ビットコインの規制動向②【どのように顧客財産の安全を確保するのか?】
法務


この記事の目次

第1.前回のおさらい:仮想通貨取引所の規制


前回の記事では、仮想通貨取引所には現状、どのような規制が設けられているのかを概観しました。
仮想通貨交換業が登録を業規制の対象とされ、登録を受けた仮想通貨交換業者は資金決済法上で行為規制を課されるほか、犯罪による収益移転の防止に関する法律(犯収法)の下でも特定事業者として行為規制が課されていることを説明しました。

第2.現状の規制:分別管理義務として求められる具体的な水準


コインチェック社の仮想通貨NEMの流出事件や、その後の仮想通貨取引所各社への一斉の行政処分で指摘されていた顧客保護という観点からは、顧客の財産が安全に確保するための体制が規制を通じてどのように担保されるかが重要です。

この関係で検討すべき行為規制は、顧客から預かった財産の分別管理義務(資金決済法63条の11)です。 分別管理義務は、仮想通貨交換業者によって顧客の財産が失われずに管理されることを目的とするものだといえるからです。

分別管理の方法は内閣府令(※1)に定めがあり、金銭については銀行預金や信託銀行への金銭信託の方法によるべきこととしているのに対し、仮想通貨については帳簿の上などで明確に区分することを定めているにとどまり、第三者を介在させて分別管理することまでは求められていません。(※2)

また、仮想通貨交換業者に対する金融庁の事務ガイドラインは、分別管理方法についての監督上の着眼点を述べていますが(Ⅱ-2-2-2-2(1))、そこでも分別管理方法についての社内規則の制定、固有財産と預かり財産の社内規則に基づいた区分などを求めるものの、具体的にどのような管理方法を社内規則で採用すべきかについての明確な要求はありません。

前回の記事で、暗号鍵等の保管場所の区別などが求められていると指摘しましたが、その具体的な方法や基準は示されていません。 コインチェック社の事件に関しては、盗難された仮想通貨がネットワークに接続したウォレットで保管されていたことが問題であったとの指摘がなされています。(※3)
もっとも、分別管理義務に関する規制上は、ネットワークから分断して保管することまでは必ずしも求められていません。
そのため、他の仮想通貨交換業者の中にも、まだネットワークから分離した環境での保管をしていないところがないとも限りません。(※4)

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※1:仮想通貨交換業者に関する内閣府令20条
※2:これらは直接的には仮想通貨交換業者に課される義務ですが、改正資金決済法施行前から仮想通貨交換業を営み、施行から6ヶ月間以内に登録申請を提出した、みなし仮想通貨交換業者にも適用されます。
※3:コインチェック社は、1月の流出事件を受け、ホットウォレットで保管していた顧客の仮想通貨をコールドウォレット等に退避させるなどの対応を講じたと発表しています。
※4:各取引所による顧客資産の管理方法は、ホームページ等で確認できます。

第3.他の金融事業者の場合の顧客保護制度


では、他の金融事業者については、顧客保護のため、どのようにして財産の確保が図られるのでしょうか。
いわゆる電子マネーは、電子的な決済手段という点で仮想通貨に類似します。電子マネーの発行者である前払式支払手段の発行者や資金移動業者の場合は、資金決済法上、保証金の供託が求められ、これによって顧客保護のための最低限の財産確保が図られています。(※5)

また、証券会社は、市場での取引の仲介をする点で仮想通貨交換業者と共通し、顧客資産の預かりが生じます。証券会社は顧客からの預かり資産を保管振替機構において別口座で区分する(株式等の場合)、または信託銀行に預託する(金銭の場合)などの方法によって、分別管理する義務を負い(※6)、また、万一の信用危機が生じた事態に備えた基金に加盟する(投資者保護基金)こととされています。(※7)

つまり、他の金融事業者の場合には、供託や基金を通じて一定の資産を顧客保護のために確保しておくことや、保管振替機構や信託銀行のように第三者を通じた管理を求めことで、財産のより安全な確保を図られているということです。

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※5:同法14条以下、43条以下
※6:金融商品取引法43条の2、金融商品取引業等に関する内閣府令136条、141条など
※7:金融商品取引法79条の27

第4.今後の規制の動向


このように見てくると、他の金融事業者の場合と比べて、仮想通貨交換業者に対する現在の規制は、顧客預かりの仮想通貨の管理方法について、顧客保護にとって十分なものではないように映ります。
ただし、これは仮想通貨の性質上、他の場合と異なり、管理の分別性を高めるため、第三者が介入するということが技術的に難しいからかもしれません。

業界では、既存の事業者団体(※8)によって自主規制団体として認定を受けるための動きが進められており(※9)、顧客資産の保護のためのより具体的なルール作りが進むことが期待されます。

報道によれば、このルール作りでは、今回取り上げた顧客財産の保護以外でも、新規仮想通貨の発行(Initial Coin Offering、いわゆるICO)など、一般大衆や投資家の利害に関わるその他の重要な問題が取り上げられることが予定されているということです。 また、今回の一斉処分が下されたのと同日付で、金融庁においても有識者による 研究会を設置する旨が発表されました。

仮想通貨のブームを好機ととらえ、仮想通貨取引の開始やICOなど、新たな取り組みを試みる個人や事業者が急激に増えている現状からすると、顧客や利用者などの保護の観点から、規制の強化は必要だと考えます。

また、規制の強化は、仮想通貨が社会的信用性を獲得してくことにつながり、業界にとってもプラスになるのではないでしょうか。 そして、規制強化のうえで、業界をリードする事業者によって適正な運営のための枠組みが作られていくのは、実務に即したルール作りを期待でき、好ましいことでしょう。

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※8:日本仮想通貨事業者協会及び日本ブロックチェーン協会
※9:資金決済法上の認定資金決済事業者協会(同法87条以下)になるということです。

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