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前々号、そして前号と、「労働者派遣事業」をテーマにご紹介してまいりましたが、しばしばこの労働者派遣事業と引き合いに出されるのが「有料職業紹介事業」です。しかしながら、そもそも有料職業紹介事業とは何なのか、労働者派遣とどう違うのか、正しく理解されていないケースは少なくありません。また、労働者派遣事業同様、有料職業紹介事業にも厳格な許可基準が設けられています。
今回は、両者の相違点と、有料職業紹介事業を開始するにあたって必要な要件を解説していくことにいたしましょう。
労働者派遣と職業紹介はまったく異なる事業である
まずは大前提として、労働者派遣と職業紹介の違いについて、正しく把握しておきましょう。厚生労働省によると、両者は下記の通り説明されています。
つまり、派遣は「客先からの依頼に合わせて一時的に人を送り出すこと」を指し、一方で職業紹介は「求人者と求職者の間を取り持つこと」であるとまとめることができます。
ともすれば類似事業として語られることの多い二つの事業ですが、そもそもの目的を並べてみると両者の相違は明らかです。
例外的に、労働者派遣と職業紹介の両方の性質を併せ持つ事業として「紹介予定派遣」があります。こちらは派遣先に直接雇用されることを前提に、一定期間派遣スタッフとして就業する制度であり、開始に伴い労働者派遣事業と有料職業紹介事業の両方の許可申請を経る必要があります。
有料職業紹介事業の許可申請に必要な8つの要件
有料職業紹介事業を行うためには、下記の8要件を充たさなければなりません。
①財産的基礎
直近の決算報告書(一度も決算をしていない場合は、設立時の貸借対照表)で、次の2要件を充たしていること
・基準資産額※ ≧ 500万円 × 事業所数※2
・現金預金(会社名義)の額 ≧ 150万円 + 60万円 × (事業所数-1)
※ 基準資産額=繰延資産および営業権を除く資産総額 - 負債総額
・現金預金(会社名義)の額 ≧ 150万円 + 60万円 × (事業所数-1)
※ 基準資産額=繰延資産および営業権を除く資産総額 - 負債総額
②事業所
・風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)で規制する風俗営業や性風俗特殊営業等が密集するなど事業の運営に好ましくない位置にないこと
・事業に使用し得る面積がおおむね20㎡以上あること(ただし、対面を伴わない職業紹介を行う場合には事業所面積は問われない)
・事業所名が他の職業安定機関等と誤認しうる恐れのないものであること
・求人者と求職者の個人情報を区別し、適切に管理できる環境であること
③事業主
事業主(法人の場合にはすべての役員)が下記すべての要件に該当する者であること
・職業安定法第32条の欠格事由に該当しないこと(職業安定法)
・質屋営業や貸金業を営む場合には、適正に業務を運営している者であること
・風俗営業等、職業紹介事業との関係において不適当な営業の名義人又は実質的な営業を行う者でないこと
・外国人の場合は、適正な在留資格を有すること
・住所及び居所が一定しないなど生活根拠が不安定な者でないこと
・不当に他人の精神、身体及び自由を拘束するおそれのない者であること
・公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる行為を行うおそれのない者であること
・申請内容に虚偽や不正がなく、又は許可の審査に必要な調査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者でないこと
・国外にわたる職業紹介を行う場合にあっては、相手先国の労働市場の状況及び法制度について把握し、並びに求人者及び求職者と的確な意思の疎通を図るに足る能力を有する者であること
・質屋営業や貸金業を営む場合には、適正に業務を運営している者であること
・風俗営業等、職業紹介事業との関係において不適当な営業の名義人又は実質的な営業を行う者でないこと
・外国人の場合は、適正な在留資格を有すること
・住所及び居所が一定しないなど生活根拠が不安定な者でないこと
・不当に他人の精神、身体及び自由を拘束するおそれのない者であること
・公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる行為を行うおそれのない者であること
・申請内容に虚偽や不正がなく、又は許可の審査に必要な調査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者でないこと
・国外にわたる職業紹介を行う場合にあっては、相手先国の労働市場の状況及び法制度について把握し、並びに求人者及び求職者と的確な意思の疎通を図るに足る能力を有する者であること
④職業紹介責任者
職業紹介責任者になるためには、以下の要件を充たすこと
・職業安定法第32条第1号から第3号までに掲げる欠格事由のいずれにも該当しない成年者であること(職業安定法)
・「③ 事業主」要件のいずれにも該当する者
・成年に達した後3年以上の職業経験を有する者であること
・職業紹介責任者講習会を受講(許可又は許可の有効期間の更新に係る申請の受理の日の前5年以内の受講に限る)した者であること
参考 : 職業紹介責任者講習会の実施機関等について
・「③ 事業主」要件のいずれにも該当する者
・成年に達した後3年以上の職業経験を有する者であること
・職業紹介責任者講習会を受講(許可又は許可の有効期間の更新に係る申請の受理の日の前5年以内の受講に限る)した者であること
参考 : 職業紹介責任者講習会の実施機関等について
職業紹介責任者は、職業紹介事業に従事する者50人につき1人以上選任します。
⑤個人情報管理体制
求人者と求職者の個人情報を適正に管理するために、「個人情報管理規定」を定める必要があります。
こちらに関しては、労働者派遣事業申請の際に提出するものと同様の内容で構いません。初めて作成される際には、社会保険労務士等専門家にご相談ください。
⑥業務の運営に関する規程
適正に職業紹介事業を運営する上で、規定しておく項目は概ね下記の通りです。
・職業選択の自由
・均等待遇
・労働条件の明示
・個人情報の保護
・求人、求職の申込
・紹介の原則
・手数料
・取扱業種の範囲
・労働争議への不介入
・均等待遇
・労働条件の明示
・個人情報の保護
・求人、求職の申込
・紹介の原則
・手数料
・取扱業種の範囲
・労働争議への不介入
本規程は、「個人情報適正管理規程」と一体のものとしても差し支えありません。
⑦適正な事業運営に関する要件
職業紹介事業を適正に運営するために、下記の要件を満たす必要があります。
・申請者が国又は地方公共団体でないこと
・有料職業紹介事業を会員の獲得、組織の拡大、宣伝等他の目的の手段として利用するものでないこと
・事業主の利益に偏った職業紹介が行われるおそれのある者でないこと
・その紹介によって就職した者のうち、介護作業従事者が労災の特別加入を希望する場合には、所定の申請を行うこと
・労働者派遣事業と兼業する場合、求職者に係る個人情報と派遣労働者に係る個人情報が別個に作成され別個に管理されること等事業運営につき明確な区分がなされていること
・有料職業紹介事業を会員の獲得、組織の拡大、宣伝等他の目的の手段として利用するものでないこと
・事業主の利益に偏った職業紹介が行われるおそれのある者でないこと
・その紹介によって就職した者のうち、介護作業従事者が労災の特別加入を希望する場合には、所定の申請を行うこと
・労働者派遣事業と兼業する場合、求職者に係る個人情報と派遣労働者に係る個人情報が別個に作成され別個に管理されること等事業運営につき明確な区分がなされていること
⑧手数料表に関する規定
職業紹介事業における手数料に関して、下記の要件を充たすこととされています。
・適法な手数料以外に職業紹介に関し、いかなる名目であっても金品を徴収しないこと
・徴収する手数料を明らかにした手数料表を有すること
・徴収する手数料を明らかにした手数料表を有すること
手数料表の作成に関しては、社会保険労務士等専門家にご相談ください。
以上、厚生労働省・都道府県労働局『職業紹介事業パンフレット- 許可・更新等マニュアル -』参照
まとめ
このように、有料職業紹介派遣事業の許可申請に伴い、労働者派遣事業同様、様々な要件をクリアしなければなりません。
社会保険労務士が、お忙しい事業主様の申請サポートをいたします。「自社で対応するにはちょっと厳しい・・・」とお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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