台風のシーズン真っただ中です。日によっては、台風によって会社に来られない日があったり、公共交通機関への影響を考慮して、早目の帰宅を命じたり、ということがあると思います。では、ここで休業となった時間の賃金はどうなるのでしょうか。
ここでは、天災により就業できなかった時間の扱いについて、解説をいたします。
1.原則的には「ノーワーク・ノーペイ」。働いていない時間に対して給与は発生しない。
「ノーワーク・ノーペイ」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。働いていない時間に給与を発生させる義務はないことを表します。給与計算の大原則です。本来、就業すべき日・時間に労務が提供できないケースというのは、以下のように分かれます。
①労働者側の責によるもの(遅刻、病気など)
②使用者側の責によるもの(会社で使っている機械の故障など)
③天災事変など不可抗力で労使双方に非が無いもの(台風など)
うち、①の場合はもちろん、③の場合でもこのノーワーク・ノーペイの原則は適用されます。例えば、台風によって公共交通機関が遮断され、出勤できないというのは不可抗力であり、そこに賃金を発生させる義務は使用者側に無いのです。
この不可抗力とは、
(1)その原因が事業の外部より発生した事故であること
(2)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること
の2つの要件を満たすものでなければならないと解されています。
2.使用者側の責であれば「休業手当」を発生させる必要がある。
では、使用者側の責によって就業できない場合はどうなるのでしょうか。その場合は労働基準法第26条により「休業手当」を支給する必要があります。休業手当とは、平均賃金の100分の60以上の手当のことです。例えば、台風で公共交通機関が止まりそうだから、終業時間より早く労働者を帰宅させたとします。この場合、問題となるのは通勤であって、就業そのものは可能なはずです。そうすると、就業できない理由が「不可抗力」とまでは言い難く、使用者の責で早く帰宅させたことになります。つまり、休業手当の支給が義務となります。
休業手当は、「本来の給与の6割支給していれば、その日の生活は何とかなるでしょう」という考え方になります。つまり、1日分の休業手当と、実際の就業で支払う比較して、賃金の高い方を支給することになります。
例として、時給換算1,000円の社員で所定労働時間8時間だったとします。
この場合、1日分の休業手当は1,000円×8時間×100分の60=4,800円です。
台風接近に伴い始業後6時間で早めに帰宅させた場合、給与は6,000円になり、実際の給与の方が高いので、追加の給与を支給する必要はありません。この日の給与は6,000円になります。
一方で、始業後4時間で帰宅させた場合、給与は4,000円になり、休業手当の方が高いので、休業手当4,800円-実際の給与4,000円=800円を追加支給する必要があります。この日の給与は4,800円となります。
逆に言えば、この社員が月給制だった場合、勤務していなかった時間として、始業6時間後に早めに帰宅させた場合で2,000円、4時間早めに帰宅させた場合でも3,200円をノーワーク・ノーペイの原則に従って控除しても構わない、ということにもなります。
3.理屈と感情のバランスを考える。
上記の計算を「面倒くさい」と感じた方も多いのではないでしょうか。実際、この不就労分を厳密に差し引くことは実務上とても煩雑です。台風のような天災は使用者側にとっても不可抗力であると同時に、労働者側にとっても不可抗力です。法的な要請で支払い義務がなくても、労働者が天災を理由に賃金を減らされたとしたら、それはモチベーションに影響しても不思議ではありません。
労働者の感情にも考慮すると、天災時にもある程度給与の補償をするようにした方が良いのはもちろんですが、法定通りに差し引く場合でも、普段からそのルールを浸透させておくことが望ましいでしょう。
事前に聞いていたルール通りに給与を差し引かれるのと、後から「え、無給だったの?」と思われるのとでは、会社に対する印象が全然違います。このことは、天災時の給与の取扱いだけではなく、普段から就業規則など会社で作ったルールを従業員に意識させられているか、ということにかかっています。
TwitterなどのSNSでは、天災時の会社の対応で、労働者が会社をブラックかどうか判断しているケースがよく見られます。どのような対応を行うにせよ、社員の納得を得られるように経営者としては注意を払ってください。
まとめ
原則は「ノーワーク・ノーペイ」であり、台風により公共交通機関が止まって出勤できないような場合に、会社は賃金を支払う必要はありません。しかし、台風により早目に帰宅させるような場合では、最低でも「休業手当」を支払う必要があります。もっとも、天災は労働者にとっても不可抗力である以上、労使間できちんと話し合いのうえルールを作ることが望まれます。
天災はいつやってくるかわかりませんが、会社が続く限り、いつかどこかでそれに当たってしまう可能性は高いのです。備えあれば憂いなしとは、備蓄品のことだけではなく、このようなルールも当てはまります。ルールを作成するにあたり、自社だけで判断できなければ、お近くの社会保険労務士にもぜひご相談ください。