「自分は厳しく育てられたから成長できた」は脳がごまかしているにすぎない。今のパワハラを許さない風潮が腑に落ちないあなたへ。
労務


この記事の目次
立て続けに起こるスポーツ団体におけるパワハラ問題。背景には、厳しく育てるほど人は育つという、疑う余地の無い固定観念があります。特に今、上司となっている世代にとって、今のパワハラ問題に対して、本心では加害者側にもシンパシーを感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私は社会保険労務士である同時に、産業カウンセラーとして社員の心理学的側面からも企業をサポートしております。ここでは、「厳しく育てるほど人は育つ」と信じている方へ、なぜパワハラが問題になるのか、解説をさせていただきます。

1. 「高いものほど満足度が高い」のと共通していること

突然ですが、一般的に商品というのは価格が高いほど満足度が上がります。価格が高いのだから当たり前じゃないか、というところからちょっと疑ってみてください。

価格が高いのだから価値が高い、というのは理屈では必ずしも当てはまる公式ではありません。ところが人というのは、価格が高い=大きな代償を支払っているため、「これだけ大きな代償を払っているのだから、満足した方が得だ」という心理を誘発させます。だからこそ、ブランド品はあえて安売りをしないのです。

マーケティングの世界で「サンクコスト」という言葉があります。既に回収が不可能なコストのことを言います。ところが、回収不能とわかっていても人は損を確定させることを嫌います。大きな代償を払えば払うほど、満足するまで行動や思考を巡らしてあがきます。合理的ではないのですが、心理とは常に合理的に割り切れるものではないのです。

2. 脳は困難をごまかそうとする

パワハラの問題も構造は似ています。パワハラを受けた側は、その意味を見出そうとします。それだけ代償=痛みを受けているのだから、自分に対して何か得になったと思いたい。前向きで成長意欲が強い方ほど、現状を打破するために、そのような心理状態になります。

だから、「あれは自分を成長させてくれた」と脳がごまかしているのです。受けた痛みが「サンクコスト」だと思いたくないのです。痛みが大きいほど、成長によって取り戻せたと考えないと神経が耐えられないのです。

ところが、そのパワハラが続くと、人はやがて疲れてしまい、「学習性無力感」に陥ります。それまで脳がごまかしてでも困難を乗り越えようとしていたのに、その困難を乗り越えることを諦めてしまうのです。こうなると人格にまで影響してきます。自分の脳に騙されて、愛のムチを信じて指導した結果、相手の人格を破壊してしまう、これがパワハラの実態なのです。

3.甘くするのではなく、フォローする

そうなると必ず出てくるのは「じゃあ対応を甘くすれば良いのか」ということになりますが、そんなことはありません。

厳しい叱責は、一時的な効果を上げたい時には有効です。それが問題行動であることを身体に覚えさせるのです。例えば、ちょっとしたことで防げる単純ミスや、ケガや命に関わるような問題に対しては有効でしょう。同じ言葉を使ったとしても、そのシチュエーションでパワハラになったり必要な叱責になったりするということをまず心得てください。

そのうえで、対応を甘くするのではなく、フォローをすることを心掛けてください。言わなくてはいけない厳しいことの後に、「こういうところは良い」「こういう考え方は評価できる」と本人の褒められるポイントも合わせてフォーカスするのです。

叱りと褒めの割合について、1対6くらいがもっともパフォーマンスを上げる効果がある、という調査結果もあります。叱ったらその何倍も褒める、ということを意識することで、その印象はがらっと変わるということを認識してください。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
「厳しく育てられたから今がある」は脳がそう思い込ませているだけかもしれません。そんな脳に騙されて相手の感情を破壊してしまう前に、叱りと褒めの割合を意識してコミュニケーションを取ってみてください。

パワハラに悩む方、あるいは自分の指導方法に疑問を持っている方、お近くの社会保険労務士やカウンセラーといったこのような問題に詳しい方に、一人で悩まずにぜひご相談ください。

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