創業家の株式を兄弟で相続したときの問題
法務


この記事の目次

相続とは何か?

相続とは人の死亡により他の人に権利義務が包括的に移転することです(民896条)。死亡によって権利義務の移転を受ける人のことを相続人、移転される人のことを被相続人といいます。
被相続人の配偶者(夫や妻)は必ず相続人になります(民890条)。
他に相続人になるのは以下の者です(民887条1項、889条1項)。
では相続人が複数いるとどうなるのでしょうか?

子供兄弟 相続人
第一順位 子供
第二順位 ×
第三順位 × × 兄弟

相続人が複数人いた場合、相続人は被相続人の財産(相続財産)を共有します(民898条)。各相続人は相続財産全部について権利を持っています。しかし各相続人の持分は決まっており、他の相続人との間では持分に応じた権利主張しかできません(民899条)。 法律では以下のように持分が決まっています(民900条)。

相続分
第一順位 配偶者 2分の1
子供 2分の1
第二順位 配偶者 3分の2
3分の1
第三順位 配偶者 4分の3
兄弟 4分の1

例えば配偶者が一人、子供が二人の場合は配偶者Aの持分が2分の1、子供Bの持分が4分の1.子供Cの持分が4分の1となります。

株式を相続したときはどうなるのか?

甲株式会社という中小企業を例に考えてみましょう。
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甲株式会社の会長は創業者のAで、会長の長男のBが社長、次男のCは別の会社でサラリーマンとして働いています。会社の経営は社長であるBが行っています。 甲株式会社の株式は全てAが所有しています。 会長Aが死亡し相続が開始したとき相続財産はAとBの共有となります。
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株式も相続財産に含まれるので共有となります。
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では共有株式の議決権はどのように行使するのでしょうか?
共有株式の議決権は持分の価格の過半数で決めた権利行使者が行使します。権利行使者の氏名又は名称は会社に通知しなければいけません(会106条)。権利行使者は自分の判断で議決権を行使できます(最判昭53・4・14・民集32・3・601)。
今回の事例の場合、Cの同意があればBは株式の権利行使者になることができます。権利行使者になれば社長であるBが自由に株式の議決権を行使できるので、会社の経営をスムーズに行えます。
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Cが株式の権利行使者にBがなるのを同意しなければBはどうすればいいでしょうか?権利行使者がいない共有株式は会社の同意のもと共有持分の価格の過半数の決定で議決権を行使します。ただし株式の内容の変更等の特段の事項に関しては共有者全員の同意がないと議決権を行使できません(最判平2・12・4民集44・9・1165)。

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つまりBが権利行使者になることができなければ下記のように株主総会決議が必要な事項に関して常にCの同意が必要となります。

株主総会決議が必要な事項の例
取締役の選任(会329条1項)
募集株式の発行(会199条2項、309条2項)
資本金の額の減少(会309条2項9号)


上記のような事項に関し社長であるBが判断することができないのは会社を経営する上で障害となります。この障害を解決するためにはどうすればいいでしょうか?

共同相続人の株式の共有の問題のを遺産分割によって解消

共同相続人はいつでも相続財産の分割の協議をすることができます(民9907条1項)。 Aの相続財産で考えてみましょう。

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Aの相続財産の内訳は甲株式会社の株式(価格1億円)と不動産(価格1億円)です。 この場合、甲株式会社の株式をBに、不動産をCにするといった遺産分割ならCも納得しやすいでしょう。
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しかし相続財産の内訳が以下のようだったらどうでしょうか? 8
Aの相続財産は甲株式会社の株式(価格1億円)以外には不動産(価格100万円)しかありません。甲株式会社の株式をB名義にするかわりに、不動産をC名義にするという遺産分割はCの相続分を大きく下回ります。株式をB名義にする遺産分割の成立は困難です。
協議が成立しない場合は家庭裁判所に分割の審判を求めることができます。しかし、遺産分割の審判の過半数は6カ月を超える期間を要しているので注意が必要です。
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(令和元年7月19日最高裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第8回)4.家庭裁判所における家事事件の概況及び実情並びに人事訴訟事件の概況等」)より

以上のように遺産分割によって株式の共有を解消には様々な問題があります。将来の経営のことを考えるなら事前の対策によって共有の問題がおこらないようにするのが一番でしょう。

株式の相続問題の生前の対策

甲株式会社の事例の場合、生前の対策としては次の方法があります。
一つは遺言で甲株式会社の株式をBの名義とする遺贈や遺産分割の指定を行うこと。
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もう一つは生前に甲株式会社の株式をBに贈与することです。
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上記のような方法をとればAの相続開始後、甲株式会社の株式の名義はBになっているので、株式の共有の問題はおこりません。
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しかしこの方法をとっても税金面での問題と遺留分の問題が生じます。 Bに株式を贈与すると相続税よりも高額な贈与税をBが負担することになります。

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非上場株式については一定の条件で贈与税が猶予または免除される措置を利用することができます。また経営承継円滑化法の対象の中小企業には特例措置があり、さらに税負担を抑えることが可能です。
Aの相続財産のほとんどが甲株式会社の株式の場合、遺言や贈与で甲株式会社の株式がBに承継されると、Cが遺留分侵害額請求(民1046条1項)をBにすることが考えられます。

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遺留分侵害額請求がされても株式はBのものであることには変わりがありません。しかし甲株式会社の価格が高額ならそれだけ遺留分侵害額が高額になります。 例えば甲株式会社の株式の価格が1億円で残りの丙建物の価格が100万円の場合、遺留分算定価格(甲株式会社の株式 1億円+丙建物 100万)×2分の1(Cの法定相続分)×2分の1=2525万円=Cの遺留分となります。(民1042条1項、民1043条1項)。丙建物をCのものとする遺産分割をしても残りの2425万円はBが用意しないといけません。

今回のようにAの生前からBが会社の経営をしていた場合、Bが経営努力をしたぶんBがCから請求される遺留分侵害額が増えてしまいます。これはBの会社経営のやる気をそぎかねません。
円滑化法の対象となっている中小企業は遺留分算定に関し「除外合意(円滑化法4条1項1号)」や「固定合意(円滑化法4条1項2号)」の特例を受けることができます。
また相続開始より10年前にした相続人への贈与は遺留分侵害の対象にはなりません(民1044条3項)。遺留分対策として生前の贈与も有効です。その場合は贈与税の一般措置や経営継承円滑化法対象企業の特例措置が使えるかどうかも検討しましょう。

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