ますます進展する少子高齢化を背景に、今後は政府が主導となって働き手の創出に目を向けていく必要があります。厚生労働省では多様な人材活用を実現すべく、精神障害者の円滑な採用と就職後の職場環境の整備に役立つ「就労パスポート」活用の仕組み作りに乗り出しています。さっそく概要を確認しておきましょう。
「就労パスポート」とは?
「就労パスポート」とは、障がい者が抱える障がいの状況、現場で必要な配慮、強みなどをまとめた資料のこと。厚生労働省は、精神障がい者の就職支援に役立てるために2019年度中の導入を目指しているとのことで、現在、労使や支援者を交えた具体的な議論が進められています。 現段階では「案」となりますが、具体的な内容は下記の資料よりご確認いただけます。参考:厚生労働省「精神障がいのある方等の就労パスポート(案)」
各支援機関ではこれまでも、独自に同様の書類を作成し、障がい者採用支援に役立ててきましたが、項目や書式が統一されていなかったとのこと。今後は政府が主体となって「就労パスポート」という一つの仕組みを作り上げることにより、より円滑な支援を目指す方針です。
現場において理解が得られにくく、職場定着率の低い精神障がい者
障がい者雇用促進法の改正に伴い、精神障がい者は、2018年4月より新たに法定雇用率の算定基礎に加えられています。しかしながら、精神障がい者は、身体障がい者や知的障がい者と比較すると、外見で障がいの程度や状況が分かりにくく、職場における理解を得にくい傾向にあるという課題が浮き彫りになりました。出典:厚生労働省「障害者雇用の現状等」
精神障がい者の職場定着率の低さは、政府資料でも明らかになっています。1年勤務後の職場定着率について、発達障がい者が71.5%、知的障がい者が68%、身体障害者が60.8%である一方、精神障がい者は49.3%と低迷していることが分かります。「就労パスポート」の活用により、精神障がい者を受け入れる側がその人に応じた配慮を把握し、現場において適切な支援を行えるようにすることが狙いです。
今後、法定雇用率未達成に伴う納付金支払義務の対象が拡大の見込み
今号でご紹介した「就労パスポート」の仕組み作りについては、2018年7月27日に取りまとめられた障がい者の雇用促進制度に関する研究会の報告書にて初めて盛り込まれた内容です。同報告書内には、障がい者の法定雇用率を満たせない場合の納付金支払義務対象を、現在の「従業員100人超」から「50 人規模以上」に拡大する旨も盛り込まれていました。この件についても今後の動向に注目が集まります。参考:厚生労働省「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」
まとめ
障がい者雇用については、職場体制の整備や雇用管理に頭を悩ませるケースも少なくないでしょう。しかしながら、事業者や他の従業員が障がいを正しく理解し、現場において適切な対応を実践することで、解決できる問題も少なくありません。ご自身の思い込みではなく、実例を元に、一つひとつ検討を進めましょう。参考:厚生労働省「障害者雇用の事例集」