相続税の改正民法が2019年7月に施行されることに伴い、2020年4月より配偶者居住権が創設されます。これにより相続において何が変わるのか、ご紹介致します。
1.配偶者居住権とは
相続が発生した際に、配偶者が被相続人の所有する不動産の居住権を獲得できる権利のことです。 配偶者は、他の相続人よりも相続税法上での立場が優遇されていましたが、遺産分割での相続分によっては、被相続人と居住をしていた住居を売却する必要に迫られ、住み慣れた家を失うことや、また住み慣れた家を相続財産として受け取ることが出来ても、相続財産としての現金を受け取ることが出来ない等の問題がありました。配偶者居住権の創設により、不動産の所有権と居住権が分離され、これらの問題が解消されることになります。
2.短期居住権との違い
短期居住権は、遺産分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から最短でも6ヶ月を経過した日までの間、配偶者が居住建物に無償で居住できる権利のことです。配偶者居住権は期間を限定せず永久的に居住権を獲得することに比べ、短期居住権は限られた期間の居住権となります。 また短期居住権は配偶者が所有権、居住権を相続により取得したかに関わらず、無償で居住出来るものであるため、所有権と居住権を分離させる必要はなく、相続税額の計算にも従来と変更はありません。
3.配偶者居住権の評価方法
不動産の所有権と居住権が分離されるにあたり、不動産の所有権部分と居住権部分が何円ずつであるかを評価する必要があります。①建物
建物の配偶者居住権は次の算式で求めることが出来ます。建物の時価△建物の時価×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利原価率
上記で計算された金額が居住権部分であり、建物全体の時価から居住権部分を差し引いた金額が所有権部分の金額です。
②土地
土地の配偶者居住権は次の算式で求めることが出来ます。土地等の時価△土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利息による複利原価率
上記で計算された金額が居住権部分であり、土地全体の時価から居住権部分を差し引いた金額が所有権部分の金額です。
4.遺産分割はこう変わる!
遺産分割は原則として相続人の法定相続分に沿って行われます。今回は夫婦と子供二人の世帯の夫が死亡し、相続人が妻と子供二人の場合を考えます。また夫の遺した財産は住居6,000万円と預貯金4,000万円だとします。①従来の遺産分割
法定相続分は夫が死亡し妻と子供二人が相続人の場合、妻が1/2、子供が1/4ずつです。よって夫の遺した財産計1億円は、妻が5,000万円分、子供が2,500万円ずつ分けることとなります。しかしこの金額で実際に分けようとすると、住居は6,000万円、預貯金は4,000万円であるため、分割が難しく、住居6,000万円分を売却して換金し、分割する方法が採用されてきました。よって夫が残した財産である住居に生前から夫婦が同居をしていても、遺産分割のために住居を手放す必要がありました。
また住居を手放さない場合は、妻が住居の6,000万円のうちの5,000万円分の所有者となり、預貯金が全く受け取ることの出来ない場合もありました。
妻である配偶者の法定相続分が1/2と子供二人より大きく優遇されているものの、遺産分割では被相続人と居住をしていた住居を売却する必要に迫られ、住み慣れた家を失うことや、また住み慣れた家を相続財産として受け取ることが出来ても、相続財産としての現金を受け取ることが出来ない等の問題がありました。
②配偶者居住権を利用した遺産分割
分割すべき金額に変わりはありません。法定相続分は夫が死亡し妻と子供二人が相続人の場合、妻が1/2、子供が1/4ずつです。よって夫の遺した財産計1億円は、妻が5,000万円分、子供が2,500万円ずつ分けることとなります。上記では住居の分割が難しいとされていましたが、配偶者居住権を利用する場合には、住居を所有権と配偶者居住権に分割することが出来ます。この住居の所有権が3,000万円、配偶者居住権が3,000万円と評価をされた場合、妻は配偶者居住権の3,000万円と預貯金2,000万円の取得をすることが可能となります。
よって住居を手放すことなく、住み慣れた家に住みつづけ、かつ現金を受け取ることが出来ます。
5.配偶者所有権の消滅時期
配偶者居住権は原則として配偶者が亡くなるまで存続します。以下の条件に合致した場合のみ、配偶者居住権が消滅します。①事前に定められた配偶者居住権の存続期間が終了した時
期間を定めなかった場合、配偶者が亡くなるまで存続します。②善管注意義務を怠った時
配偶者が取得出来るのは居住権のみであり、上記の例では所有権は取得しません。よって所有者を持つ人が別の人、上記であれば子供のため、子供の意思に沿った住居の使用をする義務があります。③配偶者が建物所有者に断る事なく、勝手に建物を増改築や、他人に使用させた時
一般的なリフォームは認められていますが、仕様を変更して事務所にし、会社に賃貸させた場合などは認められません。④配偶者が配偶者居住権を放棄した時
配偶者本人の意思の提示が必要です。6.配偶者居住権の問題点
遺産分割上の問題点は解消されますが、別の問題が発生する場合があります。①居住権付の住居の売却が難しい
所有権と居住権を持つ人は異なるため、所有権を持つ人が住居を売却するには、居住権を放棄して貰う必要があります。また住居の売却のみならず住居の取壊しも、所有権を持つ人だけの判断では行えないため、更地にしての売却も難しいです。また居住権を持つ人が住居を売却したいと考えた際も、その権利は所有権を持つ人にあるため、居住権を持つ人だけの判断では行えません。
②配偶者が認知症になった時はさらに売却が難しい
配偶者が認知症になった場合、上記であれば妻が認知症になった場合、子供は心配をして施設への入所を考えることでしょう。所有権が子供にあり、居住権がない住居であれば、住居に妻は戻らないと考え、その住居を売却して、施設入所のための資金に充てることが出来ますが、居住権がある住居を売却するには妻の同意が必要です。妻が認知症になった場合、子供達が住居の売却について妻の同意を得るのは、難しくなります。この対策は日ごろから子供達が注意をして認知症の気配を感じとるしかありません。
③配偶者居住権が利用出来るのは法律上の配偶者のみ
生前に同居をして看病や介護をしてくれていた親戚や、事実婚状態の内縁の夫、妻にはこの配偶者居住権は利用することが出来ません。④所有者の税負担が大きい
固定資産税の課税は所有者に納税義務があります。実際に住んでいるかに関わらず税負担がありますので、配偶者居住権を利用して住居に住み続ける場合には、所有者への配慮も必要となります。7.まとめ
配偶者居住権について、どのように相続が変わるのかをご紹介致しました。創設は、2020年4月ですので、以降に相続が発生しそうな場合は、どのように利用をしていくのか推定相続人間で話し合い、対策を行っていくと良いでしょう。財産のある人が亡くなってからの相続税の申告期限は10ヶ月です。長いようで葬儀や様々な手続きを行っていると、あっという間に過ぎてしまい、なかなか遺産分割を慎重に考える時間はありません。事前に対策を行うことで、様々なトラブルを回避出来ます。 配偶者居住権など、相続に関してお悩みのことがございましたら、身近な専門家に相談されることをお勧め致します。