円満退職したと思っていた社員が、同業他社へ就職したり、同業での起業をしたりして、自社の顧客を奪っていくモンスター「元」社員になる、ということもあります。
社員側には生活がありますので、同業に就職することも顧客を奪うこともそれなりの理由があります。また、退職している会社から指揮命令を受ける関係性もありません。では、会社から見たとき、どんな対策が考えられるのでしょうか。ここでは、元にいた会社の顧客を奪うモンスター元社員の対策について解説をします。
1. 原則的には退職後の行動は制限できない
まず理解しなければいけないのは、憲法上は職業選択の自由が保障されていて、かつマーケットは自由競争であるということです。何も対策を打たないということは、ライバル会社に転職されてダンピングされようが、そのノウハウを活かして自社の邪魔になる起業しようが、問題無いと言っているようなものです。退職した後に打てる手はまったく無いと言って良いでしょう。ほとんどの企業では、守るべき顧客であり、技術であり、ノウハウがあるはずです。何よりも、このような問題で会社がダメージを受ければ、残ってくれた社員に悪い影響を与えかねません。リスクヘッジとして、事前に対策を取っていただきたいところです。
2. 誓約書で退職後の行動をおさえる
一般的には退職時に誓約書を提出させて、競業他社への就職や起業を禁止していることが多いようです。もちろん、対策として誓約書を出させることは有効です。では、誓約書に何でも書いて良いか、というとそんなことはありません。判例では、誓約書の内容そのものが合理性の観点から無効とされたケースもあります。誓約書の有効性を判断するポイントは以下の6つです。
②従業員の地位(上役になればなるほど誓約書は有効になります)
③地域的な限定
④存続期間の限定(業種にもよりますが、6ヶ月~1年程度が目安)
⑤競業行為の限定
⑥代償措置の存在(高額な賃金などを与えていたかどうか)
②⑥は、退職される方があてはまるほど、誓約書の内容に有効性を持ちやすいということです。
①③④⑤については、ご自身の会社で利用されている誓約書にこれらの観点が盛り込まれているかどうかをご確認ください。要は「職業選択の自由を最大限に配慮しつつ、自社の利益を守るための最小限の制限を行っている」という配慮が見えるかどうかが求められています。
3. 就業規則への規定で周知効果を
もう一つ事前に行っておきたいことは、就業規則による競業避止義務の徹底です。従業員に対しては、在職時から競業避止義務を意識させておきましょう。在職中に競業の事業を行えば、当然懲戒の対象とするとともに、退職後も競業避止義務を負うことを記載することで、退職時に誓約書が出てくることが自然な流れになります。ただし、就業規則にあるから誓約書がいらないかというと、そんなことはありません。就業規則は全体的な規則として、個別の事情を考慮できないからです。就業規則で周知効果をはかり、誓約書で個別の同意を取るというのが競業避止の対策となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。職業選択の自由の観点から、退職者に制限できることは非常に限定的になります。事前に就業規則と誓約書を使って、会社の利益を守れるように準備をしておいてください。
退職者の競業避止対策は、これまで述べてきたように事前の対策が重要になります。また、業種やマーケットの環境によっても変わってきます。これまでそのようなトラブルが起きていないような会社であっても、ぜひ一度、お近くの社会保険労務士へ、ご相談されることをお勧めいたします。