所得税と社会保険の扶養の違いは何か。混乱しがちだけど担当者なら押さえておきたいツボを解説します。
労務


会社の手続きの中で「扶養に入れる」という言葉があります。普段手続きをされない方だと、実は扶養には所得税上の扶養と社会保険の扶養と2種類あることを意識されていることは、それほど多くないように思えます。

何となく「扶養に入れてほしい」と言われると、手続きをする担当者としては少し困ってしまいます。ここでは、混乱しがちな「扶養」について、所得税上と社会保険上の違いを明確にしていきます。

この記事の目次

1.所得税は「年」で、社会保険は「今後の1年」で判断する

扶養に入る方(例えば、専業主婦になるために夫の扶養に入るケースであれば、妻の方)のことを被扶養者と言います。 一般の方が一番気にされるのは、被扶養者の年収要件ではないでしょうか。

まず、金額の基準が違います。
給与収入であれば、所得税は103万円以下、社会保険は130万円未満であるということが前提です。
では、この金額はどのように計算されるのでしょうか。

所得税の場合は、その年の1月~12月の金額で最終的に判断されます。つまり、最終的に扶養に入るかどうかは、12月で年収を正確に計算しないとわからないということです。年収は年末調整(確定申告)時に役所側で把握できていますので、もしも間違って扶養に入れない人を扶養に入れてしまった場合、後から督促が来ることになります。

社会保険の場合は、今後1年間の収入「見込み」で判断します。1年後に実際の給与金額の結果を求められるわけでもないので、所得税に比べると、少し緩いとも言えるでしょう。

なお、年収要件については、年金の場合は違う計算をしたり、扶養する側の年収によっても変わってきたりすることがあります。詳細は、税務署や年金事務所でご確認ください。

2.手続きは社会保険から行う。

扶養に入る手続きは社会保険から行います。健康保険被扶養者異動届及び国民年金第3号被保険者関係届(配偶者を扶養に入れる場合)を提出します。一般的な様式では、この届は1枚の用紙にまとめられています。作成したら所轄の年金事務所および(協会けんぽではなく)健康保険組合に加入している場合は健康保険組合に、届出を提出します。

社会保険関係については、健康保険証の発行が必要になりますので、速やかに届出まで行っていただくことになります。

所得税上では、扶養控除申告書を記入して、会社に提出します。しかし会社側はそれを税務署などに提出する必要はなく、保管しておけば良いことになります。年末調整時にその扶養控除申告書を従業員に一度返却して、修正があれば従業員が修正をして再提出する、というのが一般的な流れになります。最終的に扶養控除申告書は会社で保管されます。

3.所得税と社会保険の扶養の違いはこんなにある

その他、ぜひ認識しておきたい所得税と社会保険の扶養の違いをまとめてみました。

社会保険と所得税の扶養要件の違い

所得税(控除対象) 社会保険
被扶養者の収入要件 38万円(年間所得。給与収入だと103万円) 130万円(年間収入。60歳未満の場合)
扶養者との収入関係 年間所得1,000万円(給与収入だと1,220万円)で配偶者控除不可。 扶養者の収入の半分未満であること
失業保険、傷病手当金など 収入に入れない 収入に入れる
扶養の開始 年単位で収入要件などの扶養判定を行い、その年の1月1日から1年間扶養対象かどうかを決定する。 収入要件などで、扶養になると見込まれる月から扶養対象となる。
範囲 6親等内の血族と3親等内の姻族 3親等内の親族
同居・別居 同居が原則。一時的な別居は可(学生の仮住まいなど)子、孫、兄弟姉妹、父母、祖父母は同居していなくても可。3親等内の親族は同居していることが前提。
内縁の配偶者 不可
被扶養者の年齢 その年の12/31時点で16歳以上(中学生以下は児童手当の対象となるため控除対象とならない) 75歳未満(75歳以上は後期高齢者医療制度の対象となるため被扶養者にならない)
通勤手当非課税分を除く 入れる
給与への影響 安くなる変わらない

まとめ

いかがでしたでしょうか。 このケースだと、一方で扶養対象だが、もう一方で扶養対象外というケースが出てくることがわかると思います。

特に注意したいのは、社会保険の扶養対象で所得税の扶養対象外になるケースです。この場合は被扶養者異動届の手続きの際に、被扶養者の収入の確認を求められますので、事前に被扶養者側の契約書を入手しておくなどしておきましょう。

今回記載したことは基本的な要件となりますので、詳細でお困りのことがあれば、税務署や年金事務所で確認をすることをお勧めいたします。

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