そもそもM&Aってなに?どんなことをすることなのか?(前編)買収までの施策について解説します
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ZOZOのTOBをもう一度考えてみる

いろんな情報が出ていますが、まずはファクトベースの情報と当事者の話に真剣に耳を傾けてみます。

・2019年9月12日(木):ソフトバンク傘下のヤフー㈱(10月にZホールディングスへ変更)はアパレル通販サイト大手の「ZOZOTOWN」を運営する㈱ZOZO(以下ZOZOという)に対してTOBを実施すると発表
・ZOZOは同日、ヤフーからのTOB提案に賛同し、創業者の前澤友作社長が退任したと発表、後任にはNTTデータ出身の沢田宏太郎取締役が就任
・前澤氏はZOZOの株式の36%を保有しており、このうち30%をTOBに応じて売却の予定(当時)
・前2019/3期の連結決算ベースで見て、年商9547億円(税引後利益778億円/純資産9105億円)のヤフーが、年商1184億円(税引後利益159億円/純資産226億円)のZOZOを買収
・ヤフーのTOBは総額4000億円でZOZO株式の過半数50.1%の取得を目標 ※これにより時価総額は8000億円となる
・TOB期間は2019年9月30日-2019年11月13日
・2019年10月11日時点のZOZOの時価総額は約6750億円に上り、当時の買付価格は1株当り2,620円で発表前日11日の終値2,166円より21%程高い水準
・ヤフーサイドでは、買収に必要な資金は、自己資金と金融機関からの借り入れで賄う
・ZOZOはTOB後も上場を維持
・今回のM&Aは両社の共同記者会見で発表された通り、買い手のヤフーにとっては2019年6月末現在で約1300店が出店し、7300以上のブランドを扱う国内有数の衣料通販サイトとなっているZOZOTOWNを取り込むことで、EC業界で先行するアマゾン・ドット・コムや楽天に対抗し、トップに立てる見込みが立ち、売り手側のZOZOにとってはヤフーの傘下に入ることで成長の加速が期待できるという、お互いの会社にとってシナジー効果が期待できる



欧米・中国等の大企業とのグローバル競争、人口減少と所得の伸び悩みに伴う内需縮小にさらされている国内のほとんどの業界に共通する日本の企業の経営環境の中では、何の違和感もない、大が小を傘下に収める「ありふれた」M&Aです。

所有と経営の分離という法的仕組みはあるとしても、それは「べき」ではなく「できる」の話です。経営の承継と共に所有を承継する利点は確かにあり、他社への自社株売却という「売りのM&A」は今や当然の選択肢であり、「会社乗っ取り」という悪しき偏見がなくなった現在は、M&Aは全国で活発に行われているようになりました。

また、中小企業あるいは個人事業主にとり、大手企業同士のM&Aは別世界の話ではなく、後継者不足による「大廃業時代の到来」と言われている現在、中小企業にとり「事業承継」は最も大きな課題となっています。

そもそもM&Aはどういうことをすることなのか、小説家が言うようなビッグワードで括るのではなくプロセスエンジニアリングの観点から今回は紹介できればと思います。

投資目的・投資クライテリア・投資計画の策定

まずはやはり目的論、投資目的の設定が重要です。純投資として儲かればいいというものではなく、そこを守ったうえで、何のためにやるかというのが人間には必要です。

以下の前澤氏のnoteを拝見してもとても美しいストーリーでその目的論ができてから(組織内で共有されてから)投資クライテリアや投資判断基準を定めておく必要があります。そうでないとスクランブルプレーのM&Aの交渉には追い付けません。

投資クライテリアは形式基準といったもので、規模感、業種、シナジーの内容で分類し、合致非合致を判断するようにします。

投資判断基準は、「実際に会社をデューディリジェンスなどで見た時にどういう基準が満たされていれば投資GOか」とここでは定義します。
想い先行だけでも難しいし科学的な判断だけでも難しいところですが、少なくとも、会社の役員レベルでそのあたりの話を事前にして合意を形成し、会社としての判断基準を作っている会社がどれだけあるか、疑問ではあります。が、本来そうあるべきです。

その他、検討手順や社内ディシジョンというデュープロセスをどう設計するか、ここも重要です。おそらくもれなくダブりなく、かつ、スピード感や現場の臨機応変に合ったものを作れているところは少ないと思います。また、判断権者にM&Aや投資の知識のない人や目に見える部分しか評価しない風土だと、ぶっちゃけ難しいと思います。

バイアウトファンドにおけるソーシング活動のポイントとITの活用

ソーシング活動のポイントについて、説明する前に、そもそもM&Aによる価値創造にどんな種類があって各それの対価を誰が享受するかをざっくりと整理します。利益は価値創造の表れで、コストも価値創造の裏返しなので、ここでは利益とコストを区別せず使用します。

M&Aによる価値創造

①案件開発コスト:M&A案件を発掘したエージェントの利益
②デューディリジェンスコスト:会計士・税理士・弁護士等の利益
③資本コスト(ローン):レンダーの利益
④資本コスト(エクイティ):買収者の利益
⑤改善による利益(バリューアップ):買収者と買収対象会社の利益
⑥ビジネス利益(シナジー):買収者と買収対象会社の利益
⑦売却利益(アンダーバリューvs.フェアバリュー):買収者の利益


ソーシングは①の話です。

①に関して補足すると、M&Aマッチングサイトがエージェントの機能を補完代替してきています。また、その他、伝統的に「スペシャルシチュエーション」といえるような会社対会社のディレクトな関係でのM&Aの成立もあります。上記のZOZOとZHDの事例はそうかもしれません。

買収手続の内容と時間軸

これは概ね型はできております。

買収側から見たM&Aプロセス

①ノンネームという社名や推測可能な情報を伏せた資料の受領
②関心表明の伝達と秘密保持契約の締結(あるいは秘密保持誓約書の提出)
③社名開示とIM(Information Memorandum)の受領
④投資課題の把握,投資クライテリアとの合致の確認やストラクチャーのプランニング
⑤LOI(Letter of Intent、意向表明書)の提出・買収提案
⑥トップ面談
⑦独占交渉権の付与
⑧基本合意
⑨デューディリジェンス
⑩最終提示(価格等)
⑪M&A契約締結
⑫Pre Closing
⑬支払・引渡し
⑭Post Closing(表明保証の検討含む)
⑮買収後の施策の実施(100日、月次、四半期、年、5年など)


価格の折り合いがつきにくい場合は、⑤LOIや⑧基本合意や⑩最終提示のところで、買収側から建設的な提案をしていく必要があります。
バーゲニングパワーのバランスはどちらサイドが積極的かにもよるのですが、一般的には、独占交渉権の付与までは売り手優位、 それを超えると買い手優位になります。というのも、独占交渉までは「Beauty Contest」をされている状態で買い手は自社の魅力をアピールする立場にあり、独占交渉以降は、そのオプションを手放された状態で、デューディリジェンスの情報開示等の負担を負い相当の労力をつぎ込み、案件が成立しないとなればそのコストを負担することになるためです。従業員に秘密にしながら売却手続に必要な情報開示をしていくのはかなり難しいものです。

なお、案件不成立のFail Costは買主にとっても痛いとは思いますが、もともと資金に余裕があるからM&Aを行うのであり、 それは織り込み済みということが多いものと思われます。なお、売手のFail Costも、従業員ばれというリスクが現実化した場合を除いては、そこで整理したりPDF化した情報は次の買い手候補に使えるものなので、全くすべてFail Costとなるわけではありません。期待を裏切られるという精神的ダメージといったナイーブな要素はもう2020年では誰も言わないでしょう。
(後編)では、買収後の施策にもフォーカスしていきたいと思います。

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