そもそも業務委託契約とは?
世の中には、「業務委託契約」があふれています。しかし、民法には、「請負契約」や「委任契約」についての規定はあるものの、「委託契約」を直接根拠づける法律はありません。民法の中の典型契約の名称ではないのです。このため、「業務委託契約」は、契約条項の性質によって、請負(=仕事の完成(結果)が目的:民法632条)か(準)委任(=業務の遂行(行為)が目的:民法643条)かに分けられるといわれています。なお、委任契約は、法律行為を委託する契約であるのに対し、準委任契約は事実行為(事務処理)を委託する契約と捉えられております。しかし、契約によっては、「請負契約」か「委任契約」のどちらかに分類することは困難なものもあり、このような場合は、民法の規定に委ねることが難しく当該契約書だけで、契約内容のすべてが分かるようにしなければならないといった問題も出てくるといったお話もあります。
民法改正の関連する箇所は?
さて、業務委託契約は、基本的には、請負の性格と(準)委任の性格がありますので、民法改正(2020年4月1日付施行の改正民法を「新民法」といい、それまでの民法を「旧民法」と以下ではいうことにします。)についても、それぞれ該当する側面について適用を考えなければなりません。イ) 請負と(準)委任の両側面に共通する主な改正点
契約の目的
「契約その他の債権・債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」という文言が新民法には何回も出てきて、契約の趣旨がますます重要となってきます。その判断のため、当事者がなぜこの契約を締結したのかという契約目的が重要になってきており、目的をあえて契約書に記載しておくことも重要なものと考えられます。
契約の解除
新民法から債務者の帰責性が不要となりました。かつては、解除権が発生するには、債権者の帰責性が必要であり、解除は債権者の責任追及と考えられていたからです。しかし、新民法では、解除は、債務者の責任追及ではなく、当事者を契約の拘束から解放することだと考えられるようになりました。①履行遅滞があること、②債権者が相当の期間を定めて催告をすること、③債務者が催告期間内に履行しないことの要件を満たせば、債権者に解除権が発生します(民法541条)。
引渡し後の危険負担
新民法では、目的物の引き渡し後において、両当事者双方の帰責事由がない場合の滅失や損傷については、委託者は、追完請求・代金減額請求・損賠賠償請求、解除権の行使ができなくなっています(民法567条1項)。
債権の譲渡禁止
新民法では、当事者が債権の譲渡を禁止し、制限する旨の意思表示をしても、債権の譲渡の効力が避けられないものとされました(民法466条2項) 法定利率(遅延損害金)
従来年5%であった法定利率を、新民法では年3%と定め、3年ごとに見直されるようになりました(民法404条)
ロ) 請負の側面についての主な改正点
担保責任
目的物に不都合が生じた場合、旧民法では「瑕疵担責任」として規定されていたのが、新民法では売買契約の規定「契約不適合責任」が準用されることになりました(民法559条)。「瑕疵」「瑕疵担保責任」と呼ばれていた用語はなくなり、請負人は、仕事の目的物が、種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しない場合に、担保責任を負うこととなりました。
契約不適合の救済規定として、履行の追完請求(旧民法では修補請求権のみ)・代金減額請求(旧民法では規定無し)・損賠賠償請求、解除権の行使(旧民法では土地の工作物について解除の制限あり:旧民法635条、新民法では削除)が認められることになります(民法562条~565条)。
期間制限が延長され、契約に不適合であることを知った時から1年間とされました(民法566条、637条)。
なお、旧民法637条では、瑕疵担保責任の追及は、目的物の引き渡し時から1年でした(建物の場合は5年または10年:旧民法638条、新民法では削除)。
契約不適合が委託者に起因する場合は、追完請求・報酬の減額請求・損賠賠償請求、契約の解除はできなくなっております(民法543条)。
割合的報酬制
当初約束した仕事が完成しなかった場合、請負人がすでにした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって、注文者が利益を受けるとき、その部分が仕事の完成とみなされ、受ける利益の割合に応じて報酬を支払う必要があります(民法634条)。その要件は①注文者の帰責性がなく、仕事を完成することができなくなったとき、又は、②請負が仕事の完成前に解除されたときです。
注文者の破産開始による請負人の解除を制限
注文者が破産手続き開始の決定を受けた場合、請負人から仕事を完成しない限り、契約の解除ができることとなりました(民法642条1項)。仕事を完成した場合は、契約解除する必要がないのでできません(同項但し書き)。
ハ) (準)委任の側面についての主な改正点
再委託の禁止(自己執行義務の明文化)
新民法では、受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができないとしております(民法644条の2第1項)
受任者の報酬について
委任契約の受任者は、特約がなければ報酬を請求できません(民法648条1項)が、これは、旧民法でも新民法でも変わりはありません。特約で報酬を定めた場合、受任者は、旧民法での「受任者の責めに帰すことができない」との要件が削除され、①委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務を履行することができなくなったとき、又は②委任が履行の途中で終了したときは、既にした履行の割合に応じた報酬を請求できることとなりました(同条3項)。従って、受任者の責めに帰すべき事由によって履行ができなくなった場合でも、割合的報酬を請求することが認められるようになっております。なお、業務委託契約では、受託者が委託者の同意なく業務の履行を中止することは制限することが望ましく、業務の履行を中断した場合の対価の支払いについては、委託者・受託者双方の協議により定めることが合理的な場合が多いと思われ、契約書にその旨規定しておくべきでしょう。
成果の引き渡しを要する成果完成型の委任契約では、報酬はその成果の引き渡しと同時に支払わなければならない旨が規定されました(民法648条の2)。
委任者に帰責性なく委任事務が中途で終了したとき、或いは、委任契約が中途で解除されたとき、受任者は、委任者が受けている利益の割合に応じた報酬を請求することができるようになりました(民法648条の2第2項、634条)。
委任の解除
旧民法で規定されていた、相手方に不利な時期に委任の解除をしたときに相手方の損害賠償をしなければならないこと(民法651条2項1号)に加えて、委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く)をも目的とする委任を解除したときについても、相手方の損害を賠償しなければならない旨規定されました(民法651条2項2号)。これは、最判昭和56年1月19日の判例の趣旨を明文化したということです。
戦略的な対応について
どのような契約書であれ、立場が異なれば、一般に契約内容の適否が変わります。業務委託契約書の場合、委託者の立場で契約書をドラフトしたり、審査したりするのと、受託者の立場で契約書をドラフトしたり、審査したりするのでは、注意点が異なります。自らの組織に不都合のない契約内容とすることを心掛けなくてはいけません。また、民法改正に関連して注意すべきことは、民法の該当条文が強行規定でない(つまり、任意規定である)とき、民法とは異なる規定を契約書に入れることができます。逆に、自ら希望する条件を契約書に書いていなければ、新民法の規定が適用されることになります。重要な条件については、必ず、自己にとってメリットがあるように(旧民法で規定されていたような内容であっても)契約書に書いておく必要あります。
また、2020年4月1日より前に締結済みの契約書は、旧民法が適用されますが、更新または自動更新がなされた場合は、基本的に新民法が適用されます。また、基本契約を2020年4月1日より前に締結済みであったときに、それに関連する個別契約書を2020年4月1日以後に締結すると、個別契約書は、基本的に新民法が適用されます。
もし、民法改正によって、リスクがある場合は、旧契約書を破棄して、新契約書にて締結し直すか、覚書を別途締結して、不都合が生じないようにパッチをあてておく必要があります。