モンスター社員に「懲戒解雇にしてやる!」と叫んでしまう前に、懲戒解雇について知っておきたいこと
労務


どうしても困ったモンスター社員に対して、会社が切る最後のカードが「懲戒解雇」です。
では、皆さんは懲戒解雇という言葉にどのようなイメージをお持ちでしょうか。

おそらく、退職金も給与も一切払わずにその場で会社から出て行ってもらう、というところではないかと思います。
実は、各法律で「懲戒解雇」という言葉は出てきません。あくまで就業規則で定義される言葉なのです。そのため、イメージ通りの懲戒解雇を行うには、就業規則の制定が必須となります。
ここでは、実は曖昧な解釈をしている方が多い「懲戒解雇」について解説をいたします。

この記事の目次

1. 懲戒解雇でも、解雇予告は必要。

原則としては、懲戒解雇は就業規則が無いとできません。「懲戒」というルールが無いのに、懲戒解雇をするというのは矛盾が起きるからです。

懲戒解雇という言葉は法律ではありませんので、その言葉を使うこと自体は構わないでしょう。しかし、中身はあくまでただの解雇ということになるので、30日前の解雇予告を行うか、解雇予告手当を支給するかどちらかの対応が必要です。

さらに言えば、会社に解雇権はありますが、解雇権の濫用はできないことになっています。合理的な理由があり、社会通念上の相当性が解雇には必要になります。どんなに非違行為が悪質でも、本当に解雇が適当かどうか、という点においては、社会保険労務士や労働基準監督署に第三者的な目で確認をしてもらうことをお勧めします。

2. 就業規則があっても、解雇予告をしないなら労基の認定が必要。

では、就業規則上の懲戒事項に相当すれば、懲戒解雇できるのでしょうか。
実は、就業規則のある無しに関係なく、前節で解説した「解雇予告」を行わない即日解雇をしたいのであれば、労働基準監督署に「解雇予告除外認定申請書」を提出する必要があります。
参考:解雇予告除外認定申請/電子政府の総合窓口e-govイーガブ

この申請は必ず通るとは限りません。さらに一般的に認定には数日かかります。懲戒解雇というほどの事項であれば、経営者が怒って「即クビだ!」となりがちですが、きちんと手順を踏む必要があるということです。

もちろん、就業規則上の懲戒解雇を行いながら、手続き上は解雇予告除外認定を行わず、解雇予告を行う、という手順でも結構です。

なお、その解雇日までに働いた分の給与は、支給をする必要があります。退職金も規程にあれば、原則支給をする必要があります。退職金は懲戒に関係なく、それまで働いてきた恩恵に報いるものであるためです。もっとも、就業規則に「懲戒解雇の場合は支給しない」と記載してあれば、退職金を支給する必要は無いことになります。

3. 解雇の前に手順を踏むことが、トラブルを小さくする

解雇という宣告は、従業員にとっていわば死刑宣告に等しいと言えます。それだけ解雇はハードルが高いと心得てください。従業員とのトラブルで多いのも、この解雇の事案ということになります。
絶対に懲戒解雇できる案件というのは非常に少ないです。解雇のトラブルになった時は、起こした行為そのものだけではなく、その方の役職や責任の重さ、その業種、仕事環境など様々な要因によって、有効か無効かの判断が変わってきます。

そのようなトラブルを防ぐ手段として、解雇の宣告をする前に、書面での注意を繰り返してください。就業規則に懲戒規程があるなら、その手順に従って、懲戒解雇の前にある減給や出勤停止といった処分を行うことも有効です。懲戒処分をする前には、本人にもきちんと釈明させる時間を取り、公平な態度で臨んでください。

要は「注意喚起を何度も行ったが、改善されなかった」という客観的な事実が懲戒解雇という判断になった、というところに合理性を得られるわけです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
懲戒解雇という言葉は、あくまで就業規則上の用語です。
解雇を行うのであれば、法律に従った解雇予告を行うことが原則です。解雇予告の無い即日解雇を行いたいのであれば、労基署に解雇予告除外認定を受けてください。また、懲戒解雇はトラブルが多いので、解雇の前に注意をするという手順を取ることをお勧めします。

懲戒解雇となると、する側もされる側も冷静ではいられません。経営者ができることは、そんな自分を客観的に見てくれる社会保険労務士に相談することです。「お前なんかクビだ!」と叫んでしまう前に、一度ご相談ください。

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