会社に借入金が溜まった時に使いたい 「DES」について司法書士が徹底解説
法務


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DES(デット・エクイティ・スワップ)とは


中小企業の場合、会社と経営者は一身同体と言われています。会社の資金が不足すれば、銀行から融資を受ける前に、まずは経営者が個人の資産から会社に貸すことはしばしばありますね。

しかしこれが常態となってしまうと、会社は経営者からの借入金が膨らみ、場合によっては債務超過状態となってしまいます。また、取引先や金融機関への借金が溜まり返済が困難な状況となった場合でも、それが一時的で将来回復が望めるのであれば、借金による利払いを避けるために、一時的にそれを棚上げしたいという場合もあります。

これらを一気に解消する方法がDES(デット・エクイティ・スワップ)と呼ばれる方法です。
Debt(債務)とEquity(株式)をSwap(交換)することをいいます。日本語で言えば「債務の株式化」ですね。


どんな時にDESを使うのか


会社のバランスシートの状態が悪いと、銀行融資などもスムーズでなくなります。こういった場合、経営者からの借入金であれば、それをそのまま募集株式発行の対価としてしまえば、負債は減り、資本金が増加するのでバランスシートは改善されます。

経営者個人から見ても、しばらくは回収できる見込みが無い場合、債権を持っているだけでは他の株主に対して優位性はありませんが、株式化すれば議決権が増えるというメリットがあります。また、株式が増えれば将来的に配当や売却益も大きくなり、意欲が増します。

取引先や金融機関などの債権者が支援の姿勢を明らかにしている場合には、それらが株主となる事でより一身同体となり、支援が更に明確化します。同時に、取引先や金融機関も、支援すれば将来配当や売却益を得る可能性があるので、ちょうど新株予約権を行使したのと同様の効果が得られることになります。

ただし、これらの大前提は「将来的に再成長が見込める」という事です。これが見込めないのにDESを行うのは、問題の先延ばしによる傷口の拡大にしかなりません。


こんな時はDESを使ってはいけない !


借入金が増えてしまうのは、大きく分けて下記の3つの場合が考えられます。

(1) そもそも事業開始にあたって、計画が不十分で、初期費用を賄うための資本金が過少であった場合
(2) 取引先の倒産や、環境変化による取引中止などの一時的外的要因により急激に損益が悪化した場合
(3) そもそも赤字基調が続いている場合


(2) は、更に細分化すると次の2つに分けられます


ア)中期的には再成長の可能性がある場合
新規取引先の開拓や、新製品の発売、経費削減などを織り込んだ中期計画に実現性が高いと思われる場合です。

イ)中期的にも再成長が困難と思われる場合
市場縮小や過当競争、経営者や従業員の高齢化、会社の革新力の不足などを総合的に見ると再成長は困難と思われる場合です。


(3) は、(2)-イの状況が続いている場合もありますが、その他に次の様な場合があります


ウ)新製品の開発などで赤字が続いたが、近々これが改善される見込みがある場合

エ)前任経営者の経営失敗などによって赤字を招いたが、新任経営者の確実な事業計画によって再成長が見込める場合

オ)上記のいずれでもなく、再成長は見込めない場合。
この中でDESを使ってはいけないのは、(2)-イと(3)-オの場合です。
これらの場合は会社の解散―清算や、破産法・会社更生法・民事再生法などの適用を検討しましょう。

ちなみに、出資者/経営者の全面交代を兼ね、現株式の会社への無償譲渡・減資と組み合わせて債権者に経営・出資を委ねる場合に、その一部としてDESを使う場合もありますが、これは別の機会にお話ししたいと思います。


事業計画を立案しましょう


上記の(1)の場合等も、一度きちんとした事業計画を立案しましょう。事業計画は、単なる願望や夢の目標であってはいけません。「頑張ればなんとかなる」かどうかはきちんとした状況判断の数値の積上げです。経営者として、このあたりをきちんと判断できるかどうかが重要です。

また、債権者が金融機関や取引先である場合は、その計画が十分に説得力を持っている必要があります。

DESを使う際は、きちんとした事業計画で再成長が見込める事が重要!



具体的にはどうやってやるのか


DESは、具体的には会社が第三者割当による募集株式発行を行うわけですが、手続的には「現物出資」の方法と「現金振替」の方法があります。


詳細は以下です。


(1) 現物出資


借入金債権を現物出資の対象として直接相殺する方法です。

現物出資については登記の前に「調査役による調査」や「弁護士等が相当性を証した書面」の添付が必要と思われているかもしれませんが、借入金(金銭債務)の場合にはこれらは必要ありません。 現物出資一般について下記の2つのいずれかに当れば、現物出資は募集事項の決定に係る議事録等だけで十分であり、別途添付書面等は必要ありません。

ア)募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が発行済株式の総数の10分の1を超えない場合
イ)現物出資の価額が総額で500万円を超えない場合

これらに当てはまらない場合であっても金銭債務については「金銭債務について記載された会計帳簿」を添付すればOKです。具体的には借入金についての総勘定元帳などがこれにあたります。但し、細目で借入先 が分類されていて、出資者が債権者である事が分別できる必要があります。


(2) 現金振替


債権者に一旦募集株式の払込を現金で行ってもらい、それを預金通帳に反映させた後、その払込金で債務弁済を行う方法です。

上記の会計帳簿の分別が困難な場合や、弁済の事実を金融機関の記録にとどめたい場合などに使います。


まとめ


DESは、債権者と会社や株主が同意すれば、比較的容易に行えます。しかし、その前提となる「再成長の見込み」が重要です。

上記の同意がある場合には、登記申請について是非お気軽にご相談ください。
参照 : SHARES 司法書士事務所クイック&ライト 清原正承のページ

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