1.優先株式発行による増資とは
創業間もないベンチャー企業が資金調達を行うのに際しては、信用力がまだ根付いていないので銀行融資ではなかなかうまくいきません。 こんなときに役に立つのがベンチャーキャピタルに対して優先株式を発行することによる資金調達です。優先株式というのは、今まで発行してきた普通の株式よりも条件として優遇される株式のことで、例えば、配当が普通株式より高いとか、会社が廃業する場合の残余財産分配において優遇されるとか、いずれにしても普通株式よりも優先される株式のことをいいます。
魅力ある優先株式を発行すると、ベンチャーキャピタルの投資意欲を引き出すことができます。
2.優先株を発行するための手続はどうすればいいのか
普通の会社では、普通株式だけを発行しているのが一般的です。正確に言うと非公開なので譲渡制限株式となっているのが一般的です。この状態から優先株を発行するためには、まず定款を変更して、種類株式発行会社になる必要があります。種類株式発行会社というのは、内容の異なる複数酒類の株式を発行できる会社のことです。
定款変更ですから、ご承知の通り、株主総会の特別決議を必要とします。
そこで承認決議を受ける内容は、
(1)新たに発行する優先株式の内容
(2)普通株式・優先株式それぞれの発行可能種類株式総数
(3)今回発行する優先株式の発行株数、払込み価格、払込期日
(4)すでに割り当てする相手が決まっている場合は割り当て先
優先株を発行して増資しようとしているのですから、第三者割当のケースが多く、発行株数・価格や払込み価格についても擦り合わせが出来ているのが一般的です。
なお、取締役会設置会社では、(4)の割り当ては取締役会で決議します。
3.優先株式の内容としてはどんなものがあるのか
一般的な優先株式としては、
(1)剰余金配当に関しての優遇措置、
(2)残余財産分配における優遇措置がありますが、これ以外にも、
(3)取得請求権付種類株式
(4)取得条項付き種類株式
(5)拒否権付種類株式
(6)役員選解任権付種類株式
(3)や(4)は、ベンチャー企業が業績を上げて上場が可能になるような場合に、優先株主から普通株主に転換できる権利です。
(5)は、いわゆる「黄金株」で、たとえば敵対的買収の結果として合併決議を要する場合、この種類株主の賛成がなければ決議が成立しない、という強力なものです。
(6)は、取締役や監査役を選任する権利を与えるもので、普通株主は役員選任ができなくなります。
一方、経済的なメリットは与えるが経営には関与させたくない、と言うような場合には、株主総会の議決権を与えない「議決権制限株式」にすることもできます。一般的には、配当優先株や残余財産分配優先株の場合は、投資家の関心が経済的メリットにあるので、株主総会議決権を制限します。
また、優先株主だけで組成する種類株主総会の決議を不要とする定めをおくのも一般的です。
4.まとめ
ベンチャー企業には、技術力は十分あるのに、資金調達がうまくいかずに経営にとん挫する事例がしばしば見受けられます。そのような場合、魅力的な優先株式の発行によりベンチャーキャピタルの投資を引き出すことは有力な資金調達手段になります。会社法はこのような場合に備えて、9種類の種類株式を準備しており、うまく組み合わせれば魅力的な優先株式が組成できます。
一方で、投資家のニーズには応えたいものの、過度の経営関与を避けたい場合には、株主総会や種類株主総会での議決権を制限することも可能です。
このように、優先株は設計が自由で、経営者のニーズに応じて多様な組み合わせが可能になっていますので、会社法に詳しい司法書士の専門性をぜひご活用ください。