「年俸制は割増賃金を支払わなくてよい」は間違い!
法務


年俸制を導入している企業や、これから導入することを検討している企業は多いと思いますが、年俸制を正しく運用できている企業は大変少ないという印象です。
年俸制については、導入する場合の就業規則不利益変更の問題など、いくつかの留意点がありますが、今回は年俸制と割増賃金の関係に注目してみていきましょう。

この記事の目次

そもそも年俸制とは?


年俸制とは、「賃金の全部または相当部分を労働者の業績等に関する目標の達成度を評価して年単位に設定する制度」などと定義される賃金制度で、大企業の上級管理職者を中心に相当程度広まり、現在では、成果主義の観点から年俸制を取り入れるベンチャー企業も多くみられます。

年俸制を導入した場合であっても、賃金は毎月1回以上一定期日払い原則(労働基準法24条2項)が妥当しますので、1年俸額を13以上に分割したうえで、そのうち12を各月の給与とし、残りを賞与という名目で支給、という運用が実務的には多いようです。

年俸制を導入する場合には、対象者や年俸の構成、年俸の決定方法・手続、人事評価の基準、時間外労働等の取り扱いといった基本的事項について、「年俸制規程」や「賃金規程」などに明確に定めておくことが重要です。

年俸制は残業代を支払わなくてよい?


年俸制を導入している企業の中には、「うちは年俸制だから残業代は支払う必要がない」と誤解している企業が時々見受けられますが、これは誤りです。年俸制それ自体には時間外労働の割増賃金を免れさせる効果はありません。

このような誤解が広まってしまった背景としては、年俸制は仕事の成果に応じた賃金支払をしようとする制度であることから、割増賃金の支払いの必要がない管理監督者(労働基準法41条2号)や裁量労働者(労働基準法38条の3、38条の4)に適合しやすいためでしょう。

ただし、裁判所で管理監督者性が認められるためのハードルは、一般の企業が認識しているレベルよりも相当程度高いことには注意が必要でしょう。

年俸制における割増賃金の算定


また、年俸制を導入する場合には、一般的な年俸制の場合、割増賃金や平均賃金の算定基礎に賞与部分も含まれることに留意すべきです。
というのも、除外賃金(労働基準法37条5項、労働基準法施行規則21条)として認められる賞与は、定期または臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないものであるとされているところ、あらかじめ年俸額が確定している年俸制の場合、これに当たらないからです(平成12年3月8日基収78号、裁判例としては中山書店事件(東京地裁平成19年3月26日判決・労判943号41頁)など)。

なお、当初から、年俸のうち時間外労働手当等に充当する部分を年俸制規程や賃金規程等で明確に定めておけば、その部分は割増賃金の算定基礎にならず、時間外労働手当等の定額払いとして扱うことはできます。
ただし、この場合であっても、実際の時間外労働等が手当額に満たない場合には、使用者には差額支払い義務があることには注意が必要です。

まとめ


以上のとおり、年俸制を導入したからといって直ちに残業代を支払わなくてよくなるわけではありません。誤った運用を続けていけば、突然、従業員から未払残業代請求を受けたり、労基署から指導が入るなどのリスクがあります。

そもそも年俸制が自社に合っているかどうか、年俸制を導入するとして適法に賃金コストを抑えるためにはどのような制度設計とすればよいか、賃金規程や年俸制規程にはどのように記載すべきかなど、自社の賃金制度や企業風土等を踏まえ、労務の専門家を交えた事前の十分な検討が重要といえます。

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