中小企業の事業承継について~その2~株式譲渡契約を締結する場合におけるポイント
法務

最近では中小企業を対象とした事業承継(M&A)におけるポータルサイトが複数立ち上がるなど、事業承継が広まっています。そして、事業承継の方法については様々なものがありますが、株式の譲渡という手段をとられる場合が多いです。 では、株式譲渡契約におけるポイントがどのような点にあるか解説します。なお、今回は、買主サイドとして株式譲渡契約を締結することを想定しています。

この記事の目次

1.譲渡する株式の特定

まず当然ですが、譲渡する株式を特定する必要があります。このときに、発行されている株式のすべての譲渡になっているか、又は、一部の譲渡になるのかを確認する必要があり、認識と齟齬がないか確認をする必要があります。

2.譲渡価格

譲渡価格については、総額の記載のみならず、1株当たりの金額を記載することを忘れないようにしてください。
また、株式譲渡契約の締結からクロージング(株式の譲渡を実際に行うことをいいます。)までの期間が長い場合については、事後的に株価についての調整を行うための条項(価格調整条項)を設ける場合があります。価格調整条項を設けるかどうか、設けるとしてその内容について正当なものになっているのか確認をしましょう。

3.株券の発行の有無の確認

株式について株券が発行されている場合、株式の譲渡を有効とするためには、株券の交付を受けることが必要となります。そのため、定款及び登記簿謄本を確認し、株券発行会社であるかどうかを確認し、株券が発行されている場合には、株券を事前に確認しておく必要があります。

4.クロージングの条件

クロージングの条件はできる限り明確にする必要があります。特に買主サイドとしては、クロージングまでに売主に行ってほしいことがあれば、契約書において明確に記載をしておく必要があります。
例えば、買主は、次の事項等クロージングまでに又はクロージング時点に行うことを求めることが多いです。

①(株券発行会社の場合)株券の交付を行うこと
②株式の譲渡に関する株主総会(又は取締役会)の承認の手続を行うこと
③株式の譲渡とともに既存の役員が辞任する場合には辞任届を提出すること
④チェンジオブコントロール条項(※)がある場合には、取引先からの同意を得たことを確認する書面を提出すること
(※)チェンジオブコントロール条項とは、対象会社が当事者となっている契約の中に、対象会社の主要株主の変更が生じたことや対象会社の経営体制に重大な変更が生じたことなどを理由に解除権発生事由として定めていたり、これらのことを行うためには事前の承諾を必要とする旨定めている場合があり、このような条項のことを言います。
⑤許認可等において、監督官庁の承認が必要となる場合において、かかる承認を得るための手続を行うこと



5.表明保証

表明保証とは、契約当事者の一方が、他方当事者に対し、主として契約の対象物等の内容に関して、一定時点における一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証することをいいます。
株式譲渡契約においては、売主が買主に対し、①譲渡の対象となる株式及び②対象会社について表明保証を行うことが多いです。

売主としては、仮に表明保証を行うことができない事項がある場合には、速やかに買主にその旨を説明する必要があり、買主としては、売主からの説明内容を踏まえ、リスクとして許容できるかどうかについて慎重に判断する必要があります。

6.従業員の処遇

株式譲渡契約においては、売主において、従業員について、給与等の水準を維持すること等を求める場合があります。買主としても、当然に従業員の処遇を悪化させることができるわけではありませんが、この制約があると買主において従業員と同意の上で、円満に従業員の処遇を変更することができなくなる可能性もあります。
この規定を設けることはやむを得ないところはありますが、期間を限定する等何らかの制限をかけることができないか交渉をすることがよいでしょう。

7.連帯保証の解除

中小企業の場合、金融機関からの借入れや店舗の賃貸借契約において代表取締役が連帯保証人となっている場合が少なくありません。
そのため、売主としては、クロージング後において、連帯保証を解除することを求めることは少なくありません。もっとも、買主としては、連帯保証を解除するように努力をすることはできると思いますが、相手方があることですので、義務とすることは避けたほうがよいでしょう。

8.損害賠償の制限

株式譲渡契約においては、表明保証違反や誓約事項違反が生じた場合に、買主は売主に対し、損害賠償を請求できる旨の規定が設けられることが多いです。しかし、売主サイドから、損害賠償について、履行利益を対象外にしたり、請求できる期間を制限したり、賠償額に上限を設けたりするような要望がなされることがあります。

なかなか制限をすべて除外するように求めることは難しい場合もありますが、賠償額の上限をできる限り高い金額とするなど交渉をするとよいでしょう。

9.競業避止義務

株式譲渡後において、売主が別の法人等において対象会社と競合する事業を行うと、長年懇意にしていた取引先が対象会社から離反してしまうなど、想定していた収益を見込めなくなってしまう恐れがあります。

そのため、売主について、一定期間競業避止義務を負担してもらうように規定をすることが望ましいです。

10.最後に

株式譲渡契約におけるポイントを説明しましたが、これら以外にも注意するべき点はいくつもあります。また、実際にどのような契約書の文言にする必要があるのか等、弁護士等の専門家のアドバイスを受けながら、リスクヘッジをすることは重要であると思います。

買った後にこんなはずじゃなかったとならないように、専門家をうまく活用し、M&Aをぜひ成功させてください。

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