1.事業承継時の保証の問題
中小企業の経営者は、金融機関に対して保証債務を負っていることが多いですね。即ち、連帯保証人になっているということです。この場合、後継者に経営者保証を負わせたくないとして事業承継を躊躇したり、後継者が保証債務の承継をしたくないとして、事業承継が進まないということが懸念されています。2.経営者保証ガイドラインによる保証解除について
もともと、経営者保証については、経営者保証ガイドラインで保証解除の3つの要件を定めています。詳細は別稿『社長、その連帯保証は外せます!~経営者保証ガイドラインによる保証解除の方法~』をご覧頂ければと思いますが、通常時も、事業承継時も、
① 法人と経営者との関係の明確な区分・分離(法人と社長のお財布が別になっているか?)、
②財務基盤の強化(法人だけで返済可能な経営状態か?)、
③財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保(金融機関とコミュニケーションできているか?)
という3点を満たしていれば、経営者保証ガイドラインに基づいて個人保証を解除できる旨規定されています。
これに加えて、令和元年12月、さらに事業承継に特化して、事業承継に焦点を当てた「経営者保証ガイドライン」の特則(以下「事業承継時の特則」といいます)が策定されました。
3.事業承継時の特則について
(1)ポイント
この事業承継時の特則では、下記の5点がポイントとして定められています。
①前経営者、後継者の双方からの二重徴求の原則禁止
②後継者との保証契約は、事業承継の阻害要因となり得ることを考慮し、柔軟に判断
③前経営者との保証契約の適切な見直し
④金融機関における内部規定等の整備や職員への周知徹底による債務者への具体的な説明の必要性
⑤事業承継を控える事業者におけるガイドライン要件の充足に向けた主体的な取組みの必要性
(2)特に注目すべき「二重徴求の禁止」について
上記の5つのポイントのうち、特に注目すべき点は、①の「二重徴求の原則禁止」です。事業承継したのに、先代経営者も後継者も保証人になってしまっていませんか?
このような、前経営者・後継者の双方に対して経営者保証を求めることを「二重徴求」と呼び、この二重徴求の原則禁止を明確化し、例外的に二重徴求が許容される場合として、やむを得ない場合に限って挙げています。
また、すでに二重徴求に至っている場合においても、安易に二重徴求を継続せず、適時適切に管理・見直しすることを金融機関等に求めているのです。
4.事業承継時の「特則」が活用可能な事案
①株式も代表権も後継者に譲っているにもかかわらず、自分も後継者も連帯保証している経営者、後継者の方。
②そもそも、経営者保証ガイドラインの3要件を満たしているにもかかわらず、事業承継時に連帯保証が外れない方。
③事業承継時に保証解除の説明が金融機関からなされていない方。
以上のような方がいらっしゃいましたら、ぜひ、事業承継時の特則を活用して、保証解除等を目指しては如何でしょうか。特に、二重徴求の原則禁止はかなり徹底されていますので、先代・後継者ともに保証されている場合には活用をお勧め致します。事業承継時の経営者保証の問題をクリアし、円滑な事業承継を目指しましょう。