知的財産を考えないと業務委託契約はマズイかも!?
法務


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知的財産とは

業務委託契約の中には、創造的な業務を委託者から受託者へ委託するものがあります。その結果、業務委託の成果物には、知的財産(権)が含まれることも多くあります。

この場合の知的財産としては、著作物(プログラムも含む)についての著作権や、発明についての特許権、考案についての実用新案権、意匠について意匠権などの産業財産権(およびその前段階としての出願権)があります。更に、ノウハウ(トレードシークレット)などの不正競争防止法で規定されている営業秘密もあります。

これらの権利の取り扱いをきちんと契約書に定めておかないと後々面倒なことになります。この点について、インターネット検索でヒットする契約書サンプルには、委託者にとっても、受託者にとっても中途半端で、夫々のリスクの低減につながらないものも多いです。
本稿では、知的財産に関して、委託者の視点での有利な取り決めと、受託者の視点での有利な取り決め、について解説します。

委託者の視点での有利な取り決めとは

委託者は制作された成果物を自由に使用、利用あるいは実施(以下、使用等)することで、後々トラブルに巻き込まれることは避けたいです。この場合の主なトラブル(紛争、係争、訴訟等)としては、2つあり、一つは、受託者との間のトラブルです。もう一つは第三者との間のトラブルです。

委託者・受託者間のトラブル防止のために

まず、受託者との間のトラブルとしては、支払い済みの委託費用に、知的財産にまつわる対価(例えば、受託者が保有していた知的財産の使用等の許諾の対価)が含まれてないということで、後日、委託者そのような希望をすると受託者から追加の請求をされることです。

従って、成果物を使用等することにより、結果的に受託者が保有する知的財産を使用等しなければならないことが予測される場合は、委託者が追加の負担なしに当該知的財産を自由に使用等できるよう、契約書に定めておく必要があります。

また、成果物を制作する過程で、新規に生まれた知的財産がある場合に、それを譲渡してもらうことができるよう、業務委託料の中にそのような知的財産の譲渡代金も含まれていることを明記しておく必要があります。このように、新たに生まれた知的財産を委託者に帰属するようにしておけば、将来の開発・設計等自由度が増します。このような場合、発明等について特許庁に出願する際(あるいは出願の後)に、発明者等の協力が必要になる場合がありますので、そのような協力が得られるような取り決めも必要になってきます。

あるいは、受託者からの当該知的財産の無償譲渡が困難な場合、有償譲渡や、無償の使用等の許諾が出来るようにすることが次善の方策となります。
さらに、異なる観点ですが、成果物がソフトウエアの場合は、そのソフトウエアをそのまま自ら使用する、あるいは第三者に使用等の許諾をする場合はよいのですが、往々にして、一部改変をする必要が生じる場合があります。このような場合、委託者が自由に改変できるように契約書上に取り決めておく必要があります。あるいは、そのような改変等の作業が必要となる場合に、受託者に再度の業務委託が無償もしくは少額の追加負担でできるようにしておくことは実務的に有効です。

また、著作権譲渡に関しては、関連する権利の全部譲渡を契約書に明記したとしても、著作権法第61条第2項に、「第27条(翻訳権、翻案権等)、又は第28条(二次的著作物の利用に関する原著作権者の権利)に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」といった落とし穴!があり、この点も契約書の作成時や審査時には、留意する必要があります。

委託者・第三者間のトラブル防止のために

次に、第三者との間のトラブルとしては、制作された成果物を使用等した場合に、第三者から知的財産を侵害するとして警告され、訴訟されるリスクもあります。
これを防ぐには、第三者の著作物などを無断でコピーして著作権侵害をしないことなどを受託者に約束してもらうことは当然ですが、更には、第三者保有の特許権等の産業財産権などをチェックする義務を負ってもらい、不用意に権利侵害が起きないようにする必要があります。このような、トラブルを未然に防ぐための協力義務を受託者に負ってもらうよう契約書に規定することが必要になります。

しかし、すべてのトラブルを完璧に防ぐことは、現実的に不可能ですので、万が一、そのような事態に陥ったときに、受託者に応分の負担をしてもらえるよう取り決めておく必要があります。この場合、受託者にトラブルの解決責任を負ってもらい、費用負担、損害賠償等の一切合切を負ってもらうというのが、委託者にとってはベストシナリオです。

とはいっても、現実には、これはなかなか困難で、知的財産の権利者は、物品の製造販売やサービスを提供する事業者(つまり、業務委託契約の委託者)を交渉相手とし、訴訟相手とするのが通例ですから、その裏側にいる業務委託契約の受託者を相手としないことが多いです。従って、一旦、第三者との知的財産のトラブルが生じた場合は、否応なく事業者が対応せざるを得ませんが、その時に、業務委託契約の受託者の協力が最大限得られるように契約書を作っておくことが肝要です。

受託者の視点での有利な取り決めとは

受託者は、業務委託の成果物を委託者に渡してしまった後は、トラブルに巻き込まれたくないというのが、心情であろうと思います。要するに、受託者は委託代金に見合った手離れの良い仕事をしたいという気持ちがあります。勿論、受託者が、既に知的財産を多数保有していて、業務委託を受けて制作した成果物も、既に保有している受託者の知的財産を使用等しなければならないという強い立場であるならば、委託費用のほかに、自らの知的財産の使用等の許諾料を頂くというシナリオも考えられますが・・・。

しかし、一般的には、受託者は、委託者よりも弱い立場であるケースとしては多く、そのような中で、せっかく稼いだ委託料が後日のトラブルでなくなってしまうというのは絶対避けたいところです。むしろ、委託者から何か要求があった場合は、協力費といった別名目で費用をとりたいくらいでしょう。

このように、受託者は、委託者の視点とは逆の視点で、業務委託契約書を見る必要があります。特に、かかる契約書を委託者の側から提示された場合は、必ず、委託者サイドに有利になっていると考えるべきで、委託者との契約交渉では、委託者・受託者の相互にバランスが取れているところまで、押し返すくらいのスタンスで臨むべきです。

具体的には、業務委託を追行する過程で、新たに知的財産が生まれた場合は、その所有権は受託者のものとし、委託者には、使用等する権利の許諾とすることが考えられます。この場合の許諾料は、受託者にとっては有償が望ましいですが、委託者がそれに同意しない場合は、特定の使用条件のもと知的財産の使用等の対価を無償にするというのも考えられます。

このようにすれば、委託者としても成果物の使用等が問題なく出来るわけですから。そして、逆に、受託者にとっては、自身の手元に新たに生み出された知的財産が残ることになり、次のビジネスにつながってゆきます。これに対して、業務委託の結果生み出された知的財産を委託者に譲ってしまうと、手元には何も残らなくなり(成果物の制作の過程で得られたノウハウは手元に残るという考え方もありますが、それを別の委託者からの業務委託についての次の開発行為で使うとノウハウの無断使用となる問題が生じるリスクもあります。
そのノウハウも、契約上は先の業務委託の委託者に帰属するとなっている可能性があるからです。)自らの組織の発展の道が閉ざされます。

また、業務委託契約にソフトウエアの開発が関係する場合は、更に注意が必要で、受託者がもともと保有しているソフトウエアをカスタマイズして提供することを業務委託されたような場合、カスタマイズの部分(言ってみれば、お饅頭の皮の部分)を譲るのは仕方ないとしても、ソフトウエアの肝心な部分(言ってみれば、お饅頭の餡子の部分)まで、気前よく渡してしまうと、法律的には、翌日から仕事ができなくなってしまいます。

契約書は、よく読まないと、お饅頭の餡子も皮も渡していることに気づかないといった失敗も起きます(手元には、ソフトウエアのコードが全て存在しているとしても、それらは他人名義になっているわけですから)。

さらに別の観点で重要なことは、委託契約の成果物について、委託者ともども第三者との知的財産の紛争に巻き込まれたときに、受託者が負担するリスクをミニマイズすることです。すべての損害賠償の負担額の総計を委託料相当分に限る、そしてもし可能ならその何分の一かに限定することです。勿論、ベストシナリオは、第三者と委託者との間で、委託契約の成果物について、知的財産のトラブルが発生したとき、受託者は一切の解決責任を負わない、一切の損害賠償責任を負わないといったことが契約書に書き込めればよいのです。

例えば、非常に安価な委託料しか支払ってくれない場合は、保障(保証)の義務も、サポート義務も、解決責任も負わないとすることで、自らの身を守ることができるます(このような取り決めをすると、次から仕事が来なくなるかもしれませんが―笑)。

まとめ

以上述べたように、業務委託の成果物には、知的財産(権)が含まれる場合については、委託者の立場と、受託者の立場で、真逆となってしまうことがあります。
業務委託契約書の作成においても、その審査(チェック)において、委託者、受託者のどちらの立場に立っているのか忘れてはいけません。どちらにも都合の良い、Win-Winな契約などそもそもあり得ないのです。

現実には、提示された契約書を加筆や削除などの修正を通して、相手方の考え方が分かり、そのプロセスのなかで、相互に譲歩をしながら着地点を見つけるのが契約業務です。このような契約実務にあまり慣れておらず、相手に悪い印象を与えたくないと思って、相手から提示されたままで署名捺印してしまうことは避けるべきです。

事業者の皆さんは、ビジネスを成功させるためには、先ずは、その取っ掛りである業務委託契約書の検討から、真摯に取り組む必要があります。契約の規定内容がよくわからなかったり、契約交渉に自信がなかったりするときには、契約のプロに先ずは相談をすべきでしょう。

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