企業活動をしていると、取引先や顧客との間でクレームが生じることは避けられません。契約書や利用規約や取扱説明書を作ることで、ある程度避けられるクレームもありますが、100%クレームを避けることは不可能と言えるでしょう。
クレームへの対応を一歩間違え、正当なクレームを不当な要求として対応するなど不適切な対応をすれば、SNSで拡散されて炎上したり、社会的な非難を浴びたり、紛争が起きて裁判になったりして、最悪の場合、企業生命が絶たれてしまう恐れがあります。
一方で、悪質クレーマーの不当な要求に応じてしまうと、担当者の方が長時間に渡り対応追われ、疲れ切って本来の仕事ができなくなったり、更なる不当な要求に応じざるを得なくなったり、という事態も起こり得ます。
そこで、企業にとってクレームに対する正しい対応が必要不可欠です。
とは言っても、初めてクレームが寄せられたときに、一体何をどうすれば良いか、分からない方もいらっしゃるかと思います。
何をどうすれば良いか分からず相手方の剣幕に気圧されてとにかく謝っているうちにクレームの原因がよくわからないままお金を払ってしまった、毅然と対応したら実は自社に非があり相手方を怒らせ話がこじれてしまった、といったありがちなミスを避けるためには、クレームが寄せられたときのために、あらかじめ対応を考えておくことが重要です。
もちろん、クレームが寄せられたときに、毎回専門家に相談をすることができれば、それに越したことはありませんが、些細なクレームについて逐一相談するのは現実的ではありません。
そこで、専門家でなくてもできるクレームに対する初歩的な対応方法についてご説明します。
1.当事者を特定する
クレームが正当な要求であるのかどうかを判断するためには、まず、相手方がどこの誰か特定をする必要があります。そこで、住所、氏名、連絡先を確認しておく必要があります。例えば、どこの誰かも名乗らないような方からのクレームや、第三者の代理人を名乗る方からのクレームであれば、正当な要求では無い可能性が高く、特に注意が必要と言えるでしょう。
2.事実関係を確認する
そもそもクレームが正当な要求なのか、不当な要求なのかは、事実関係を確認し、検討しなければ分かりません。そこで、相手方を含む関係者全員から詳細な事実関係を聞き取っておくことが重要です。その際に、いわゆる5W1H(Who(だれが)、When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように))を意識すると良いでしょう。また、事実関係を聞き取る際に、その話の裏付けとなる物があるのかも確認しておく必要があります。
例えば、商品に関するクレームであれば、その商品を購入した裏付けとなるレシートや領収書、商品そのもの、損害が発生したというクレームであれば損害の裏付けとなる請求書や領収書があるのかどうかを確認しておくべきです。そして、当然あるはずの物がないクレームには特に注意が必要と言えるでしょう。
クレームが不当な要求の場合には、相手方の主張する事実関係が不自然・不合理であることが多々あります。この不自然さ・不合理さは、詳細な事実関係を聞き取らなければ分からないこともありますので、できる限り具体的な内容を聞き取ることをお勧めいたします。
妥協し、事実の確認を怠り、不利な事実を認めてしまうと、悪質なクレーマーに付け入る隙を与えることになりますので、ご注意ください。
3.記録をする
クレームの相手方や関係者から話を聞く際には,録音をするなど記録を取っておくことで、後日、言った・言わない、というトラブルが起きることや、担当者が辞めてしまって話を聞くことができなくなってしまった、という事態の発生を防ぐことができます。特に悪質クレーマーは話を二転三転させて、自分に有利に主張を変えていくことがよくあります。
また、対応した担当者の些細な言葉尻を捉えて更にクレームをつけてきたり、一旦解決した問題を蒸し返してきたりすることもあります。このような悪質クレーマーに対してきちんと反論をしていくために、記録を取っておくことが特に重要です。
録音はスマートフォンの録音アプリでも代用できますが、話が長時間に渡ると電池が切れてしまって途中から録音できていなかったといったミスが発生することも考えられますので、ICレコーダーを準備しておくことをお勧めします。
仮に、録音ができなかった場合でも、担当者間で聞き取った事実を書いた報告の電子メールをやり取りしたり、日付や時間やその場に誰がいたかを書いたメモを作成しておいたりすることで記録をすることができます。そこで、録音ができなかった場合でも必ず何らかの形で記録をすることをお勧めします。
なお、相手方に断りを入れないまま、録音をしたとしても、プライバシー権の侵害にはならず違法ではありませんし、民事裁判では証拠として認めてもらえますので、事前に断りを入れる必要はありません。ただし、悪質クレーマーに対しては録音をしていることを伝えることが牽制になりますので、相手方に断りを入れるべきかどうかはケース・バイ・ケースと言えますが、判断に迷うのであれば、事前に断りを入れずに録音する方が簡単です。
クレームの裏付けとなる物が存在する場合には、その物を写真撮影したり、コピーしたりして、その状態を記録しておくことが、クレームが正当な要求なのか、不当な要求なのか、判断するのに役立ちます。
例えば、領収書の日付が相手方の主張と矛盾しないのか、クレームの対象となった商品に不自然な点がないか等について、写真や動画によって記録しておくことをお勧めします。
クレームが起きたときに原因を調査するのは当然のことですので、相手方が事実関の確認や記録化を拒むのであれば、特に注意が必要です。
4.まとめ
このように、当事者の特定、事実の確認、記録、と手順を踏めば、相手方の要求が正当なのか、不当なのか、見えてくると思います。 この段階で初めて、企業として、どのような対応をするか決めるのが良いでしょう。それでも対応に迷う場合には、どのように対応すべきかクレーム対応にある程度精通した弁護士に相談することをお勧めします。
また、同じ様なクレームが別の機会にも起きるようであれば、契約書や利用規約や取扱説明書の作成・改定により手当てをしておくのが良いでしょう。 その場合にも、具体的な事例を基に、弁護士に相談をすることをお勧めします。