疵担保とは、ざっくりいうと、売買契約において、売った物に「瑕疵」(不具合とか欠陥という意味だと思ってください)があった場合、それを買った人は、契約解除や、欠陥品を掴まされたことによる損害の賠償を求めることができるという制度です。

契約解除の場合は、買った物を返すから払った金を戻せ、ということになりますし、損害賠償の場合は、例えば大工道具を買ったところ欠陥品だったため使っている最中にケガをした、というときの治療費などを払え、ということになります。

しかし、この瑕疵担保の制度については、法律の記載が明確でなかったため、解釈が固まっていませんでした。詳細を述べるとかなり専門的な議論になってしまうため割愛しますが、今回の改正で、解釈が分かれていた点がだいぶ整理されています。


改正法のポイント4つ


まずは改正法の条文を見てみましょう。条文は以下のとおりです。

562条(買主の追完請求権)
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引き渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。


1つ目のポイントとして注目すべきは、これまでずっと使われてきた「瑕疵」という用語が無くなったことです。
ただ、これは「瑕疵」という用語が専門的で分かりにくいことから「契約の内容に適合しないもの」と言い換えただけで、その内容はこれまでとあまり変わらないと言われています。それでも初めて条文を読む人にとっては、だいぶイメージしやすくなったのではないでしょうか。

1つ目のポイントは「瑕疵という用語が無くなったこと」



2つ目のポイントは、これまでの瑕疵担保では、その瑕疵が「隠れた」ものであることが必要とされていましたが、この要件が削除されたことです。
「隠れた」とは、買主が物を受け取った時に、どんなに頑張っても見つけられないこと(法律用語では「善意無過失」といいます)を意味するとされており、瑕疵が「隠れた」ものであったことは、買主が証明しなければなりませんでした。
しかし、改正によって「隠れた」という要件が削除されましたので、今後は不具合が見つけられなかったものかは問題にならないことになりました。

2つ目のポイントは「瑕疵が隠れたものであることが必要とされていたが、この要件が削除されたこと」



3つ目のポイントは、改正前の民法では、瑕疵があった場合に買主がとれる対応として明記されていたのは、契約解除と損害賠償のみであって、追完請求(ちゃんとしたものを代わりに渡せとか、不具合を修理せよなどと請求すること)ができるかは明確でありませんでした。

この点について改正法は、買主が①目的物の修補、②代替物の引渡し、③不足分の引渡しの3つの方法を取れることを明記しました。
ただし、第2項で、買主に責任がある場合は追完の請求ができないことも併せて規定されていますので、注意が必要です(買主に責任がある場合なので当然といえば当然ですが)。

3つ目のポイントは「買主が①目的物の修補、②代替物の引渡し、③不足分の引渡しの3つの方法を取れることを明記したこと」



最後に4つ目のポイントとして、買主に「不相当な負担を課するものでないとき」は、売主は、買主の請求と異なる方法で追完できるとなっていることが挙げられます。

買主が代替物をよこせと請求したところ、売主が修理で対応するような場合ですね。しかし、「不相当な負担」とは具体的にどういったことを指すのかは、改正法の文言から明らかではありません。今後の実務運用で意味づけが形成されていくものと思われますが、改正法が施行されてしばらくは、「よくわからない」状態が続いてしまうと思われますので、注意しなければなりません。

4つ目のポイントは「買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は、買主の請求と異なる方法で追完できるとなっていること」



今後のポイント


民法が改正されることでビジネス上どのような影響が出るのでしょうか。
まず、すでにきちんと契約書を締結し、その中で不具合があった場合についてもしっかり定めてあるという方については、大きな影響はないと思われます。民法は最低限のルールを定めるものですので、契約で異なる定めを置いた場合は、契約の内容が優先するからです。

一方で、例えば簡単な受発注書のみで取引しているような場合は要注意です。特に売主側にとっては、これまで買主から瑕疵担保を言われた際に、「隠れた」瑕疵ではないなどの反論が可能でしたが、改正によって自分の責任の範囲が変わってしまうことになります。そうでなくても、法律の文言はあいまいなところも多いので、契約でしっかりとルールを明記しておく方が安全な面は多いです。


まとめ


長くなってしまいましたが、今回の民法改正が、特に普段契約書を作成せずに事業を行っている方々に大きな影響を与える可能性があることがお分かりいただけたかと思います。

契約書などなくてもビジネスに支障はないと思っている方は意外と多いですが(そして実際にトラブルに見舞われるまで契約書の重要性に気づかないことが多いですが)、これを機会に、契約書を作成するよう運用を変えてみてはいかがでしょうか。

ご不明な点がございましたら、お気軽にご相談ください。
参照 : SHARES 弁護士 大久保和樹のページ

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