2020年4月より、いよいよ中小企業にも「残業時間の上限規制」が始まります(大企業は施行済み)。これまで実質青天井だった残業時間に規制がかかり、違反すれば罰則もあります。数ある働き方改革の法案の中にあって、一丁目一番地とも言える法案ですので、その取り締まりの気合の入り方も違ってくるでしょう。
来年になってから慌てる前に、残業時間規制の中身を知るとともに、今から何を準備すべきか、解説をいたします。
1.残業時間の上限規制の内容を把握する
これまで残業時間について、実は法定ではなく、行政指導という形で決められた上限が「月45時間」でした。また、企業が労働基準監督署に従業員を残業させるときに提出する「時間外・休日労働に関する協定届(通称36協定)」に「特別条項」をつけることで、実質的に青天井に残業を認める制度になっていました。これを原則「月45時間、年間360時間(※)」を上限にすることが明記された、というのが大きな改正点です。考え方はシンプルです。
月45時間とはどういう働き方でしょうか。22日勤務の月で毎日2時間の残業をしていたとすると、それだけで月44時間でほぼ上限となります。このような会社は未だに多いのではないでしょうか。それだけ、今回の上限規制の影響は大きいということになります。
「特別条項」をつけることは可能ですが、特別条項をつけた場合でも規制があります。
①休日労働を含み月100時間以上
②休日労働を含み2~6ヶ月の平均で月80時間を超える
③年間720時間を超える
残業は認められません。②の場合は、どの月をスタートに区切っても平均して月80時間以内の残業時間でなくてはならない、ということです。
※例外となる職種もあります。詳細はこちらをご参照ください。
この残業時間の上限規制に違反すると、「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」という罰則規定もあります。
2.勤怠システムの導入は事実上必須
では、この残業時間の上限規制に合わせて、まず何を考えなければならないのでしょうか。ぜひ検討していただきたいことが勤怠システムの導入です。残業時間は勤怠を締めてみて初めてその実態がわかる、という会社も少なくないと思います。しかし、この規制により、「勤怠を締めてみたら、実は上限をオーバーしていた」では遅いのです。
月の途中であっても、残業時間の合計がわかることが大事です。例えば、月中なのに、既に40時間近い残業をしている社員がいたら、その後の働き方について、労使ともに、それ以上の残業をしないように調整をしなくてはなりません。
システムの導入というのは一朝一夕でできるものではありません。デバイスの選択から勤怠ルールの設定、従業員のトレーニングもありますので、数ヶ月単位でかかるものと見た方が良いでしょう。
最近だとスマホで打刻できるような安価なシステムも存在します。社員が5名、10名といった小規模事業であっても、これからはぜひ勤怠システム導入を今から検討してみてください。
また、残業を許可制にすることも大事です。社長の知らないところで社員が残業している、というケースも中小企業では散見されます。許可しない残業は認めない会社の風土を作るとともに、就業規則にも明文化しておくことで、社員が残業することに対して、今からそのハードルを高く上げておくことをお勧めします。
3.中小企業には調査が来ない?
このような話をすると、「うちみたいな中小はチェックされないから心配ない」とおっしゃる社長もいらっしゃいます。では、労働基準監督署が調査に来るのは、どのようなケースでしょうか? 多いのは「社員のチクり」なのです。
労働問題が以前よりクローズアップされ、インターネットで簡単にその情報が手に入る時代になっています。社長が考えるよりも、社員の労働者としての権利意識は高いと思っておいた方が良いかもしれません。
残業時間の管理が正しくできていないと、社員あるいは元社員から労働基準監督署に駆け込まれ、調査が入ります。企業規模の大小よりも、その逼迫度の方が労働基準監督署としてもその優先度は高くなります。
当然、備え付けが義務付けられている出勤簿の提出は求められるでしょう。結果として勤怠管理ができていないと、すぐに罰則はなくとも、是正勧告されることは間違いありません。そのうえで追加の残業代を払わなければならないリスクもあります。
企業規模に関係なく、勤怠管理をしていないことは、今後大きなリスクとなります。 この残業規制をきっかけとして、ぜひご自身の会社の勤怠をどのように管理するのか見直していただきたいと思います。
まとめ
残業の上限規制は中小企業でも来年から始まります。勤怠システムの導入や残業の許可制などを、今からでも検討を行うことをお勧めします。中小企業でも勤怠管理を行わないことは、今後大きなリスクになると心得てください。
特に40代以降の年代の社長にとって、寝食を忘れて仕事に打ち込んだ経験がある方は少なくないと思います。もちろん、その経験は尊く貴重なものではありますが、その働き方を社員に求めることは大きなリスクになります。
少し寂しい気持ちがあることを理解しますが、時代の流れと認識して、勤怠管理に取り組んでいただきたいところです。お困りごとがあれば、社会保険労務士にお気軽にご相談ください。