“税理士の先生向け” 顧客から損害賠償請求を受けた場合(どのように対処していくか)
法務


日々顧客のために尽力されておられる士業・専門家の先生方におかれまして、自分が顧客に対して行った業務について、顧客から「先生の判断が誤っていた!」「損害が生じてしまった!」などと言われて、損害賠償や報酬の返還を請求された(されそうな)場合、どのように対応すればよいか意識されたことはありますでしょうか。また、そのような事故が起こらないよう、日々どのように活動されておりますでしょうか。

多忙の中で高度な知見やサービスを顧客に提供する専門家の先生において、上記のようなトラブルは、どれだけ注意していてもやむを得ず生じてしまうこともあります。このようなトラブルが発生した場合にどのように対処していくのか、その概要を解説致します。
なお、これは、税理士の先生だけに限ったお話ではありませんが、本稿では税理士の先生にフォーカスさせていただきます。

この記事の目次

1.事故発覚のきっかけ

損害賠償請求の原因となる事故(税務処理の誤り等)が明らかになる場合としては、確定申告後に税理士(担当スタッフも含む)自ら発見する場合に加えて、顧客が問題となり得る点を発見し連絡してくる場合や、税務調査が入った際に調査担当者から指摘される場合があります。
特に後二者の場合、時間が経っているケースも多く、事案等について関係者が鮮明に記憶していないこともあります。

2.対応すべきこと

⑴指摘内容や事実の確認と証拠の収集

ア 法的根拠


専門家責任を追及する主な法的根拠である、債務不履行による損害賠償請求が認められるためには、

・債務不履行(説明義務などを中心とした専門家が負うべき注意義務の違反)の事実
・故意または過失(=帰責性)
・損害の発生
・債務不履行と損害との因果関係


という法律要件を充たす必要があります。

また、過失相殺(債権者である顧客の落ち度による相殺)などを主張し反論することで、損害賠償額の減額ができないか、ということも考えられます。(詳細は、後日別稿にて解説予定です。)

イ 顧客の言い分を確認


顧客から指摘を受けた場合、問題発覚初期の段階で、顧客の言い分をしっかりとヒアリング(主に、債務不履行の事実はあるか、損害として認められるものなのか、自らの業務遂行と損害に因果関係があるのか、それらの根拠は何か、を意識。書面等による指摘の場合は書面等の記載内容を分析。)して、顧客の言い分が明らかな誤りなのか、それとも税務処理の誤りの可能性が考えられるものなのか、しっかりと把握することが、その後の信頼関係の維持及び事後対応につなげるために重要となります。

ウ 事実の確認


上記の法律要件を充たし損害賠償請求が認められるかどうかのポイントはやはり事実関係にあります。
そのため、当該案件について、どのような事実があったのかということを、具体的な「事実」(いつ・どこで・誰が・誰に対して・何をどのようにしたのか)を「評価」と区別して、可能な限り時系列で整理するようにしましょう。

エ 証拠の収集


事実関係については、日々の業務で、契約書や業務報告書をしっかりと作成することや日ごろから重要な説明事項をメール送付するなど文章化・証拠に残しておくことが肝要になります。
顧客が証拠となり得る資料を持っている場合には、可能な限り対立が顕在化する前や顧客の代理人弁護士が就任する前に顧客から資料を得ておくことも重要です。

また、早期に、当該事案に関連した税理士・事務所スタッフへのヒアリングを実施して状況の把握をし、ケースによっては、証拠としてヒアリング結果を記した書面に被聴取者の署名押印をして証拠化することも求める場面も考えられます。
そして、(訴訟では)時系列で挙げられた事実が存在するかどうか、証拠によって判断されますので、事実を裏付けるような証拠を収集し、事実と証拠がどのように関連するのか整理する必要があります。

⑵法令等の適用関係を確認

上記で事実が整理した上で(または同時並行で)、その事実がどの法律との関係で問題となるのか、法律の要件を正確に把握しておく必要があります。
また、当該事案で問題となり得る注意義務の内容・程度や注意義務違反の態様について、関連裁判例を調べることも重要です(類似裁判例が当該事案にも当てはまるかどうかなど)。

⑶損害を少なくする措置を講ずる

仮に税務処理のミス(注意義務違反などの債務不履行)が生じた場合であっても、損害賠償請求が認められるためには、損害の発生が要件として必要となります。
そのため、事故が発覚した後に、更正の請求や修正申告等の対応を適切に行うことで、一旦生じた損害をなくす、または、減少させることができ、結果として、損害賠償額を軽減させることも可能なケースもあります。

このような措置を行うためには、事故が生じた場合にこそ、顧客に対して報告・説明を欠かさないようにするなど、誠実に対応して信頼関係を保つことが重要です。
ただし、後々顧客と関係がこじれて、民事訴訟(損害賠償請求訴訟)を提起されるという可能性も想定して、(例えば、税理士が注意義務違反を自ら認めたと受け取られるような内容・表現など)謝罪等の発言が自己に不利に働かないよう、報告や説明の仕方は慎重に行う必要があります。また、昨今ではスマートフォン等で容易に録音が可能となったこともありますので、この段階では、口頭のやりとりであっても録音されているものと考えておいた方がよいでしょう。

3.税理士職業賠償保険の適用の検討

税理士が税理士職業賠償保険に加入している場合、速やかに事故発生の連絡を保険会社に行いましょう。あらかじめ、どのような事例に保険が適用されるのか(または免責事由は何かなど)、どのような準備が必要かを確認しておかれるとよいでしょう。

4.紛争の経過

⑴ 任意交渉

まずは問題の発覚から、顧客との示談交渉や事後処理対応がなされます。
トラブルが顕在化した後のやり取りや事後処理の結果、顧客との間で合意(示談・和解)に至った場合、後に蒸し返されたり、翻意されたりすることがないよう、合意の内容を必ず書面(和解書)に残しておくべきです。

⑵ 内容証明郵便による通知

顧客が別の税理士や弁護士に相談をした上で通知をする場合、内容証明郵便を用いるケースもあります。この場合、顧客としては損害賠償請求に関して相当の根拠をもっている可能性、そして、訴訟提起を視野に入れている可能性が高いと言えるでしょう。
内容証明郵便は、その形式等から心理的なプレッシャーを感じやすいと言われておりますが、内容証明に記載されている内容がそのまま法的効力を有する、というわけではありません。
ですので、内容証明郵便が顧客から届いた場合であっても、上記のとおり、通知の内容を把握した上で、粛々と冷静に対処をしていくことが重要です。

⑶ 各税理士会における紛議調停制度

当事者間の示談交渉がなかなか進捗しない場合や第三者による意見が必要だと思われるような場合、各税理士会における紛議調停制度を活用することも一つの方法です。顧客から申立てがなされるケースもあります。

⑷ 民事訴訟

交渉が決裂または困難になった場合、当該顧客から民事訴訟の提起を受けることが考えられます。民事訴訟では、判決に向けて主張と証拠の提出を行いつつ、相手方との和解交渉を続けていくことになります。ケースバイケースですが、訴訟提起から判決までの期間は約8か月~1年半程度と考えておいてよいでしょう。
訴訟において証人尋問がなされる可能性なども考えると、案件担当スタッフとの連絡が常に取れる状況にしておかれるべきです。

5.弁護士への相談

実際に、顧客または顧客の弁護士から、内容証明郵便によって損害賠償請求の通知を受けた場合、専門家であっても驚かれることは何ら不思議ではありません。また、今後への不安や当該顧客への対応の必要などから、日常の業務に支障をきたすケースもなくはありません。

そのため、同じ専門家である弁護士に相談・依頼することには、不安の緩和や対応にかかる負担を軽減できるメリットがあります。

弁護士に相談する際、弁護士が税法に関しては精通していないケースもありますので、証拠資料の他、当該事案で関係する税法や通達などを示す資料も持参されると、よりスムーズに相談できると思われます。そして、自己に不利益な事実や証拠を隠すことなく開示をしてどのように対処すべきか相談することが重要です。
何より、お一人で抱え込まずに、早い段階で弁護士に相談するなどして、冷静に対処することが重要です。

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