給与ファクタリングとは
最近、「給与ファクタリング」について、ファクタリング業者に対する民事訴訟が全国で提起されていると報道されています。ファクタリングとは、金融業界の用語ですが、給与のファクタリングは「給与の買い取り」を指しています。
たとえば、A社に勤務しているBさんの手取り月収が20万円だとします。
典型的な例では、以下の通り給与ファクタリングが行われます。
1.Bさんが、来月の給与予定額20万円をファクタリング業者に譲渡する。
(多くの場合、BさんはA社に了解を得ずに譲渡します。)
2.ファクタリング業者は、20万円からファクタリング手数料1割分2万円を差し引いた18万円をBさんに交付する。
3.Bさんは、ファクタリング業者に対して、1か月後に、20万円を返済する。
実態は貸金
問題になるのは、「形式」と「実態」の乖離です。給与ファクタリングは、形式としては給与債権の譲渡ですが、労働基準法により、A社はBさんに対して直接給与を支払わなければならず(いわゆる直接払い原則)、給与債権が譲渡されたとしても、譲渡先であるファクタリング業者への支払をしても給与の支払いとは認められません。
そのため、ファクタリング業者は、A社に対して支払いを求めることはできず、結局、Bさんに支払いを求めることになります。
そうすると、上記1から3の過程は、給与債権の譲渡の形式を取っているものの、実態としては、ファクタリング手数料という名目の利息が付されたBさんに対する「貸金(金銭消費貸借)」ではないか、という問題です。
上記の例では、返済期限が1カ月後で貸金元金の1割の利息が付いていることとなり、年利で120%という異常な利率です。
これがいわゆる給与ファクタリングで、基本的に貸金業法に反して違法となり、手数料が利率換算で出資法の上限104.2%を超えていれば、返した金額を取り戻すこともできる可能性も十分あります。
以下の金融庁のリリースや、日本弁護士連合会のリリースでも、このことが明らかにされています。
利用が広がっている「給与前払い」とは
これとは似て非なる制度として利用が広がっているのが、会社自身が外部業者に委託して行う「給与の前払い」制度です。以前当職において、依頼を受けて給与前払いのスキームを作った経験があります。
貸金業法や労働法規への抵触に留意し、社内規定の整備などの調整が必要であるものの、従業員が給与の前借りをしたいと考えたときに、いつでも気軽に利用できる給与前払いサービスは、福利厚生としても、会社定着率を高める方法の一つとしても、注目を集めています。上場企業の導入例もあるようです。
金融庁も、条件次第で(ここを見落としてはいけないのですが)、貸金業法に抵触しないとリリースしている手法です。
まとめ
給与ファクタリングは違法の疑いが強く、従業員の方は異常な高利の支払いを余儀なくされる可能性がありますので、利用すべきではありません。他方で、「給与前払い制度」は、様々な法規制を順守することで、適法に運用が可能な福利厚生サービスと考えています。
最近、給与前払いを受託するという会社が増えています。
しかし、これら代行の会社が用意している仕組み自体の適法性に問題がある場合もあり、その場合は一次的に会社の責任(法令違反)となってしまうのでよく吟味しなければならないのですが、社会的に意義がある制度の一つと言えます。