参考 : 厚生労働省「働き方・休み方改善ハンドブック 情報通信業(情報サービス業)編」
情報通信業における課題は「長時間労働の抑制・年次有給休暇取得促進」
情報通信業向けの「働き方・休み方改善ハンドブック」作成に先立って行われた「働き方・休み方の改善に向けたアンケート調査」によると、所定外労働時間が月80 時間を超える IT エンジニアが「いる」企業が65.3%にのぼることが明らかになりました。他の業種と比較しても特に労働時間の長時間化が顕著なIT業では、年次有給休暇の取得が進まないことも併せて問題視されています。
情報通信業全般に共通する課題である「長時間労働の抑制」「年次有給休暇の取得促進」については、まさに働き方改革における柱とも言えます。まずは御社における従業員の働き方の実態を把握した後、公開されたハンドブックに紹介される同業他社の取り組み事例を参考に、有効な対応策を検討していきましょう。
小規模企業こそ検討すべき「医師・保健師の活用」
「働き方・休み方改善ハンドブック 情報通信業(情報サービス業)編」には、働き方・休み方改善に向けた取り組みとしていくつもの好事例が掲載されています。具体的には、特別な休暇制度の創設や管理職向けの労務管理セミナーの実施、仕事の進捗把握の徹底、短時間勤務やテレワークなどの新たな働き方の制度化などが挙げられますが、中小企業が今後特に意識すべきは「医師・保健師の活用」です。
すでに以前の記事でもご紹介している通り、労働安全衛生法では、時間外・休日労働時間数に応じ、医師による面接指導を実施するよう定められています。こうした対応は、従業員数が10名未満の小規模企業においても必要となるため、事業主と安全衛生推進者(もしくは衛生推進者)が中心となって体制整備を進めましょう。
参考 : SHARES LAB「社員の「5月病」に要注意!小規模企業で行うべきメンタルヘルスケア」
IT業の働き方改革に不可欠な「客先の理解」
IT業界特有の問題点として、「受託開発をメインとしているために、仕様変更、厳しい納期、限られた予算等の顧客事情に合せなければならない、一部の優秀なエンジニアに負担がかかりがちになる」「客先常駐が主であるために、個々が抱える業務量や労働時間の把握・管理がしづらい」といった事項が挙げられます。これらの課題に向けた取り組みには、自社の努力だけでなく、客先の理解が不可欠となります。
この点、同業他社では下記のような取組みを実践しているところもあります。
〇 長時間労働の抑制や年次有給休暇取得について顧客の理解を得るよう働きかけている
▶ 長時間労働となっている現場には社長自らが客先に出向き、従業員の時間外労働を月 20 時間以内にする方針など、長時間労働の抑制に向けた自社の考えを説明しています。また、部門責任者が客先との折衝を続け、改善されない場合は、取引を停止するという強気の姿勢で臨んでいます。(L 社)
▶ 「お客さまと従業員と会社が共に幸せに」という企業理念を理解してもらうよう働きかけ、客先の意識が変わりました。従業員のレベルが高いことが評価され、信頼関係が築けているので無理な仕様がなく、リーダーもエンジニアも予定された作業量を超えて仕事をする必要がありません。(T社)
〇 労働時間管理がしやすいビジネスモデルに変化させている
▶ 以前は受託開発の受注案件が多く、仕事量が膨らんでいました。そこでパッケージ化とそのカスタマイズを基本とするビジネスモデルに変更した結果、時間外労働は削減されつつあります。(S 社)
▶ 働き方の改善のため、受託開発よりも仕事が見える自社パッケージの売り上げを、現在の 2 割から拡大していく方針です。(F 社)
参考 : 厚生労働省「働き方・休み方改善ハンドブック 情報通信業(情報サービス業)編」
客先の都合に合わせるためとはいえ、慢性的な労基法違反により罰則を受けることになるのは御社です。いずれも容易な取り組みとは言えませんが、必要に応じて対策を検討していくべきと言えます。
まとめ
進まぬ労働環境の改善を、業界全体のせいにしているうちは、御社の働き方改革は進みません。今後ますます進展する働き手不足に対応するために、誰からも「働きやすそう」「長く活躍出来そう」と思われる就業環境の実現を目指すべきであることは不可欠です。まずはできることから、ひとつずつ考えていきましょう !