2018年3月19日付の記事『助成金申請に影響大 ! 「生産性要件」をご存じですか?』にて、従業員の離職が助成金申請に悪影響を及ぼす可能性について触れました。
今号では、助成金申請上どのような離職が、いつのタイミングで起こってはならないのかを解説することにしましょう。
原則、助成金不支給要件となる「会社都合退職」
人材の雇い入れや教育等で受給できる雇用関係助成金では、支給申請時に「従業員の離職状況」がチェックされます。例えば、キャリアアップ助成金の支給要件には下記の記載があり、この観点に基づいて確認されることになります。
「当該転換日の前日から起算して6か月前の日から1年を経過する日までの間に、当該転換を行った適用事業所において、雇用保険被保険者を解雇等事業主の都合により離職させた事業主以外の者であること。」
このような要件の記載は雇用関係助成金のほとんどにあり、助成金申請を検討中の事業主様であれば敏感にならざるを得ません。
しかしながら、ひと口に「会社(事業主)都合退職」といっても、様々なケースが想定されるため、注意が必要です。
ここでは、代表的な例を挙げておきます。
✓ 会社の経営不振、倒産等で一方的な労働契約の解除
✓ 事業所単位で1カ月に30人以上の離職予定、もしくは会社の3分の1を超える人の離職
✓ リストラ等による解雇
✓ 早期希望退職者の募集による退職
✓ 退職勧奨
ただし、「解雇」の中でも「懲戒解雇」に該当するものは、自己都合退職扱いとなり、雇用関係助成金の不支給要件には該当しません。
雇用保険上の「特定受給資格者」にも注意
前述の会社都合退職理由の場合、雇用安定の趣旨から外れることが明らかなため、雇用関係助成金の支給に影響するであろうことは比較的容易に想像できるでしょう。
ところが、助成金の不支給要件に該当する離職は上記にとどまりません。雇用保険上、「特定受給資格者」に該当する離職者が「事業所の雇用保険被保険者の6%を超え、かつ4人以上発生する場合」も助成金を受けることができなくなります。
「特定受給資格者」の定義については、ハローワークインターネットサービスにて列挙されています。 一例では、
●労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違したことにより離職した者
●賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した
(又は低下することとなった)ため離職した者
(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)
●事業主が労働者の職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者
●期間の定めのある労働契約の更新により3年以上 引き続き雇用されるに至った場合において当該労働契約が更新されないこととなったことにより離職した者
●パワハラやセクハラを受けたことにより離職した者
●事業所において使用者の責めに帰すべき事由により行われた休業が引き続き3か月以上となったことにより離職した者
等が挙げられます。上記は、労働者から退職届が提出され、会社は「自己都合退職」として認識している場合であっても、その退職理由が会社(事業主)の責めに帰すべき内容であることから、雇用保険上「会社都合退職」として処理されます。
参考:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
助成金支給申請の前後6ヵ月間の解雇等はNG
助成金支給申請に影響を与える解雇等は、原則「支給申請日の前後6ヵ月(計1年間)」に生じたものとされています。とはいえ、この期間内に解雇等が生じるからといって、従業員側に働きかけて無理やり「自己都合退職」として処理すれば、不正受給に該当します。
不正受給を行うと、以降3年間の助成金申請が一切できなくなる他、社名公表等のペナルティを受けることもあります。
参考: 東京労働局「不正受給の公表について」
まとめ
今後では、「雇用関係助成金の不支給要件となる従業員の離職」をテーマにご紹介しました。 雇用関係助成金の支給申請をご検討中であれば、まずは適正な形での労務管理の徹底が求められます。
過去に生じた労務管理上の問題について、助成金の支給申請のタイミングでさかのぼって是正することはできません。
ぜひ、助成金活用を視野に入れた段階から、なるべく早いタイミングで社会保険労務士へご相談ください。