「中小企業も対応!2022年4月施行のパワハラ防止法の実務対応を弁護士が解説します」
法務


2022年4月1日より、改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が中小事業主を含む全事業者に適用されることになりました。
ここでは、事業者が取り組まなければならない内容を、具体的な実務目線で解説していきたいと思います。

この記事の目次

第1. パワハラ防止法の施行により事業者が対応しなければならないこと

1.社内の体制づくり

(1)事業者の方針等の明確化及び周知啓発


職場におけるハラスメントの内容及び職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の事業主の方針等を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知 ・ 啓発することが必要です。 具体的には、①就業規則にハラスメントの禁止規定やハラスメント防止規程を設けたり、②社内のパンフレット等にハラスメントの防止に関する啓発を行ったり、③職場でハラスメント防止のための研修を実施するなどの取組例が挙げられています。(厚生労働省パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」22頁、34~38頁参照や、厚生労働省特設サイト「Noハラスメント あかるい職場応援団」のダウンロードコーナーに、参考となるリーフレットや具体的な規定の例、及び研修資料例がありますので、参考になります。)。

実務的には、ハラスメント防止規程などを策定して社内周知を図ることや、社内で年に1~2回の研修を行うことが多いように思います。
研修については、外部の専門家である弁護士や社会保険労務士に実施してもらうことでもよいですし、社内で実施する場合でも、前掲の厚労省のダウンロードコーナーにある研修資料をベースに行うこともできるでしょう。
参考として、当記事の末尾に「ハラスメント防止規程」の例を掲載しておりますのでご参照ください。

(2)相談に適切に対応するために必要な体制づくり


相談への対応のための相談窓口をあらかじめ定めて労働者に周知すること、及び適切に相談に対応する体制が必要です。
具体的には、①相談窓口については、社内の相談の窓口担当者を決めるか、外部の相談窓口サービスを利用することが考えられるでしょう。また、②相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることが必要であるため、事前にマニュアルを策定したり、ロールプレイング等を通してヒアリングの研修を行っておくのがよいでしょう。

(3)職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応


相談窓口担当者が、相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにすることが必要です。
具体的には、①速やかに事実関係を関係者から話を行くことによって確認し、②被害者に対して再発防止や休暇の付与等の配慮を行い、③行為者に対しては適切に懲戒処分や配置転換を行い、④再発防止のための措置を講じることが必要です。

特に事実関係のヒアリングや調査は、重要な初動対応であり、正確に行うためにも複数人で対応することが重要です。被害者に対しても、二次被害が及ばないように一時的に行為者と分離させる等の措置を採ることも検討します。

(4)プライバシー保護と不利益取扱いの禁止


その他併せて講ずべき措置として、相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じること、相談したことによる解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を規定して周知徹底することが必要です。

具体的には、①相談内容やプライバシー情報は相談窓口担当者及び関連する最低限の部署にのみ共有し、事前に本人の了解を得ることや、②不利益取扱いは禁止される旨を、相談窓口の案内等に掲載しておくことが考えられるでしょう。

2.取り組むことが望ましいとされる措置

厚労省では、以下のような取り組みが望ましいとされております。

①各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備
パワハラだけでなく、セクハラや妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(以下「マタハラ等」といいます。)についても一元的に相談に対応する体制が望ましいとされていますので、ハラスメント全般について相談できる窓口とすることが望ましいでしょう。

②職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取組
パワハラの原因や背景は、コミュニケーションが少ないことや風通しが悪いことにあります。したがって、日常的にコミュニケーションを取るように定期的な面談やミーティングを設定したり、管理職に対するマネジメントやコミュニケーションの研修を行うなどの取組が考えられます。

③従業員の参画
従業員に対してアンケート調査や意見交換を実施して、ハラスメント対策に従業員の意見を取り組むことが考えられます。また、現状発生しているハラスメントの発覚にも繋がる良い取り組みだと言えます。

第2. パワハラの明確化

職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる以下の3つの要素を全て満たすものをいうことが明確化されました。

①優越的な関係を背景とした言動(典型的には上司から部下だが同僚や部下から上司でも成立する場合がある)
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの(業務上の必要性を超えた不必要に過度な叱責など)
③労働者の就業環境が害されるもの(一般人を基準として判断)


パワハラは大きく6つの類型(①身体的な攻撃、②精神的な攻撃、③人間関係からの切り離し、④過大な要求、⑤過少な要求、⑥個の侵害)に分類されますが、特に②精神的な攻撃(人格否定につながる言動、必要以上の厳しい叱責や威圧的な叱責、相手の能力の否定や罵倒する言動等)が最も多い類型と言えます。

また、今回初めて⑥個の侵害の類型として、SOGIハラスメント(相手の性的指向や性自認に関する侮辱的な言動)や、アウティング(労働者の性的指向・性自認などを本人の了解を得ずに暴露すること)も、パワハラに該当すると明記されたことは注目です。

詳しくは、厚生労働省パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」の4頁に類型やパワハラに該当するか否かの具体例が記載されていますので、ご参照ください。

なお、よくある誤解として、被害者の主観でパワハラかどうかが決まるというものがありますが、間違いです。実際には、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しないとされています。

もっとも、何がパワハラに該当するかという線引きにこだわることなく、パワハラと言われるようなことがない職場環境を作っていくことが大切といえるでしょう。

第3. セクハラ等の防止義務(2020年6月1日より既に施行済)

セクハラやマタハラ等についてもパワハラと同様に、事業主に相談等を行った従業員に対して不利益取扱いが禁止されています。
また、セクハラについては、自社の従業員が他社の従業員にセクハラを行った場合に、他社の調査に協力する努力義務が規定されています。

第4. まとめ~ハラスメント対策はなぜ必要か~

ハラスメント対策を行う必要があるのは、法律を遵守したり損害賠償を受けないためだけではありません。ハラスメントが起きるだけで、本人の健康状態が悪化したり仕事の意欲が低下したりするだけではなく、他の従業員の意欲の低下にも繋がり、生産性の低下や職場環境の悪化を引き起こします。また、求人サイトやSNSにハラスメントの事実が書き込まれてレピュテーションが低下すれば、採用活動にも影響が出るでしょう。

今回の改正によって、通報があると厚生労働相の助言・指導・勧告がなされるとともに、勧告に従わない場合には企業名が公表されるなど、レピュテーションに対するリスクも大きくなっています。

今回のパワハラ防止法が求める措置を講じることにより、未然にハラスメントを予防することで、離職率の低下や勤務意欲の向上、労働生産性の改善に繋がるでしょう。また、魅力的な職場であることをアピールすることによって採用活動にも好影響を与えることも期待できます。
中小企業の経営者や実務担当者の皆様には、本パワハラ防止法の施行を、会社全体にとって良い職場環境を構築する機会であると捉えて実務の対応を行って頂きたいと思います。

※資料:ハラスメント防止規程の規定例(前掲厚労省パンフレット「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」34~35頁記載の規定例を元に筆者が作成)

(目的)
第1条 本規定は、就業規則第□条に基づき、職場におけるパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(以下「職場におけるハラスメント」という)を防止するために従業員が遵守するべき事項を定める。
なお、この規定にいう従業員とは、正社員だけではなく、契約社員及び派遣労働者も含まれるものとする。

(パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント及び妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの定義)
第2条 パワーハラスメントとは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上の必要かつ相当な範囲を超えたものにより、就業環境を害することをいう。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。
2 セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する他の従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること又は性的な言動により他の従業員の就業環境を害することをいう。また、相手の性的指向又は性自認の状況にかかわらないほか、異性に対する言動だけでなく、同性に対する言動も該当する。
3 前項の他の従業員とは直接的に性的な言動の相手方となった被害者に限らず、性的な言動により就業環境を害されたすべての従業員を含むものとする。
4 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、職場において、上司や同僚が、従業員の妊娠・出産及び育児等に関する制度又は措置の利用に関する言動により従業員の就業環境を害すること並びに妊娠・出産等に関する言動により女性従業員の就業環境を害することをいう。なお、業務分担や安全配慮等の観点から、客観的にみて、業務上の必要性に基づく言動によるものについては、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントには該当しない。
5 第1項、第2項及び第4項の職場とは、勤務部店のみならず、従業員が業務を遂行するすべての場所をいい、また、就業時間内に限らず、実質的に職場の延長とみなされる就業時間外の時間を含むものとする。

(禁止行為)
第3条 すべての従業員は、他の従業員を業務遂行上の対等なパートナーとして認め、職場における健全な秩序並びに協力関係を保持する義務を負うとともに、その言動に注意を払い、職場内において次の第2項から第5項に掲げる行為をしてはならない。また、自社の従業員以外の者に対しても、これに類する行為を行ってはならない。
2 パワーハラスメント(第2条第1項の要件を満たした以下のような行為)
①殴打、足蹴りするなどの身体的攻撃
②人格を否定するような言動をするなどの精神的な攻撃
③自身の意に沿わない従業員に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離するなどの人間関係からの切り離し
④長期間にわたり、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下で、勤務に直接関係ない作業を命じるなどの過大な要求
⑤管理職である部下を退職させるため誰でも遂行可能な業務を行わせるなどの過小な要求
⑥他の従業員の性的指向・性自認や病歴などの機微な個人情報について本人の了解を得ずに他の従業員に暴露するなどの個の侵害
3 セクシュアルハラスメント(第2条第2項の要件を満たした以下のような行為)
①性的及び身体上の事柄に関する不必要な質問・発言
②わいせつ図画の閲覧、配付、掲示
③うわさの流布
④不必要な身体への接触
⑤性的な言動により、他の従業員の就業意欲を低下せしめ、能力の発揮を阻害する行為
⑥交際・性的関係の強要
⑦性的な言動への抗議又は拒否等を行った従業員に対して、解雇、不当な人事考課、配置転換等の不利益を与える行為
⑧その他、相手方及び他の従業員に不快感を与える性的な言動
4 妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(第2条第4項の要件を満たした以下のような行為)
①部下の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用等に関し、解雇その他不利益な取扱いを示唆する言動
②部下又は同僚の妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置の利用を阻害する言動
③部下又は同僚が妊娠・出産、育児・介護に関する制度や措置を利用したことによる嫌がらせ等
④部下が妊娠・出産等したことにより、解雇その他の不利益な取扱いを示唆する言動
⑤部下又は同僚が妊娠・出産等したことに対する嫌がらせ等
5部下である従業員が職場におけるハラスメントを受けている事実を認めながら、これを黙認する上司の行為

(懲戒)
第4条 次の各号に掲げる場合に応じ、当該各号に定める懲戒処分を行う。
①第3条第2項(①を除く。)、第3条第3項①から⑤及⑧及び第4項の行為を行った場合
就業規則第●条第1項①から④までに定めるけん責、減給、出勤停止又は降格
②前号の行為が再度に及んだ場合、その情状が悪質と認められる場合、第3条第2項①又は第3条第3項⑥、⑦の行為を行った場合
就業規則第●条第1項⑤に定める懲戒解雇

(相談及び苦情への対応)
第5条 職場におけるハラスメントに関する相談窓口は本社及び各事業場で設けることとし、その責任者は【人事部長】とする。人事部長は、窓口担当者の名前を人事異動等の変更の都度、周知するとともに、担当者に対する対応マニュアルの作成及び対応に必要な研修を行うものとする。
2 職場におけるハラスメントの被害者に限らず、すべての従業員は、パワーハラスメントや性的な言動、妊娠・出産・育児休業等に関する就業環境を害する言動に関する相談を相談窓口の担当者に申し出ることができる。
3対応マニュアルに沿い、相談窓口担当者は相談者からの事実確認の後、本社においては人事部長へ、各事業場においては所属長へ報告する。報告に基づき、人事部長又は所属長は相談者のプライバシーに配慮した上で、必要に応じて行為者、被害者、上司その他の従業員等に事実関係を聴取する
4 前項の聴取を求められた従業員は、正当な理由なくこれを拒むことはできない。
5 対応マニュアルに沿い、所属長は人事部長に事実関係を報告し、人事部長は、問題解決のための措置として、第4条による懲戒の他、行為者の異動等被害者の労働条件及び就業環境を改善するために必要な措置を講じる。
6 相談及び苦情への対応に当たっては、関係者のプライバシーは保護されるとともに、相談をしたこと又は事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いは行わない。

(守秘義務)
第6条 相談窓口の担当者及びハラスメント相談に関する情報を知り得た従業員等は、当該相談の関係者のプライバシー保護を最優先とし、当該情報並びにその存在及び内容について、退任後も守秘義務を負う。

(再発防止の義務)
第7条 人事部長は、職場におけるハラスメント事案が生じた時は、周知の再徹底及び研修の実施、事案発生の原因の分析等、適切な再発防止策を講じなければならない。

(その他)
第8条 性別役割分担意識に基づく言動は、セクシュアルハラスメントの発生の原因や要因になり得ること、また、妊娠・出産・育児休業等に関する否定的な言動は、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの発生の原因や背景となり得ることから、このような言動を行わないよう注意しなければならない。


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