遠方の裁判所で訴訟を提起された場合(裁判管轄・移送申立など)
法務


昨今では、SNS・チャットツール・クラウドサービス等の普及により、遠隔地でも容易に仕事ができるようになりました。その結果、遠隔地の当事者間でトラブルが生じた場合、一方の当事者から見て、遠方の裁判所に訴訟が提起されることも考えられるでしょう(例えば、東京に本社のある委託元の会社が、委託先である北海道の受託者に対して、東京地方裁判所を管轄裁判所として、500万円の損害賠償請求訴訟を提起するなど)。
この場合、訴訟を起こされた被告(上記例だと北海道に在住の受託者)にとって、一度裁判所の期日に出席するだけで交通費等の費用支出を強いられる、といったことが問題となり得ます。

この記事の目次

1.そもそも管轄とは?

業務委託契約書など契約書作成の際、裁判管轄(よくあるのが、専属的合意管轄の定め)の規定が入っており、その規定を目にされたことがある方は少なくないと思われます。

訴訟を提起する場合、

どこの裁判所に提出してもよい、ということではなく、当該事案について、管轄のある裁判所で訴訟を提起しなければ、訴えが却下されてしまいます。


そのため、どの裁判所で訴える必要があるのか、管轄権(当該事件に関する裁判をどの裁判所が担当するのか、その範囲・権限を示します。)の所在が問題となります。 管轄権の所在は、請求の種類や内容などによって決まります(民事訴訟法4条~13条)。

⑴ まず、訴訟物の価額(原告が求めている判決で原告が受けられる利益を経済的に表したもの。金銭請求の場合、請求金額です。)によって、第一審の裁判所が簡易裁判所または地方裁判所に分かれます(事物管轄)。なお、金銭請求の場合、利息や遅延損害金は訴訟物の価額に入りません。

具体的には、訴訟物の価額が140万円以下の事件は簡易裁判所、140万円を超える事件だと地方裁判所になります。また、不動産に関する訴訟、事案が複雑など相当と認められる訴訟の場合は、訴訟物の価額が140万円以下だとしても、地方裁判所で取り扱うケースもあります。

⑵ 次に、どの土地の裁判所が事件を担当するか、という土地管轄が問題となります(これが実際上は特に重要です)。

原則は、被告の住所地(法人の場合、主たる事務所又は営業所)ですが、訴えの種類によっては、左記原則に「加えて」、特別裁判籍に管轄が生じます。
例えば、

①財産権上の訴えは、義務履行地(支払すべき場所)

※これは債権回収をする際に、債権者が、金銭支払債務が持参債務(=債務者が、債権者の住所または営業所に持参して引き渡さなければならない債務)かどうかを検討して、債権者の所在地(=支払すべき場所)にある裁判所に管轄があるかどうかを検討することが多いです。なお、契約書等で特段の合意がなされていなければ、民法上、金銭債務は債権者の現住所で弁済すべき、と規定されています(持参債務の原則)。

②不動産に関する訴えは、不動産の所在地
③不法行為に関する訴えは、不法行為があった場所

などが民事訴訟法に記載されています。

また、特許権等に関する訴えは、東日本が東京地方裁判所、西日本は大阪地方裁判所が専属管轄となっています。 なお、訴えを提起する際には、自己に有利(便利)な裁判所で訴訟を提起できないか、という視点で上記の管轄を調べることになります。

⑶ この他、合意管轄などが存在します。
合意管轄は、当事者の合意により、上記の法定管轄以外の管轄を定めたものをいいます(ただし民事訴訟法11条等の要件を充たす必要があります。) 合意管轄には付加的合意管轄(条項に記載した第一審裁判所のほかに、法定管轄を有する裁判所への提訴も認める)と専属的合意管轄(合意管轄条項で記載した第一審裁判所のみに限定する。ただし、移送は)の二つがあります。
なお、契約書を作成の際には、いずれかを明記しておくことが重要です(※特に専属的合意管轄)。

2.遠隔地の裁判所から訴状一式が届いた場合

訴状が届いた場合の流れについては、拙稿「取引先から訴えられた場合」確認編及び対応編にて解説しましたが、遠隔地の裁判所から訴状等が届いた場合にどのような手段を講ずることが考えられるか解説いたします。

まずは、管轄について自己に有利な主張ができないか検討した上で、自己に不便でない裁判所での審理をしてもらうよう、(認められる可能性は必ずしも高くはありませんが)「移送申立て」をすることが考えられます。

⑴移送申立て

ア 移送の理由
・管轄違いに基づく移送
訴えを提起した裁判所には当該事件の管轄がない場合に、そのままだと却下判決になってしまうので、裁判所は申立または職権によって、管轄のある別の裁判所に移送する決定を出すことができます(民事訴訟法16条)。

・著しい遅滞を避けるため、または、当事者間の衡平を図るための移送
当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地などを考慮して(その他、例えば、当事者の身体的事情や訴訟代理人の有無、経済的事情など)、裁判所は、申立て又は職権により、訴訟の進行が著しく遅れる場合や当事者間の衡平を図るために必要と判断した場合には、他の管轄裁判所に移送することができます(民事訴訟法17条)

・簡易裁判所から地方裁判所への裁量移送
請求金額など争いとなる金額(訴訟物の価額)が低い場合であっても、争点の内容が複雑であるようなときを念頭に置いて、そのようなときに、簡易裁判所が、職権又は申立てによって、地方裁判所に移送することができます(民事訴訟法18条)。

・必要的移送
訴訟提起された第一審裁判所が管轄を有する場合でも、当事者の申立て及び相手方の同意があるときには、裁判所は原則として訴訟の全部または一部を申立てにある地方裁判所または簡易裁判所に移送しなければなりません(民事訴訟法19条1項)。 なお、簡易裁判所における不動産に関する訴訟について、被告の申立てがある場合も必要的移送となります(同条2項)。

イ 移送申立書の作成・提出
本件が上記移送理由に該当することを説明・記載した「移送申立書」を作成し、正本副本1通ずつ合計2通を裁判所に持参や郵送で提出します(なお、持参の際には、自分の控えも持っていき、受付印を押してもらうとよいでしょう)。

裁判所の判断(移送の決定または移送の申立を却下した決定)に対しては、即時抗告をすることができます(民事訴訟法21条)。

なお、移送申立書は答弁書よりも先に、または、答弁書と同時に提出することができます(※答弁書提出により応訴管轄が生じないように注意が必要です。)。また、事案にもよりますが、決定された口頭弁論期日を取り消し、移送の判断がなされるまで保留される場合も少なくありません。

⑵その他

第一回口頭弁論期日については、事前に答弁書を提出していれば、擬制陳述が成立しますので、期日に出席する必要はありません。 出欠については事前に担当書記官に申し出ておかれるとよいでしょう。

ア 地方裁判所の場合
地方裁判所の場合、次回期日以降の擬制陳述は認められておらず、原則として、期日に出席する必要があります。
もっとも、(口頭弁論ではなく)弁論準備手続に付された場合であれば、その期日は電話会議システムの方法を利用することができる可能性がありますので、裁判所と相談することになります。(なお、証人尋問や本人尋問などの証拠調べの手続は、電話会議によることはできませんので、その場合は裁判所に出向く必要があります)

イ 簡易裁判所の場合
簡易裁判所における事件の場合は、例外的に次回期日以降も陳述擬制が認められます。
事前に反論書面や証拠を提出しておけば、当日は欠席しても陳述・提出した扱いになりますので、それである程度の対応は可能でしょう。

【補足】遠方での裁判の場合、どの弁護士に依頼すべきか?

遠方での裁判の場合、どの弁護士に依頼するかについて、
①自分が住んでいる場所に近い弁護士
②訴訟が提起された裁判所に近い弁護士
(またはその他)
が悩ましいところでしょう。

①の弁護士であれば、対面での直接面談などには便利・安心(何かあったときに直接会うことがしやすい)ですが、弁護士が裁判所に出向く場合に、交通費や弁護士の日当の弁護士費用がかかります(上記の通り、電話会議などの方法を利用した場合、その分の交通費・日当は生じないことになります)。

一方、②の弁護士に依頼すれば、弁護士への交通費・日当はそれほどにかかりませんが、対面での打合せをする際に不都合が生じる面はあるでしょう。もっとも、最近はオンラインでの打ち合わせも一般的になってきたことから、②の弁護士であっても十分に対応しやすい状況になっている、ということはできるでしょう。

上記について、一概に正解はありませんが、上記メリットデメリットなどを勘案しつつ、いずれにせよ早い段階で相談をして状況を把握しておくことが大切です。
その意味で、①・②いずれの弁護士でも、自分にとってアクセスしやすい・信頼できそうな弁護士にまず相談することをお勧めします。そして相談の中でどのように事案を進めていくべきかも合わせて弁護士から説明を受けるようになさってください。

※関連記事:
『取引先から訴えられた場合 (訴状が届いたらどのように対処していくか1・確認編)』
『取引先から訴えられた場合 (訴状が届いたらどのように対処していくか2・対応編)』

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