債権譲渡契約の民法改正についての注意点はこれだ!
法務


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債権譲渡契約とは?

自分が持っている債権を、他者に譲って資金調達しようとしたり、債務と相殺したりするために、公正証書や内容証明郵便など(民法467条第2項の「確定日付のある証書」)で通知又は承諾をしてもらおうとする場合、まず、行わなければならないのが、「債権譲渡契約」の締結です。

ところで、「債権譲渡」とは、債権をその同一性を変えずに、債権者の意思によって他人に移転させることをいいます。本稿では、このような債権譲渡に関して、民法改正が及ぼす影響について検討します。

民法改正の関連することがらは?

民法改正(2020年4月1日付施行の改正民法を「新民法」といい、それまでの民法を「旧民法」と以下ではいうことにします。)は、債権譲渡にも関連しています。
それは、次の点です:(イ)譲渡制限特約の扱い、(ロ)将来債権の譲渡、(ハ)異議を留めない承諾の制度の廃止、(ニ)債権譲渡と相殺に関するルール

以下、各項目につき、簡単にポイントを述べます。

(イ)譲渡制限特約の扱い

旧民法では、債権の譲渡は自由であるものの、譲渡禁止特約がある債権の譲渡については、その特約について善意無重過失の者(つまり、重大な過失なく知らなかった者)を除いて、無効になるとされておりました。このことは、債権譲渡や債権譲渡担保により、資金調達をしたい企業にとっては、大きな支障となっていました。

これに対し、新民法によれば、譲渡制限特約が付された債権の譲渡も、債権譲渡の効力は妨げられず、第三者への債権譲渡は有効であるとされました(民法466条第2項)。これは、譲渡制限特約について、譲受人の事情を問わず(悪意有重過失の場合であっても)、債権譲渡は有効となり、第三者対抗要件を備えれば債権譲渡を受けたことを誰に対しても主張することができることになります。

もっとも、新民法においても、債務者は、譲渡人に対する弁済その他の債務の消滅事由をもって債権譲渡された第三者に対抗できるとされました(民法466条第3項)。このような場合には、債権権の譲受人(上記第三者)は、債権の弁済がなされた譲渡人に対して、受領した弁済相当額につき、不当利得返還請求が可能となります。

契約実務からは離れますが、譲受人が譲渡制限特約の存在について悪意・重過失のときに、債務者が、譲受人から履行の請求を拒絶し、かつ、譲渡人に対しても弁済も行わない状態が続くときは、相当の期間を定めて、譲受人が譲渡人への債務の履行を催告すれば、債務者はこの譲受人からの請求は拒絶できず、譲受人に対して債務を履行しなければならないとされています(新民法466条第4項)

このように、譲渡制限特約が債権譲渡の障害とならないようにされたことによって、債権譲渡が、従前に増して利用、活用されやすくなったといえます。

(ロ)将来債権の譲渡

現時点で未だ発生していない将来債権についても、債権譲渡が可能であることや、その将来譲渡の対抗要件も、通常の債権譲渡の対抗要件によって具備することができるということが明文化されました(新民法466条の6第1項、第2項、467条第1項)。

この場合、対抗要件具備時(譲渡人による通知又は債務者の承諾の時)までに、譲渡制限の意思表示がなされたときは、債務者を保護することとし、譲受人がそのことを知っていたものとみなして、履行拒絶等をすることができるとされました(新民法466条の6第3項)。逆に、対抗要件具備時以降に、譲渡制限の意思表示がなされたときは、対抗要件を具備した譲受人等を保護することとして、債務者は譲渡制限の意思表示の効力を対抗できないこととなりました。

(ハ)異議を留めない承諾の制度の廃止(債務者の抗弁)

旧民法468条第1項は、債権譲渡にあたって、債務者が異議を留めず承諾したときには、債務者は譲渡人に対抗することができた事由であっても、これをもって譲受人に対抗することができないとしていました。

しかし、単に、債務者が、債権譲渡がなされたことを認識した旨を通知しただけで、譲渡人に主張できた抗弁権が切断されるというのは、債務者にとっては予期しえないことであり、このルールは廃止すべきであると考えられておりました。

新民法では、異議を留めない承諾による抗弁権の切断の制度は廃止され、債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗できることのみ規定されました(新民法468条第1項)。この対抗要件具備時について、個別ケースで譲受人が債務者に直接請求ができるようになった時とするのが適切と考えられることから、時期をずらす規定がおかれました(同条第2項)。

契約実務から離れますが、債権譲渡の債務者からの承諾書を作成する際に、その効果が従前と異なって、単なる承諾書面では抗弁が切断されないことになりましたので、特に譲受人にとっては留意が必要となっております。

抗弁権の放棄を伴う承諾書では、「抗弁権が存在せず、抗弁権発生の原因となる事由も存在しないことを確認する」更には、「反対債権との相殺、債権の発生原因となった契約の解除権及び取消権を行使しない」旨を明記することを考慮すべきです。

(ニ)債権譲渡と相殺に関するルール

旧民法下では、債権譲渡の際に債務者が譲渡人に対する反対債権を持っていた場合において、譲受人に対し相殺権を行使できるか否かについて明確な規定が置かれておりませんでした。

新民法では、この点につき、債権譲渡があった場合に、債務者が譲渡人に対して次の反対債権を有している場合は、債務者は当該債権を自働債権として譲渡債権との相殺を譲受人に対抗できる旨明記しました(新民法469条):

①債権譲渡にかかる対抗要件具備時より前に取得した債権(同条第1項)
②債権譲渡にかかる対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権(同条第2項第1号)
③債権譲渡の発生原因である契約に基づいて生じた債権(同条第2項第2号)


契約実務に直接の影響はないですが、債務者の有する相殺への期待がより強く保護されることになり、譲受人として留意が必要です。

戦略的な対応について

債権譲渡の利用形態には、債権の売買等を伴うもののほかに、担保目的での債権譲渡、弁済目的での債権譲渡等様々なものがあります。いずれの場合であっても、債権譲渡の目的とされる債権は特定されていなければならず、債権の特定は、他の債権と区別ができるよう、当事者、発生原因、その年月日、金額等の要素によって行うこととになります。
なお、債権の価値は、債務者の資力や弁済期等によって決まるので、債権額と債権の譲渡価額を一致させる必要はありません。

債権譲渡の第三者対抗要件は、債権譲渡登記のほか、確定日付のある証書による債務者に対する通知、又は債務者の承諾によっても具備することが可能です。この場合、債権譲渡の通知は、譲渡人が行う必要があり、譲受人が、債権者代位権の行使により、譲渡人に代位して債権譲渡を債務者に通知しても、通知の効力は生じません。

そして、譲受人としては、債権の実在性等を確認するという意味では、債務者に対する通知よりも、債務者の承諾書面を得て確定日付をとっておいた方が、より安心といえます。

いずれにしても、債権譲渡契約において、ポイントは、譲渡の対象となる債権を特定すること、対抗要件の獲得手段を定めることであります。 つぎに、民法改正を受けて、重要なことは、①抗弁事由に関する表明保証と、②譲渡制限特約に関する表明保証です。

①については、譲渡債権に抗弁がないことを表明保証する条項に、抗弁権や抗弁事由がないことに加えて、その発生となる原因やおそれもないという表明保証条項とすることです。

②については、新民法においても、譲渡制限特約が付されていて、譲渡制限特約の存在について、悪意・重過失があるときは、債務者から履行を拒絶され、直接債務者から回収することができないことがあることは従前と変わりなく、新民法下でも従前同様、譲渡制限特約がないことの表明保証を受けるべきであります。

最後に注意すべきことは、債権の発生原因となる締結済みの契約に債権制限特約が付されていても、実際の債権譲渡契約が民法改正施行日以後に締結されれば、債権譲渡に関して改正民法の規律が適用されることです。

まとめ

債権譲渡契約について、民法改正が与える影響は、譲渡制限特約付きの債権の譲渡が原則有効になった点(上記(イ)での解説)を除き、それほど大きなものではなかったと考えられます。債権譲渡に関する契約実務に不慣れな事業者の皆様や、債権譲渡通知等を受け取った場合にその手続に不慣れな事業者の皆様にとって、本稿が参考になれば幸いです。いずれにしても、実際のケースでは、法務のプロに先ずは相談をしましょう。

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