うつ病になって仕事ができなくなってしまうと、給与が受け取れなくなって生活に非常に困ることになります。一般的には、会社員であれば、健康保険から傷病手当金という給付を受けることができますので、その金額でしばらく生活をすることになります。
ただし、うつ病の原因が長時間労働の横行やハラスメントによるものだとしたら、労災を申請することも可能です。労災として認められれば、傷病手当金よりも多く、また長期間にわたってサポートを受けることができます。
ここでは、うつ病で労災申請を検討する時に考えておきたいことについて、解説をいたします。
1. 会社にはハラスメントの防止措置義務がある。まずは会社窓口に相談を。
まずこのような問題が起きた時、最初に考えることは「誰に相談すれば良いか」ということです。平成29年1月から、男女雇用機会均等法、育児介護休業法において、「就業環境を害することがないよう防止措置を講じること」という文言が加わり、防止措置が義務になりました。パワーハラスメントについては明確な規定は無いものの、厚生労働省の指導では、同様の防止措置を取ることが望ましいとされています。防止措置の具体例として、厚生労働省の指導による対応事例を見ると、ハラスメント禁止の社内啓蒙などに合わせて、ハラスメント相談窓口を設置すること、とあります。これに従い、会社はハラスメントの相談窓口を設けて、社員に周知する必要があります。まず、就業規則や社内の通達から、ハラスメント相談窓口の場所を確認して、そちらに相談をしましょう。
2. うつ病が労災として認められる条件は3つ
社内の相談窓口では、ハラスメントの相談にはのってくれるでしょうが、労災請求に協力的になるかというと話は別です。会社の立場として、労災であることを認めることは安全配慮義務違反を認めることになるので、そう簡単にはいかないでしょう。会社が労災請求に協力的でなければ、労働基準監督署や弁護士・社労士へ相談することになります。ここで聞かれることは、以下の3点です。これらは平成23年に出された厚生労働省の通達(心理的負荷による精神障害の認定基準について)に基づいています。
②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
ハードルが高いのは2と3です。長時間労働であればその病気を発症した6ヶ月前の残業時間を聞かれるのは必須でしょう。ハラスメントであれば、その事実を客観的に伝える必要があります。その証拠がどれだけ残っているか、というところが課題です。小さなメモでも構わないので、それらの証拠をかき集めるところから始めて、時系列で整理をしてみてください。
また、プライベートでも心理的負荷がかかっていなかったかを調べられます。家族の死などネガティブなことばかりではなく、結婚や出産などポジティブな環境の変化も問われますので、そちらもしっかりと伝えてください。
3. 労災ではなくても、会社にハラスメントが起きていることを伝える
これだけやって、うつ病を含む精神障害の労災申請で、承認される率は40%程度です。実際には申請する前に諦めたものも少なくないはずで、うつ病を労災で争うのはハードルが高いと言わざるを得ません。さらに、労災で争うということは、会社を敵に回すことになるので、仮に労災認定されたとしても、仕事復帰したときに居づらくなることも考えられます。労災申請することはデメリットもあるのです。
しかし、労災申請するかどうかはともかく、会社が原因でうつ病になったと感じるのであれば、会社にそのように訴えるべきです。いくら労災へのハードルが高いとは言っても、会社から見れば、うつ病の元となる原因を放置しておくことは、訴訟や風評被害など大きなリスクになるため、誠意をもって対応しなければいけません。労災になるかどうかはともかく、その声が集まって大きくなるほど、関係社員の謝罪や再発防止策が出てくる可能性があります。
うつ病から復帰した際、今度は安心な職場になっていてほしいのではないでしょうか。そのために、起きたことは泣き寝入りせずに、会社に報告をしてみてください。
まとめ
いかがでしたでしょうか。自分が精神的に追い詰められたら、まずは会社の相談窓口に相談するのが第一歩です。そのうえで、労災申請を検討してください。労災申請が承認されるかどうかはともかく、会社にうつ病の原因の事実を突きつけることが、明日の職場環境の改善につながります。
長時間労働やハラスメントの問題というのは単純な構造ではなく、仕事の内容から責任、権限、プライベートの状況まで、様々な問題が絡んできます。自身のことを客観的に見るということは意外に難しく、これらの問題を整理できないものです。このような問題で悩んでいるようであれば、一度、第三者である社会保険労務士に問題を整理する意味でもご相談をしてみてください。