社員が何か問題行動を起こした際、制裁としての減給を課すことは当然考えられることです。
しかし、労働基準法では、行き過ぎた減給が社員に課されないように、制限が設けられています。
ここでは、減給を課す場合のできること、できないことについて解説していきます。
この記事の目次
1.月給に対する制裁には上限がある
まず前提として、問題行動に対して制裁を課すためには就業規則による規定が必要です。就業規則がなければそもそも制裁を課すこと自体ができません。(ちなみに、遅刻や早退の時間数分を給与から控除することは、制裁にあたりません。)
制裁による減給は労働基準法第91条により「一回の額が平均賃金の半分を超え、総額が一賃金支払期における総額の1/10を超えてはならない」とされています。例えば1日の平均賃金が10,000円とすると、問題行動を起こしたときの減給額は1回につき10,000円×1/2=5,000円が限度になります。
また、月給で一月の平均賃金が300,000円の場合、問題行動を一月の間に何回起こしても、300,000円×1/10=30,000円が一月の間で支払える限度になります。
限度を超えた分は翌月に繰り越して減給することが可能です。ただし、その社員がその月に退職するからといって、繰り越し分を当月給与から限度額以上に控除することはできません。
一賃金支払期間の総額の1/10を超えてしまうと、問題行動を起こした方の社員の生活に響く、という配慮なのです。逆に言えば、減給という制裁は、生活にそこまで影響しないレベルでしか効かないとも言えるでしょう。
2.賞与の査定で問題行動を考慮する
賞与に関しても、給与と同様に制裁による減給の制限がかかります。この場合「一賃金支払期間の総額」は賞与の総額となります。つまり、制裁の減額を課す場合は、給与でも賞与でも最終的な総額としては変わらないことになります。
一方で、制裁として減給するのではなく、問題行動を起こした社員の賞与査定を低くすることは可能です。しかし、問題行動をした社員の賞与をゼロにした会社に対し、行き過ぎているとして無効とした判例もあります。
査定により賞与を下げる場合、その問題行動のみによって賞与の額を決めることは望ましくありません。あくまで事前に、給与規程などで定められた総合的な査定の一つとして問題行動の有無があり、その内容に従って査定を低くした、というプロセスが求められることになります。
3.罰金をあらかじめ定めることは不可。だけど就業規則には書いておきたいこと
「遅刻したら罰金〇円」という制裁は、「労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」とする労働基準法第16条の規定により違反になります。罰金の具体的な金額による定めについては、金額の多寡は関係なく違法となる、ということです。
一方で、社員の重過失や故意により損失が出た場合、実損額を損害賠償として請求することは可能です。これまで述べてきたように、減給による制裁には限度がありますので、問題行動に抑止力を持たせるためにも、就業規則には会社側が損害賠償を求める可能性がある旨を記載しておきたいところです。
もっとも、例えば飲食業で皿を洗っている途中で、そのお皿を割ってしまった場合、お皿代を従業員から請求できるかとなると難しいです。お皿を洗う行為は通常業務であり、その中で皿が割れるというリスクは経営者が背負うべきと言えるでしょう。
あくまで損害賠償ができるのは「重過失、故意」の時と認識してください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
実は労働基準法上の制裁の目的は、会社の秩序維持なのです。社員が問題行動を起こした内容に相当する金額の痛みを受けたかどうかは、二の次と言えるでしょう。
ここまで述べてきたように、減給というのは社員の生活が脅かされない程度にしかかけられることができず、お金による痛みだけで抑止力を持たせるというのは、実は現実的ではありません。
そのため「いかにして罰を与えるか」ということよりも、「いかにして問題行動を抑えるか」という観点で、従業員の問題行動に向き合ってみてください。社員の問題行動にお悩みであれば、一人で抱え込まず、ぜひお近くの専門家である社会保険労務士にご相談ください。
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