前回記事では、パワハラ型モンスター社員の対応について解説をしました。
しかし、パワハラについては言葉が浸透してきており、あからさまなものは昔に比べて減ってきているように感じます。
むしろ困るのは、正当な叱責にもかかわらず「パワハラだ」と訴えてくる社員の方では無いでしょうか。パワハラを訴えられると話を聞かないわけにはいかず、結果的に時間と労力を使います。それを繰り返されると受けている方としてはたまったものではありません。
ここでは、ちょっとしたことですぐにパワハラを訴える被害妄想型モンスター社員の対応について考えたいと思います。
パワハラを具体的に説明する義務は社員にある
パワハラを訴えるのであれば、具体的な時間、場所、言動、強要されたのであればその内容をその社員に説明をさせてください。例えば「毎日怒っている」「いつも頭ごなしに否定してくる」みたいな言い方であれば、それがいつ行われているのか、どんな具体的な言葉だったのか、何を強要されたのか、まずはヒアリングしてみてください。
ここが具体的にできない訴えは、そもそもパワハラとして調査ができないので、それ以上話を聞く必要は無いと考えて差支えありません。まずはそこを具体的にするようにアドバイスをして終わってください。
もちろん、具体的にできない理由が上司に対する報復の意味を含んだモンスターの手によるものだからなのか、単に性格や説明能力の問題なのか、このあたりは断言できません。ヒアリングはそこで終わっても、周りの社員から状況を聞くなどの調査は最低限行った方が良いでしょう。
正当な叱責である理由を説明して、相手の怒りの気持ちも受け入れること
厚生労働省が発表しているパワハラには6つの類型があります。
1. 身体的な攻撃(小突く、胸ぐらをつかむなど)
2. 精神的な攻撃(人前での大声での叱責、人格否定など)
3. 人間関係からの切り離し(挨拶や会話をしないなど)
4. 過大な要求(達成不可能なノルマを与えるなど)
5. 過小な要求(コピー取りしかさせないなど)
6. 個の侵害(相手の信条や宗教など、私的なことを公表・批判するなど)
この基準に従って判断をして問題があれば、それはパワハラとして認めて良いでしょう。
しかし、それがパワハラかどうか判断に迷ったら、以下の点について検討をしてください。
・叱責の時間・回数(必要以上に長時間叱っていないか)
・叱責の場所・状況(辱めるようなことをしていないか)
・叱責の内容(業務のことに絞っているか、人格否定に至っていないか)
・叱責の言動(威圧的になっていないか、暴力行為はなかったか)
このあたりでパワハラを訴えられる側に配慮が見られれば、やはりパワハラとして扱わないということにして良いでしょう。パワハラを訴えにきた社員には、叱責をする側にも配慮があることを説明してください。
そのうえで、訴えてきた社員の怒りの気持ちを受け止めてあげてください。具体的には「あなたが相手に怒りを感じたことはわかった」と相手に理解を見せることです。訴えてきた社員は、自分の気持ちが受け入れられたと感じるので、それ以上は言いにくくなります。
「馬鹿野郎!」と怒鳴ってもパワハラにならないケースもある
例えば工事現場や車の運転業務のような、一つのミスが命にかかわるような職場の場合、不注意をした社員に対しては、厳しい言葉で叱責をする方が効果があります。身体が反応することによって、下手をしたら落としてしまう命を救える可能性もあるのです。
このケースでは(何を言っても良いわけではありませんが)多少のきつい言葉でも、パワハラにはならないでしょう。
同様に、そのミスが単純であればあるほど、叱責を厳しくする効果は高いと言えます。頭で考える前に身体が反応するからです。逆に論理性が求められるような場面で必要以上に厳しい叱責をすると、相手はどうしたら怒られないかを探るようになってしまい、思い切った建設的な提案ができなくなることもあります。
その叱責がパワハラとなるかどうかは、叱責をする目的にもよります。叱責をした方の意図にも注目をして、対応を決めてください。そのためには、叱責をする側の社員との普段からのコミュニケーションが不可欠です。
まとめ
パワハラを訴えてくる社員には、まず具体的な場面の説明を求めてください。具体的になったら、その状況などからパワハラか正当な叱責かの判断を行い、その理由を訴えてきた社員に伝えてあげてください。また、訴えてきた社員の怒りの気持ちに理解を示してあげてください。
パワハラを頻繁に訴えてくるような社員は、普段から自分の気持ちや行動に周りの理解が無いと感じています。その反動が、第三者に訴えるという強硬手段の原動力になってしまいます。正当な叱責であっても、自分の怒りの気持ちが認められたと感じられれば、そのような行為は減ってくるはずです。
それでも対応に迷うことがあれば、一人で悩まずに、各都道府県の労働局の相談窓口や社労士のような専門家に相談することをお薦めします。