海外進出と国際税務「タックスヘイブン税制」その1
法務


この記事の目次

第1.海外事業展開と税務リスク



日系企業は、近年、海外への事業展開を進めています。例えば、経済産業省が実施している海外事業活動基本調査を見てみると、海外現地法人の数が5年前や10年前に比べて増加していることを明確に確認できます。
海外での事業展開をするにあたって考えなければならない事項は様々で、商品の調達や共有などのオペレーション体制、取引先の選定・与信管理などビジネス上の問題に限らず、ときにはその国・地域の政治経済情勢も考慮に入れなければなりません。

法律・規制上の問題もその一つで、中でも税務に関する問題は理解が難しく、取扱いに注意が必要です。判断を見誤ると予想していなかった課税を海外で受けるといったことにつながる可能性があります。
海外事業海外事業を行う際に、注意すべき税務上の問題点は、外国子会社合算税制(タックスヘイブン税制)、PE課税、移転価格税制など色々とありますが、今回の連載記事では、タックスヘイブン税制について取り上げて解説します。

第2.タックスヘイブン税制とは?



タックスヘイブンとは、一般に租税回避地などと説明され、税率の低い国や地域を指してます。“租税回避”というと、近時では、パナマ文書の流出が報道されたところが比較的記憶に新しいところかもしれません。その中で耳にしたようなケイマン諸島、英領バージン諸島(BVI)、あるいは香港やシンガポールなどは一般に税率の低い国や地域と理解されています。

タックスヘイブン税制は、企業の所得がそのような国・地域に移転されてしまって、本来日本で課税されるべき税金を徴収できなくなるのを防ぐための税制です。例えば、日本の会社が自社で支店を作って海外ビジネスをすれば、海外の支店が海外の事業で獲得した所得についてもあわせて日本で法人税を課されますが、海外の低い国で現地法人を設立すると、形式的には日本の税金を課されません。

そこで、そのような法人税率の低い国・地域で子会社を設立すると、その子会社に計上される所得は日本の法人税の範疇外になってしまうわけです。

このようにタックスヘイブンを通じた租税回避に対する対抗策として、海外の子会社等の所得についても日本の税金の対象にすることを目的として、政策的観点から特別に設けられた制度がタックスヘイブン対策税制です。
租税特別措置法という特別の税法に規定されていることからも、特別の制度であることが理解できるでしょう。

では、どのようにして日本の税金の対象として捕捉するかですが、例えば、日本の会社がタックスヘイブン対策税制の適用を受けると、海外の子会社の所得も日本の会社の益金に算入されることとなります。
タックスヘイブン対策税制は、外国子会社合算税制とも呼ばれますが、この呼び方の「合算」という語感からすると、海外の子会社の所得を日本の会社の益金に算入するということがよりイメージしやすいかと思います。

第3.タックスヘイブン対策税制の基本構造の理解



タックスヘイブン対策税制については、直近ですと平成29年に大きな改正があり、適用の有無を判断する要件の構造が変わり、また、制度の捕捉する対象が拡大されました。

タックスヘイブン対策税制は、導入されて以来40年ほど経過していますが、租税回避という政策的観点から設けられた制度であることもあってか、昨年の改正以前もその枠組みに影響するような改正が何度か行われてきています。
そういった改正の有無に関わらない基本的な考え方をまず理解してもらうため、ここからは、タックスヘイブン税制の主要な要件についての考え方を説明します。

1.日本の会社と海外の現地法人との関係を確認する必要があること


タックスヘイブン対策税制が防止しようとする租税回避は、海外子会社等を用いたスキームであることから、日本の会社と海外の現地法人との間に前者が後者を支配できるような関係があることが前提となります。

そのような支配関係の有無の判断基準としては、形式的に株式数等に着目する考え方に加え、その他の要素を考慮してより実質的に支配関係の有無を判断する考え方が成り立ちます。また、株式数等に着目する考え方においても、直接保有する数に限らず、他の会社等を通じて間接的に保有する数を計上する考え方も可能です。

2.現地法人の業態や事業等を考慮する必要があること



海外の現地法人が租税回避を目的として用意された傀儡であればタックスヘイブン対策税制の適用も正当化されましょうが、堅実に事業を行っている場合には同制度を適用されるべきではありません。

そこで、海外の現地法人が独立した企業としての中身を備えているかどうかも考慮する必要があります。その際のチェックポイントとしては、海外の現地法人の主たる事業内容(例、株式の保有などではないか)、事業を行うための事務所や店舗等の有無、現地法人の本店で事業の管理・支配を行っているか、取引先における関係会者の占める割合などが想定できるでしょう。

3.現地法人の所在国の属性を考える必要があること



また、タックスヘイブンとされる国・地域の現地法人を通じた租税回避を防ぐという制度目的に由来し、そもそもその国・地域がタックスヘイブンなのかどうかを含め、その国・地域の属性についてもチェックする必要があります。

この関係では、現地法人がその国・地域でどの程度の割合の法人税を負担しているのかに加え、その国地域が国際的な租税回避への取組みに協力的に取り組んでいるかどうかも考慮要素となりえます。

4.現地法人の受け取る所得の性質を考慮する必要があること



タックスヘイブンを通じた租税回避として想定されやすいのは、日本の会社の所得を海外現地法人に付け替える、つまり利益移転(profit shifting)を行う事例です。無形の財産のライセンス料や、株式の配当、貸付金の利子などは、利益移転に用いられやすい所得ですので、租税回避を防止する観点からはより注意が必要です。
そこで、現地法人の受け取る所得がそのような受動的な所得に該当しないかなど、所得の種類・性質にも着目することが考えられます。

以上、あくまで一つの考え方というような形で説明しましたが、これらは昨年の改正を踏まえた、タックスヘイブン対策税制の要件に概ね合致しています。ここではかなり簡略化しましたが、実際のタックスヘイブン対策税制は、上記のような要件をより複雑に組み合わせた要件構造となっています。ここでの大枠の説明を受けて、タックスヘイブン対策税制の適用についてより細かく判断・分析する必要を感じられた場合には、専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

なお、今回は法人に対する制度を中心に説明しましたが、タックスヘイブン対策税制は個人にも適用される制度ですので、ご注意ください。

まとめ



海外ビジネスを行ううえで、税務問題は思わぬ落とし穴となる可能性があります。タックスヘイブン対策税制については、その適用を受けると、海外の子会社の事業から生じた所得について日本の親会社で税金を徴収されてしまうおそれがあります。

タックスヘイブン対策税制については、平成29年の改正により対象の範囲が拡大しましたので、従前問題がない場合でも、新法の施行(平成30年4月から)に伴い、新たなリスクが生じる可能性があります。これから海外進出を行う場合には、事前の分析、あるいは既に進出している場合には、体制上の問題がないか検証をすることが有益と考えます。

タックスヘイブン対策税制の理解としては、まずは、大枠の考え方を押さえることが大事です。大枠の考え方を踏まえてリスクの検証の必要があるかどうかを、簡単に自己検証してみてはいかがでしょうか。

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