中小企業の事業承継について~その1~遺留分に関する民法特例
法務


経済産業省は、令和2年3月31日に、中小企業におけるM&Aの更なる促進のため、平成27年3月に策定した「事業引継ぎガイドライン」を全面改訂した「中小M&Aガイドライン」を策定しました。
我が国では、本格的な人口減少社会に突入し、それと並行して、中小企業の経営者の高齢化が進んでいます。2025年までに平均引退年齢とされる70歳を超える中小企業の経営者は、245万人となり、うち約半数の約127万人が後継者未定とされています。
このような現状を放置した場合には、中小企業の廃業の急増により、日本経済に深刻な悪影響を与える恐れがあるとして、政府を挙げて、事業承継を促進するための税制を創設したりするなど、対応がとられています。

この記事の目次

1.事業承継の分類

事業承継については、大きく3つの類型があります。

①経営者の子をはじめとする親族に承継させる方法(親族内承継)


②経営者の親族以外の役員・従業員に承継させる方法(従業員承継)


③社外の第三者にM&Aの手法により承継させる方法(M&A等)


それぞれの類型ごとに、事業承継の方法は複数あり、また、それぞれの類型ごとに多くの問題点があります。
今回は、「①親族内承継」において問題となることが多い、遺留分侵害額請求権への対応に関して、説明をしたいと思います。

2.親族内承継のメリット・デメリット

親族内承継は、中小企業においては、まず経営者が考える方法の1つです。この親族内承継には、例えば、次のようなメリット・デメリットがあるとされています。

親族内承継のメリット

・相続開始前に後継者設定をしやすく、相続税対策が早くできる
・理解や協力が得られやすい


親族内承継のデメリット

・後継者にふさわしい相手が親族内に見つからない場合がある
・財産が偏り、他の相続人との間でトラブルが生じるおそれがある
・金融機関における経営者保証の承継について、金融機関からの承認が得られない可能性がある


このデメリットのうち、「財産が偏り、他の相続人との間でトラブルが生じるおそれがある」という点については、いわゆる「遺留分侵害額請求権の行使」という点で問題が生じます。

3.遺留分に関する民法の特例

遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈によっても奪われることのない権利であり、民法において定められています。

親族内承継において、複数の相続人がいる場合(例えば、子が複数いる場合)において、そのうちの一人にだけ株式を贈与したという事案においては、他の相続人から遺留分侵害額請求権を行使され、経営者が想定していた事業承継をうまく実現することができなくなってしまうおそれがあります。

そこで、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)では、遺留分に関する民法の特例を定め、事業承継に伴う遺留分に係る紛争の抑止が図られています。

具体的には、次の手続を経ることが必要となります。

手続

①株式や資産の生前贈与を行う

②後継者と後継者以外の遺留分を有する推定相続人との間において、次のいずれか一方又は双方の合意をする
a)遺留分算定基礎財産から除外(除外合意)
b)遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)

a)除外合意
遺留分算定基礎財産から自社株式を除外するという合意です。
後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式・事業用資産について、他の相続人は遺留分の主張ができなくなりますので、相続紛争のリスクを抑えつつ、後継者に対して集中的に株式を承継させることができます。

b)固定合意(法人のみが利用できます。)
遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定するという合意です。
自社株式の価額が上昇しても遺留分の額に影響しないことから、後継者の経営努力により株式価値が増加しても、相続時に想定外の遺留分の主張を受けることがなくなります。


③経済産業大臣の確認を受ける

④家庭裁判所の許可を受ける

4.最後に

このような手続は、(1)他の相続人との間で事業承継についての協議を行い、相続人間の調整を行う、(2)合意書を作成する、(3)財産についての評価を行う、(4)経済産業省や裁判所への手続を行うなど、必ずしも簡単ではないところですが、弁護士や税理士などとチームを組み、早めに準備を行っていくことが重要です。
まだ早いと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、事業承継については、早めに対応をすることで、節税メリットなどを享受することができたりします。
一度、顧問税理士や弁護士に相談をしてみてはいかがでしょうか。

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