2017年10月1日に施行された改正育児・介護休業法により、育児休業は最長で「子が2歳になるまで」の間、取得できるようになりました。働く親御さんにとっては非常に心強い改正ではありますが、一方で、育児休業をなるべく長く取得したいという希望から、「当初から落選狙い」「内定しても辞退」といった入園申込が横行しているとの報道を見聞きすることがあります。
事業主の皆様におかれましては、育休延長申請時に提出される「保育所入所保留通知書」の内容を確認し、育休延長の対象者にあたるかどうかを正しく判断することで、適切な制度運用を心がけてまいりましょう。
参考:SHARES LAB「育休最長「2年」は今年10月から ! 改正育児・介護休業法まとめ」
育休を延長できる対象者とは?
育児・介護休業法の改正を受け、現状、「育休を2年まで取得できるようになった」という部分だけが独り歩きし、制度本来の目的や育休延長に関わる正しい要件までは十分に周知されていないようだと感じられることは少なくありません。育児休業を取得できる期間は、改正法施行後の今も、原則「子どもが1歳になるまで」です。 ただし、例外的に下記の休業延長措置が認められます。
✓ 1歳になる時点で保育所などに入所できない等、雇用の継続のために特に必要と認められる場合に限り、
1歳6ヵ月まで延長できる
✓ その後1歳6ヵ月になる時点でもなお、状況が改善されない場合に限り2歳までの再延が可能となる
育児休業の延長は、あくまで例外的な取り扱いです。従業員が、「2年間、育休を取得します」と希望を出したとしても、延長に必要な要件が満たされない以上、会社は申し出を受け入れる必要はありません。
育休延長申請時に提出される「保育所入所保留通知書」 確認すべきポイントは?
育休2年取得を目的とした保育園入園申込として問題になっているのは、下記のようなケースです。
×育休延長を目的に、保育園などへの入園の意思がないにも関わらず、あえて入園倍率の高い保育園のみに
入園申し込みを行う
×第一次申し込みの際に内定が出ても辞退し、あえて第二次申し込み以降で別の園を希望して落選する
後者の事例については、落選を知らせる「保育所入所保留通知書」に内定辞退の旨が付記されることがあります。よって、こうした付記がなされた「保育所入所保留通知書」が労働者から提出された場合、事業主が保育園などの内定を辞退した理由を労働者に確認し、やむを得ない理由がないと判断できる場合には、育児・介護休業法に基づく適正な申出にはあたらないものとして取り扱う必要があります。
また、育児休業給付金の申請の際、ハローワークは、保育所などの内定を辞退した理由を労働者本人に確認することとし、やむを得ない理由がない場合には育児休業給付金は支給されません。
参考:厚生労働省「「育児休業」の延長を予定されている労働者・事業主の皆さまへ」
2022年より、各自治体では「落選狙い入園申込」への対策を開始
いわゆる「落選狙い」の保育園入園申し込み対策として、厚生労働省からは2019年2月7日付で各自治体宛に運用上の工夫を求める文書を出しています。2020年度の入園申込より、対応を求める方針です。具体的な対応案として明記されている内容は、下記のとおりです。
① 申込者の内面の意思を外形的に確認するため、利用申込書に、「直ちに復職希望」「希望する保育所等に入所できない場合は、育児休業の延長も許容できる」との選択肢を設ける
② 「希望する保育所等に入所できない場合は、育児休業の延長も許容できる」について選択した者については、利用調整に当たっての調整指数を減点する
③ その結果、当該項目を選択しなかった者については、優先的に取り扱われることで、希望する園に入れる可能性が高まることとなる
参考:厚生労働省「育児休業・給付の適正な運用・支給及び公平な利用調整の実現等に向けた運用上の工夫等について」
必ずしも上記の通りに対応しなければならないわけではありませんが、各自治体には状況に応じた工夫を講じることになります。
まとめ
少し前までは、都市部を中心に高まる保育園入園倍率が問題になっていましたが、法改正以降はむしろ「まだ入園させたくない」と考える親御さんも増加傾向にあるという状況。何とも奇妙な状況ですが、子を持つ母としてはどちらの気持ちも理解できるため、複雑な思いです。しかしながら、「適切な制度運用」の観点から「落選狙い」は確実に是正されるべきですし、人手不足が問題化している現場においても早期の復帰が望まれるところでしょう。
事業主責任として、育休延長申請時の要件確認を徹底してまいりましょう!