民法改正を背景から、契約実務への影響と対処法について解説します【後編】
法務


さて、民法改正については『民法改正の概要から、基本的な内容とポイントを解説します【前編】』 にて、概要とポイントを解説し、全体像をつかんでいただくことに主眼をおいて説明していきました。
今回の【後編】では、改正事項のうち、多数の改正民法の中から、特に事業活動を行う事業者・経営者の方々が押さえておくべき事項にフォーカスし、契約実務への影響が大きいものを中心に、改正点をより深掘りした形で3点のポイントに絞って解説していきます。

この記事の目次

1.法定利率に関する改正事項

現行の民法においては、法定利率については、民事の取引か商事の取引(例:会社同士の取引)かによって定められていましたが、改正によって、以下のように統一されることとなりました。

改正の内容

改正前 改正後
民 事 年5%(現行民法404条)年3%
(改正民法404条、現商法514条削除)
※ただし、3年ごとに変動を判断
商 事 年6%(商 法514条)

改正の背景

現在の法定利率は制定当時の市中金利を前提としておりましたが、近年では1992年以降、日本銀行が定める公定歩合が引き下げられたことに伴い、市中金利も低下していくこととなりました。
そのため、現在の民法で規定する法定利率が、市中金利とかけ離れたものになっていったことから、今回改正されたものです。

今後の動き

なお、今回の改正により、法定利率は年3%へと引き下げられますが、法定利率を市中の金利の変動に合わせて緩やかに上下させる変動制が導入され、具体的には3年ごとに法定利率の見直しが行われることとされています。

実務への影響

法定利率については、今回の改正により、大きな変更があった箇所の一つです。
これまでは、契約書などにおいて、約定利率を定めなくても、取引の性質に従って、年5%又は年6%の割合による遅延損害金を請求することが可能とされてきました。しかしながら、今後は約定利率の定めがない場合は、年3%あるいは3年ごとに見直される法定利率に従った遅延損害金しか請求することができないこととなります。

したがって、実務上の対応としては、契約書において、「契約の相手方が債務の履行を怠った場合は、支払い期限の翌日から起算して支払いを終えるまで間、年○%の割合による遅延損害金を支払わねばならない」といった条項を追加しておくことが必要となります。

また、「金利については法定利率による」と言った文言のままにしていると、後に双方の認識が異なるなど思わぬトラブルにつながるおそれがありますので、注意が必要となります。

2.契約の解除に関する改正事項

現行の民法においては、債務不履行発生時の「契約の解除」については、当該債務不履行によって生じる「損害賠償請求」が付随するものと解されておりました。そのため、債務者に帰責事由がある場合にのみ契約解除が可能とされていましたが、今回の民法改正では「契約の解除に関する要件」について、以下の見直しが行われています。

改正の内容

改正前 改正後
契約の解除 債務者に帰責事由(※)がない場合には、解除が認められない
(現行民法543条)
(※)債務者の責めに帰すべき事由
債務不履行による解除一般について、債務者の責めに帰することができない事由によるものであっても解除が可能なものとする。
(改正民法541条、542条)

改正の背景

現行民法においては、債務者に帰責事由がない限り契約の解除が認められないこととされていました。しかしながら、地震や落雷などの自然災害に起因する事象により、例えば債務者が物の納品が困難になった場合など、債務者側に帰責事由がないものの、履行不能となった場合などにおいても、債権者側から契約解除ができないこととなっていました。

このような場合において解除が認められないのは不当ではないのか、といった議論がされており、今回の民法改正において見直しが行われています。

実務への影響

今回の改正により、契約の解除に関する考え方が大幅に変更されています。
契約の解除については、契約書において特段の文言を記載していない場合は、債務者側に帰責事由がない場合においても契約の解除ができることとなります。

そのため、解除に債務者の帰責事由という要件をあえて加重したい場合には、契約書において現行民法543条におけるただし書きのように、「ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」といった規定を明示する必要があります。

3.瑕疵担保責任に関する改正事項

今回の民法改正により、売買における売主の瑕疵担保責任に関する規定は全般的に見直しが行われています。
「瑕疵」という言葉の意味は、法律的には「通常、一般的には備わっているにもかかわらず本来あるべき機能・品質・性能・状態が備わっていないこと」を指しています。
改正点は多岐にわたっておりますが、今回は主な改正点に絞って解説します。主な改正点は以下のとおりです。

改正の内容

改正前 改正後
瑕疵担保責任 買主の権利は一部のみ規定
売買などの有償契約において、契約の当事者の一方(買主)が給付義務者(売主)から目的物の引き渡しを受けた場合に、その給付された目的物について権利関係または目的物そのものに瑕疵があるときには損害賠償などの責任を負う
(現行民法561条以下)
買主の権利の明確化
買主は売主に対し、以下の1から4ができることを明記。
1.修補や代替物引渡しなどの履行の追完の請求
2.損害賠償請求
3.契約の解除
4.代金減額請求
(改正民法562条〜564条)
隠れた瑕疵
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、そのために契約した目的を達成できない時は契約の解除または損害賠償請求ができる。
(現行民法566条、570条)
隠れた瑕疵から契約不適合へ
「隠れた瑕疵」があるという要件を、目的物の種類、品質等に関して「契約の内容に適合しない」もの(契約不適合)に改める。
(改正民法562条)
請求期限
契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。
(現行民法566条、570条)
通 知
買主は、契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨の通知が必要。
(改正民法566条)

改正の背景

契約が売買契約である場合、その履行に関して現行の民法では「物の隠れたる瑕疵」があった場合で「その瑕疵が契約をした目的を達成できない時」には契約を解除できる、という債務不履行による解除の特例を設けていました。

しかしながら、「隠れたる瑕疵」という一般的には使用されない用語、したがって、法律家以外に通用しない言葉で解釈するのは不合理であるため、契約内容を実現していないという意味で「契約不適合」という言葉に置き換え、この「不適合」がある場合は、それ自体が契約を達成できていないのであるから、「債務不履行」による「解除」ができる場合の一つに過ぎないとして整理する方向で議論が行われました。

また、現行の民法では、このように売買契約の履行に「瑕疵」があった場合には損害賠償という方法しか対応方法を想定しておりませんでした。

しかし、実務上では、代替品を納品したり、代金減額を行ったりする現実的な対応を行っており、契約条項にこれらを含めているものが大半であったことから、改正民法においては、この実務慣例を明文化しました。

実務への影響

民法改正を踏まえると、大きな改正点は「瑕疵担保責任」の考え方のうち、特に「隠れた瑕疵」については、今後は「契約に不適合かどうか」ということがポイントとなるため、契約実務においては契約の内容を明確かつ具体的に規定しておく必要があります。

従来、買主が売買契約時点で「隠れた瑕疵」、つまり買主が把握していなかった瑕疵に関する責任について、売主は請求期限までの期間、対応する責任を負っていました。一方で改正により、売主は「契約不適合」に対し責任を負うことになり、この契約不適合については、「買主が売買契約時点で把握していた不備についても対象となりうる」こととなります。

したがって、契約書においては「買主が契約締結時点で知っていた不備については、売主は責任を負わない」ことを明記するなどの対応が必要となります。

4.まとめ

今回の記事では、契約実務の観点から民法改正によって生じる影響についてポイントとなる事項を3点解説しました。
既に前編でもお伝えしたとおり、民法改正は極めて広範囲に及ぶため、後に紛争となることを回避する目的で、改正民法が施行されるまでに契約書の見直しの必要性があることをご理解いただけたことかと思います。

民法改正に対応した契約書の作成にあたっては、現行の民法に精通し、改正民法への対策について専門的な知識を有する弁護士などに相談することが望ましいと考えられます。
今回の記事で記載した内容の他にも、契約実務において、改正にあたり留意する点は多岐に渡りますので、まだ未対応の方におかれましては、早めのご検討をお勧めいたします。

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